表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本国は手を抜けない  作者: 大鏡路地
戦乱の時代
11/24

日本国は手を抜けない(11)

 トンキン湾にフランスの機動部隊が遊弋する様になった直後から、南シナ海に於ける海賊被害は激増した。

 言うまでもなくその海賊に支援を提供しているのが、フランス機動部隊の支援を受けたベトナム民主共和国であることは、討伐された海賊がフランス製兵器で武装していたという状況証拠からしても明らかであり、周辺諸国は批難の声を浴びせかけたが、馬の耳に念仏であった。南シナ海航路を必要とするフィリピン、台湾、そして日本国は協働して海軍部隊による船団護衛で当座の被害を抑制すると共に、結成されたばかりの国際連合常設平和維持軍(UNPPF)の派遣を要請した。

 が、それに先んじて昭和三十五年(西暦一九六〇年)三月一日、フランス軍はソ連から技術供与を受けて開発に漕ぎ着けた核兵器の爆発実験を、予告無く西沙諸島に於いて敢行。偶々風下に居て、大量に巻き上げられた「死の灰」を日本の漁船が被曝し多数が死傷するという事件(第五福竜丸事件)が発生すると、事態はUNPPFが介入する前に、激昂した日本国民の世論に押される形で、仏越ソ・対・日台比のホット・ウォーへと突き進む。

 第一ラウンドである南シナ海の制海権を巡る戦い自体は、第二次中東戦争で壊滅後に再建された仏機動部隊に対し、日本国海上自衛隊は空母機動部隊の艦載機による空襲を装った航空撃滅戦を仕掛け、敵艦載機が気を取られた間隙を衝いて射点に着いた日台比の潜水艦部隊の、対艦同時飽和雷撃戦により仏機動部隊に壊滅的な打撃を与えた後、仕上げとばかりに突撃した、海上自衛隊の戦艦「しなの」率いる水上打撃部隊による滅多撃ちに遭った残存艦艇(※戦艦「ジャン・バール」)の降伏により終結したが、本番はこの後の第二ラウンド以降だった。

 制海権を失った仏越ソは徹底抗戦を宣言し、ベトナム民主共和国に展開した仏ソ義勇航空隊が、新兵器である対艦ミサイルを用いて、南シナ海の航路を脅かした。中でも、海上自衛隊の空母「ふよう」が、防空の為全艦載機が釣り出された所に対艦ミサイルを被弾し大破炎上したことは、軍事史的にも大きなターニング・ポイントとなった(通称「空鍋事件」)。

 泥沼化する第二次インドシナ戦争に対し、米国がアホほど保管していた大戦型駆逐艦などの供与を受けたUNPPFが、昭和三十七年(西暦一九六二年)から割って入り、南シナ海を東経百十五・五度線を境に互いの戦力を引き離す回廊を設定して、一旦は戦争は鎮火へと向かった。互いに戦力を南シナ海に張り付け、時折UNPPFの監視の目を潜った「お行儀の悪い」戦闘機同士の空中戦は起こったものの、全体としては小競り合いに終始したと言える。

 しかし翌年、仏越ソ連合軍はインドシナ半島の完全赤化(インドシナ半島革命の完遂)を目指して隣国ラオスとカンボジアへ侵攻を開始。これにより戦力引き離し回廊に居たUNPPFはタイランド湾へと移動した為、戦力引き離し回廊は自然消滅。南シナ海は再び戦場と化した。

 一方新たな戦場となったラオス・カンボジア戦線では、地上侵攻するベトナム民主共和国軍に対し、UNPPFに戦力を供出しその幕下で戦うことになった米陸軍が、新兵器であるヘリコプターを用いて上空から敵の後方に回り込んで撹乱する機動戦と、多連装ロケット砲による圧倒的な砲兵戦を展開して其処彼処でベトナム軍を散々な目に遭わせていた。

 特に戦場で目立ったのは世界でも米ソしか真似出来ない、「地形を変える(※実際に変えてしまった)」ほど多用された火砲の一斉射撃で、一般の耳目もそちらへと集中したが、軍事史的にはヘリコプターによる陸空一体型の機動戦の方が重要である。

 従来、歩兵を敵後方に送り込むには、空挺部隊という特別に訓練されパラシュート降下を会得した兵士と制空権、そして比較的大型の輸送機、そして降下先の詳細な情報が必要だったが、ヘリコプターという兵器の登場により、より簡易な訓練で、より容易かつ迅速に任意の場所に、現場判断で着上陸が可能となった。これは革命的な出来事であると同時に、かつてゲリラ戦によってフランス軍を打ち破ったベトナム軍のお株を奪うやり口でもあった。

 何しろそのベトナム軍は、得意としている筈のゲリラ戦法を投げ打って、地上侵攻により歩兵で地道に占領地を保持しており、為に実質的には米軍であるUNPPFが仕掛ける機動戦(ゲリラ戦)に対応できなくなっていたのだから、歴史は実に皮肉が効いていると言えるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ