12.覚悟
孔明兄ちゃんの昔の男……
学校は狂乱の坩堝であった。
保護者からの電話で職員室の回線はパンクし、教師達は生徒対応と電話対応に追われ、走り回っている。
着いて早々、孔明は早速学長室に呼ばれた。重厚な応接セットのソファには、玄徳と今1人警察バッチをつけた初老の男が座っていた。
「桔梗原先生、お呼び立てして申し訳ない」
「いえ、この度は妹が大変ご迷惑をおかけし、面目次第もございません」
部屋の出入り口に立ったまま、孔明は深々と頭を下げた。
「お父君の隣に掛けてらっしゃるのは、六本木署の少年係の係長、曽根さんです」
曽根と紹介された男は、上着のボタンを閉めながら立ち上がって挨拶をした。
「玄徳の長男で、亮子の兄、孔明と申します」
「……早速ですが」
曽根は柔和な表情で頷き、ソファに腰を下ろすなり本題を切り出した。
「この学園の生徒の中で、昨日補導された者が12名、そのうち、保護者同意のもと、尿検査を実施してドラッグの成分が検出されたのが7名です。勿論、河南佑月と亮子さんからは検出されてはいません。先日、御次男の桔梗原警部補が鑑識に提出された六本木で押収されたカプセルの内容と、新宿で押収されたカプセルの内容は、主成分は概ね一致しましたが、配合は異なることが分かったそうです。あちらは新宿の野上会が調合した粗悪品ですが、六本木で流通しているものは同じオキシトシンを主成分に、漢方と大麻片が混じっています。大変催淫成分が強く、中毒症状も起こしやすい危険なものです」
「そうでしたか……」
「先ほどこちらに入った報告で、主犯と思しき瀬良田志信の父親・亘が、青海埠頭に個人会社の名義で倉庫を借りていることが判明しました。今日、志信は欠席しており、自宅も応答がありません。そこで、先生にお尋ねしますが、亘とは、どういう人物でしょうか。過去の経歴から、高校の部活の名簿にあなたの名前を見つけましたので、一緒だったことがお有りかと」
「昔の話です。大学も別で、全くコンタクトはありません」
「卒業以来、一度も」
「一度も、です」
「ほう……」
曽根が上目遣いに、心情を探るような鋭い一瞥を投げてきた。
「他の剣道部のお仲間から、大変親しかったとお伺いしていたものですから」
引っかかるような言い方をする……孔明は鼻でフッと笑い、首を振った。
「先輩には、確かに世話になりました」
「居場所に心当たりは」
「全く。志信を担任しているわけではないので、仕事すら知りません……ですが」
余計なことを、と自分を戒めながらも、孔明はやはり次の言葉を吐くしかなかった。
「教師として、何故志信を巻き込むような愚挙に及んだのか、直に聞いてみたい」
「ほう」
「かつて世話になった人だからこそ、何があったのか、直接聞いてみたいという気持ちがないと言えば嘘になります」
曽根は、玄徳に仁義を切るかのように頭を下げ、立ち上がった。
「逮捕状が出るまでにはまだ時間がかかります。出るのは間違いないが、国際的な組織がらみですから、間違いのない証拠を揃えないことには、足元を掬われることにもなりかねない」
要は、それまでに話をしろ、ということか。
「何ができるか分かりません。ですが、手を尽くしてみます」
孔明は頭を下げ、学長室を後にした。




