7.悪友
亮ちゃん、受難です
同じクラスの河南佑月に無理やり手を引かれ、亮子は六本木のクラブなるものに来ていた。
途中、地下鉄のトイレで無理やり着替えさせられ、化粧をされた。下にアンダーショーツを履いているものの、太もも丸出しのプリーツスカートに、スカートの裾まで届くオーパーサイズのニット。しかもご丁寧にオフショルダーになっている濃いピンク色である。ずるずると肩が落ちるたびに、中に着ているタンクトップが見えてしまい、落ち着かないことこの上なかった。
「佑月い、帰ろうよう……」
混み合う店内で、亮子は端へ端へと逃げていくが、その度にフロアの中央に引きずり出されてしまう。佑月は慣れたもので、下着が見えそうなニットのミニワンピースを見せびらかすように、体を伸ばして踊っている。
「おいら帰りたいよ」
「何で、亮ちゃんメッチャ可愛いのに。今日はさ、瀬良田先輩達が仕切る日なんだよ。もうすぐ始まるからさ、もうちょっと付き合ってよ。1人じゃ心細いんだもん」
「仕切りって何だよ。ここ、先輩の店ってわけじゃねぇだろ」
佑月は呆れたような顔をして両腕を腰に当てた。
「あのね、先輩たちDJとしても活躍してて、このクラブでも月に何日か、先輩たちがイベント組む日があるの。瀬良田さん、ダンスもやるから、絶対見てよ。チョー格好いいから」
「そうかぁ? 」
あの、ダボタボした服着て、やたら回転したりバタバタとステップ踏んでバク宙したりするアレだろ……興味ないとばかりに、亮子が再び端へ逃げた時だった。
「やめてよ……」
すぐそばの壁に、自分たちと同世代の女の子が男に追い詰められていた。男は、濁った目でしつこく女に挑みかかり、太ももに手を這わせていた。
思わず亮子が一歩踏み出した時、男が女の口にカプセルらしきものを放り込んだ。
「これが欲しかったんだろ」
「あたし、これ嫌いなの! この前ゲロ吐いたんだもん」
女がカプセルを吐き出すと、男はそれを拾い、女の長い髪を鷲掴みにして引き摺っていった。
「まずい……」
亮子は佑月に呼ばれているのも構わず、人ごみを押し退けるようにしながら2人を追った。
男はトイレに女を放り込んだ。無様に前のめりに転んだ女は、四つん這いのまま男に尻を突き出す姿勢となった。男は笑いながら女のスカートを捲りあげ、下着を剥ぎ取ろうとしていた。
「この変態野郎!! 」
亮子が華麗なる飛び蹴りを食らわすと、なんと男はポケットからカプセルをいくつも取り出し、口に放り込んでしまった。足元に転がってきたそれを、男を睨みながら拾い、亮子はポケットにしまった。警察官の娘の本能で、もし何か事件になったら、これを父か兄に鑑定してもらおうと考えていた。
「逃げな」
女をフロアに逃がし、見る間に顔を紅潮させていく男に、亮子は迎撃の体勢をとった。
その時、フロアの方で悲鳴が上がった。
「警察だ、全員動くな!! 」
警察……その言葉を聞いて亮子は震え上がった。今はまずい、まずい、まずい……。
「亮ちゃん! 」
すると、佑月がトイレに飛び込んできて亮子の手を掴んだ。目の前の男はフラフラと床に腰を落としてしまっている。
「瀬良田先輩が、こっちに逃げ道があるって……早く」
瀬良田志信とかいう整った顔立ちの男が、佑月の後ろに立っていた。焦る風でもなく、ニヤリと亮子に笑いかけると、トイレの隣のスタッフルームに2人を招き入れた。
スタッフルームに積み上がるビールケースを退けると、何と隣のバーの厨房と繋がっていた。
慎重に勝手口から外を伺い、3人は忍び足で裏通りに出た。
表の喧騒からは想像もつかない、静かな一方通行の裏通りには、警官らしき影はなかった。
「ここで別れよう。この事は内緒にね。また、誘ってあげるよ、タダで」
「いや、もう結構だ。佑月のことももう構わないでくれ。警察が踏み込むなんて尋常じゃねぇわ。おいらはこんなチンケな遊び、興味もねぇし面白くもねぇし」
「ちょっと、亮ちゃん、そんな言い方やめて」
「いい加減にしろよ、佑月。こいつ変だぜ。やい瀬良田、さっきの男が飲んでたカプセル、あれヤバイやつだろ。おまえが回してんのか? 」
佑月を背中に隠すようにして対峙する亮子に、志信は呆れたように肩を竦めた。
「佑月ぃ、格好いい王子様がいるんじゃないかぁ……こいつ、あの孔明の妹だろ。面倒な奴連れてきやがって、使えねぇんだよ、このブス! もう俺に関わるんじゃねぇわ、胸糞悪っ」
捨て台詞とともに、志信は灯りも差さぬ裏通りの奥へと走って消えていった。