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14.レイモンド・タン陥落

後のシリーズで雌雄をを決することとなる、というか鸞に執着しまくるマフィアのおじさん、登場です



 大規模な銃の取引に備え、四谷署の組対課と警視庁暴対課及び薬物銃器対策課は、SATのバックアッフの元、雨の中虎視眈々とその時を待っていた。

 品川第三埠頭。広域指定暴力団である六曜会の関東支部・六曜産業の幹部連中は、まだ到着していないが、相手の中国人マフィアはもう倉庫に入っている。六曜会の末端の組が四谷署管内に事務所を構えており、取引の情報を掴んだのは霧生久紀以下四谷署の面々である。しかし雨の中を長時間待たされ、罠かと何度も訝りながらも、捜査員達はじっと息を殺して配置場所から六曜産業のフロント企業名義の倉庫に注視していた。


「南東から黒塗りのベンツが二台、レクサスが二台、BMWのSUVが二台、こちらに向かっています」

 鸞のインカムに緊張感に満ちた報告が入った。そのインカムにも、髪を伝って雨水が落ちる。すっかり濡れそぼった姿で、隣にいる強面の捜査員に指で合図をした。

 報告通りの車列が、ゆっくりと口を開けた倉庫のシャッターの奥に吸い込まれていく。最も近い場所に潜んでいた鸞の班が、そのシャッターが下りるより早く、中の暗がりへと滑り込んだ。

 奥にも、同様の黒ずくめの車が3台あり、最も大きなリムジンタイプの後部席から、キャメルのコートを肩にかけた男が降り立った。背が高く、イギリス人の血を半分受けたというその顔は中国人にしては彫りが深く、瞳は琥珀色をしている。

「間違いない、レイモンド・タンだ。現認した」

 和やかに挨拶を交わす連中の会話に紛れるように、鸞が、頭の中のデータとすり合わせ、中国側の人着、六曜産業側の人着を正確に報告した。

 中国側のSUVから、ワインの木箱が三つ取り出された。六曜産業の若手がバールで蓋を開けると、中にはサブマシンガンと弾が入っているのが見えた。更にリムジンのトランクから小箱が出され、そこには拳銃数丁と弾が入っている。粗悪な改造拳銃の類は確かに量が多く、安価でもあるが、それだけ質が悪いため末端の痩せヤクザが何とか金を集めて取引する程度だが、これだけの本物が流れてくるとなると、大金が動く。

 六曜産業側は、ジュラルミンケースを三つ取り出し、それぞれ蓋を開けた。金塊だ。

「素晴らしい! 」

 レイモンドは、日本語でそう感嘆し、金塊が本物であることを周到に確かめた。

「良い取引をさせてもらった」

 ここで、本当なら警官隊が突入する筈である。が、突入命令が下る気配はなかった。

「何してる、SATは」

 応答がない。雑音すら聞こえてこない。何者かに遮断されていると、鸞は判断した。

「今押さえないと逃すぞ。動ける人だけついて来て」

 鸞は腰からグロック19を抜いた。本来はSATに支給されている拳銃であるが、警備部警護課の課長でもある霧生警視正の計らいで、今回の突入班に限って装弾数の多いグロックの貸与がなされた。元々鸞は、通常装備のM360Jがリボルバーの為、指に負荷がかかるのが嫌で敬遠していた。故に、狙撃練習ではグロックのほか、銃器対策部隊が装備できるS&W M3913などのオートマティックを好んで選び、訓練していたのであった。

「警察だ!! 全員両手を上げろ!! 」

 鸞の声を合図に、一緒に倉庫内に滑り込んでいた捜査員が一斉に飛び出した。

「野郎っ」

 六曜産業の構成員が一斉に腰から銃を抜いた。時間差の動きを的確に捉えて、鸞が発砲し、その銃を弾き飛ばしていった。

「サツなんざどうせ装填してるのは5発と決まってる、撃ち殺せ!! 」

「それがね、今回は一杯撃って良いよってお墨付きもらってるんだ、残念だったねぇ。はい、動くな」

 銃声が轟いたにも関わらず、まだシャッターは開けられない。そうこうするうちに、ブレーカーが落ちた。

「か、係長! 」

「無闇に動くな、発砲は待て」

 暗がりになる前の記憶を頼りに、鸞は中国人マフィア側に回り込んだ。レイモンドなら真っ先に車に乗り込もうとする筈だ。

 人が動く気配に、鸞は思わす腕を伸ばし、柔らかなカシミアの質感をその手で握りしめた。

 相手が拳を突き出してきたのを僅差で避け、足を掛けて地面に叩きのめし、さんざんに揉み合った末に、その上に跨った。と、轟音と共にパトカーがシャッターを破壊して突っ込んできた。開いた突破口に呼応して、やっと本来駆け込むはずの面々が銃口を向けて突入してきた。

「鸞、鸞、無事か!! 」

 フロントがベコベコになったパトカーから飛び出してきたのは、霧生課長であった。

「すまん、身内にマフィアと通じている奴がいて、無線を遮断された……」

 ブレーカーを握りしめていた黒スーツの警察官が1人、制服警官数人に確保されていた。場内に灯りがつき、捜査員達が一斉に取引連中に飛びかかった。

「えっと……ランラン⁉︎」

 明かりの下で、鸞はレイモンドに跨っていた。濡れたジャケットは揉み合った拍子に脱がされかけ、ネクタイはおろか、シャツまで破られて白い肌が剥き出しである。しとどに濡れた髪からは雫が垂れ、激しく息を乱すその紅潮した顔を濡らしている。それまで猛獣のように暴れていたレイモンドが、自分に跨っている人物のあまりの妖艶さに言葉を失っていた。

「ヤダァ……ビショビショぉ、も、もう、待たせすぎぃ……」

 髪をかきあげて漏らした鸞の英語に、周囲で揉みくちゃになっていた連中が一斉に動きを止めた。暗がりで揉み合っていただけに、鸞のシャツを掴むレイモンドも息を乱している。

「オジサン、強すぎ……はあ、スゴい……」

 喉を反らして息を荒げる鸞の姿に、まず3人が鼻血を出して卒倒した。味方の警官も5人、鼻血噴射。

「もう、イクぅ? 」

 はだけた肌に触れたままのレイモンドの手を掴み、鸞は引き起こすようにして立ち上がった。途端に少女のような可愛いクシャミを立て続けに2回。そのくしゃみだけで、4人が腰砕けとなって確保された。

「いかん、レディにこんな寒い思いを……」

 英語で真面目に呟くなり、起き上がったレイモンドは、すぐさまコートを脱いで鸞の体を優しく覆った。ホッとしたように見上げる鸞の、寒さで白く透き通る頬に朱が差した。濡れた睫毛も艶かしく、蕩けたような瞳で見つめられ、レイモンドが生唾を派手に呑み込んだ。

「有難う……」

「か、風邪をひいたら大変だ、そこの君、この美しいレディを早く車に乗せたまえ」

 コートで鸞を包み込むようにして抱き寄せ、レイモンドが英語で霧生課長に叫んだ。

「はぁ、さいですか……」

 まるで恋人をエスコートするかのように、レイモンドは鸞をパトカーの後部座席に乗せた。ドアを閉めようとすると、鸞が泣きそうな表情を向けて、レイモンドの手を取った。

「いや、私は…」

「遠慮しないで。ねぇ寒いよ、早く隣に座って」

 鸞は悩ましげに囁く間にも、レイモンドの手首に手錠を嵌め、もう一方を自分の手首に嵌めた。

「……ああ、いいとも、可愛いレディ」

 レイモンド・タン、広東の荒鷲と恐れられた男は、濡れた美人を放っておけないイギリス紳士でもあった。

 

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