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日本国は手を抜けない  作者: 大鏡路地
勝利と敗戦、そして日本分裂
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日本国は手を抜けない(2)

 昭和二〇年(西暦一九四五年)二月十一日、鈴木貫太郎臨時内閣は東京湾に入港した米海軍戦艦「ミズーリ」の艦上で、正式に「条件付降伏」文書に調印。大日本帝國はナチス・ドイツに約三ヶ月余り先んじて降伏し、大東亜戦争という侵略戦争(それ以外に表現のしようがない)に一応のピリオドを打った。

「一応の」としたのは勿論、朝鮮と満洲には対連合国、分けても戦争状態にあった米英との徹底抗戦を掲げる主戦派一派の、「大日本帝國臨時正統政府」が存在し、中国大陸に展開していた部隊の殆どがそれに合流していたからである。

 既に国家としての破断界にある鈴木貫太郎臨時内閣率いる「大日本帝國正統政府」に、到底それを鎮圧する余力が無いことは連合国も理解していたので(何しろ恥も外聞も捨てて、降伏の発効と同時に掃海活動・燃料食糧の援助・国有財産を叩いての借款の申し入れをしたレベルで、軍事的にも民生的にも財政的にも破綻していた)、大日本帝國臨時正統政府のことは「悪しき軍国主義者」、大日本帝國正統政府のことは「正道に立ち返った勇気ある人々」として区別した。

 とは言え、ド本命の欧州正面では未だに対独戦が継続しており、アジア太平洋の広大な地域に進駐した連合国(米国)に、満洲・朝鮮に引き篭もる百万もの大軍(後世の視点からするとその時点では実態は大したことが無かったのだが……)を相手にする力は無かった。

 マリアナ・レイテで永遠に天国へと転属した二〇万の兵士が居れば話は別だったかもしれないが、無いものは無かった。

 そもそもアジア太平洋地域のメインディッシュは中国大陸(中華民国)であり、ルーズヴェルト政権を担っていたニューディーラー達は、実態が明るみになるにつれて「ひ弱」で「旨味が無い国」だったと判明した「日本列島の大日本帝國」のことなど放り出して、中国大陸の占領行政(改革解放)に乗り出していた。

 何しろ中国大陸は広大である。日本列島のことなど片手で足りるが、中国大陸にはそこもかしこも全てがニューディーラーにとっては「未開拓」な土地が幾らでもあり、人の手は幾らあっても足りることは無かった。各種利権を進駐軍に押さえられ、送り込まれた「政治顧問」によって手足を封じられた蒋介石は文句を言ったが、全期間を通して日本軍に負け通していたと言える中華民国を、連合国が対等な相手として尊重する筈も無かった。

 中国大陸南方から秩序立って撤退した「大陸日本軍」を追う様に中国大陸南部から順に進駐した米陸軍に対し、米海軍はアジア太平洋各地のチョークポイントを抑えながら元々の現地政府に――つまり、そこが植民地であれば植民地政府に、独立国家であれば連合国側に居た自由政府に――民政移管しつつ、来る次の対立に備えて「列島日本軍」の改革に乗り出した。

 具体的には「旧式艦艇の戦時賠償名目での接収」「長距離渡洋攻撃戦力(陸上攻撃機、航空母艦)の接収・解体」「アホになるほど作った米国製兵器での装備更新(米国兵器への規格統一)」である。

 何しろその頃(五月)になると、ヨーロッパではポーランドのヴィスワ川を境界線に東西に分かれて、連合国軍同士が「ポーランドを統治すべき自由政府の帰還」を巡って対立が表面化していた。

 米英はそもそもの開戦の発端であるナチス・ドイツのポーランド侵攻に際しポーランドから脱出した、自由ポーランド政府がポーランド全土に復帰すべきだとしていたし、対してヴィスワ川から東を占領下に置いたソ連は、「現地民が自発的に発足させた自由民主政府」がポーランド全土を統治すべきだとして、従来の独波国境までの米英軍撤退を求めていた。

 更に中国大陸では、国民党と共産党が合作を解消。共産党の手引きでソ連軍が新疆に雪崩れ込んで東進しつつあり、長江以北ではそれを制止しようとした国民党軍が各地で敗退を繰り返していた。

 満洲・朝鮮の「大陸日本軍」は「祖国奪還」を掲げて満洲国の麾下に入り(実態は大陸日本軍が満洲国の実権を握っており、形式上、満洲国皇帝溥儀の権威を尊重したに過ぎなかった)、ソ連に備えつつも中国大陸随一の工業力をフル回転して、不気味な軍拡を行っていた。

 詰まるところ、実際に表立って国家間で干戈を交えていないだけ――飽く迄も国民党と共産党の戦いは内戦である――で、第二次世界大戦の延長戦が東アジアでは続いていたと言えるだろう。

 そしてある種奇妙なことに、本来ソ連と相容れない不倶戴天の敵であるはずの「軍国主義日本人」に乗っ取られた満洲国を、ソ連が国家承認し、ソ満不可侵条約を締結して事実上の軍事同盟を組み、また長江以北の大部分を共産党が押さえ、中華ソビエトから中華人民共和国と名を改めてソ満両国がこれを承認したことで、この第二次世界大戦の延長戦は、次のステージへと進むことになる。

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