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日本国は手を抜けない  作者: 大鏡路地
勝利と敗戦、そして日本分裂
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日本国は手を抜けない(1)

 昭和十九年(西暦一九四四年)六月、マリアナ沖海戦に於いて、日本海軍は基地航空隊との協働同時飽和攻撃により米海軍機動部隊を封殺。その間隙を突いて上陸船団を捕捉した戦艦部隊により、米軍のマリアナ諸島侵攻は頓挫した。

 しかしながら、日本海軍の側も無傷では済まず、空母機動部隊は純軍事的表現に於いて「全滅」。水上艦艇に対艦攻撃を実施可能な搭乗員の損耗著しく、また大型艦艇の補修能力も追い付かない大日本帝國の国力では到底、近々に行われるであろう第二第三のマリアナ侵攻までに戦力を回復し、正攻法で防ぐことが出来ないことは明白であった。

 ことここに至って、大本営は「絶対国防圏」マリアナ諸島の保持に拘泥するのではなく、マリアナ諸島に敵(重爆)部隊が有意な規模で展開した所を、戦闘機で固めた空母航空隊が確保する限定的制空圏下を戦艦部隊で突進して飛行場諸共に薙ぎ払うという、積極的なのか消極的なのかよく分からない戦法に切り替えることとした。

 勿論、そんなことは国力に物を言わせて暗号解読に成功していた米国の方もお見通しであり、米軍はマリアナ諸島を潜水艦で封鎖して無視し、大日本帝國が戦争を続ける生命線となっている南方航路を締め上げにかかった。

 即ち、同航路を守っているフィリピンの攻略である。

 同年十月、マリアナ沖海戦の損害を回復した米軍はフィリピン諸島・レイテ島に侵攻。フィリピン諸島の防衛を担当し同地に莫大な戦力を積み上げていた日本陸軍と、壮烈な地上戦・空中戦を繰り広げ始めた。

 これを支援する為、損傷修理を終えていない艦艇も無理押しして出撃した日本海軍は、フィリピン諸島西方からスリガオ海峡を経てレイテ島に戦艦部隊を突入させることに成功。レイテ島タクロバンに居た米侵攻軍十万を、同軍司令官マッカーサー元帥諸共に艦砲射撃で薙ぎ払った。

 その戦果が齎した効果は絶大だった。

 具体的には、「無条件降伏」という過酷かつ常識的ではない降伏条件を大日本帝國に突き付けた張本人、ルーズヴェルト米大統領を敗戦のショックの余り心臓発作で死に追いやってしまう程だった。

 そして飽く迄も「本命」である欧州戦線ではなく、太平洋戦線に於いて半年間に積み上げられた二〇万もの戦死者(しかもその大半は亡骸さえ見つからない)という数字は、文明国家として余りにも進み過ぎていた米国社会にとって、到底許容出来るものではなかった。

 副大統領から大統領へと昇格したウォレス新米国大統領は、英国と図って無条件降伏を撤回すると共に、大日本帝國の外交筋と接触を開始。

「大日本帝國自身が自ら戦争へと突き進んだ原因(≒軍部)を処し」、「アジア太平洋地域の秩序を回復し」、「非軍国主義的な憲政の常道に回帰し再発防止策を講じる」のであれば、大日本帝國が死に物狂いで戦う原動力となっている「無条件降伏」という苛烈極まる要求を撤回し、国体(天皇制)については「日本国民自らの判断に委ね」「公正な手続きの監視の為適切な連合国の戦力を進駐させる」という条件で合意した。

 この動きは当然、主戦派を占める軍上層部を無視して、場末に追いやられていた親英米の和平派・非戦派、そして宮中からの意思によって行われたものであり、つまり言うなれば、ほぼ非合法的な動きであった。

 昭和二〇年(西暦一九四五年)一月二日、ウォレス新大統領が「無条件降伏の撤回」というカードをオープンにすると同時に、帝都周辺の海軍部隊と一部の陸軍部隊、並びに近衛師団の一部が、昭和天皇の宣旨を手に行動を開始。

 これに対し主戦派や大本営の主だった面々は敢え無く捕縛の憂き目に遭ったものの、一部が包囲網を擦り抜けて関東各地の飛行場などから朝鮮へと脱出に成功。大日本帝國臨時正統政府を名乗って大東亜戦争の完遂を掲げ、事態収拾の為の戦線整理として地続きの中国大陸に展開する陸軍部隊の満洲・朝鮮への移動を発令。追って帝都を制圧し鈴木貫太郎を内閣総理大臣として擁立したクーデター側も、現所在地点での部隊移動の停止・停戦・武装解除の詔勅を発した。

 この結果、主として中国大陸の部隊の大半と海軍艦艇の一部が満洲・朝鮮へと移動を開始。それ以外の地域の部隊については素直に武装解除に応じるものと、その場で徹底抗戦を決め込むものとに対応が分かれた。

 分かれたが、鈴木貫太郎臨時内閣は徹底抗戦を決め込んだ部隊については「勅命に従わない賊軍」と看做し、連合国軍に対応を委ねた=撃滅されたので、事態は沈静化した(当局発表)。

 こうして大日本帝國は二つに割れた訳であるが、連合国は天皇擁する日本列島のクーデター政権側を正統政府として扱い、アジア太平洋各地で武装解除に応じた日本軍占領地域に速やかに進駐していくと同時に、武装解除に応じなかった日本軍部隊を掃討していった。

 掃討された日本軍兵士らは、自分達を見捨てる形となった祖国への、強い怨みを抱いて死んでいった。

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