【問】燃やされたマフラーと共に消えた感情は何なのか
「別れよう。」
高校受験を控えた中学3年の12月。
3ヶ月付き合っていた彼氏から唐突に別れを告げられた。
「あれ?お前、使ってたマフラーは?」
「ん?あぁ、燃やした。」
頑張って編んだ早めのクリスマスプレゼントのマフラーが無惨にも燃やされたのを彼と友達の会話で知った時は、皆がいる教室なのも忘れて泣き叫びたかった。
別れの理由も教えてもらえず、彼とその友達からの冷たい視線は、受験へのモチベーションをどん底まで落としたのは言うまでもない。私立の結果はボロボロ。公立の第一志望に合格したものの、入学後に聞いた試験結果は合格ギリギリのラインだった。
それが原因で少しだけ男性恐怖症になった私は、高校生活で新しくできた友達が恋愛を楽しんでるのを見守るだけだった。
◆◇◆
「岡田さんももうすぐ卒検だねぇ。」
「そうですね。入社式までに間に合いそうでよかったです。」
教習所からの帰り道。最終の送迎車の中は運転手のオジちゃんと助手席の私、そして後部座席にいる男の子の3人。先程まではもう1人男の子がいたけど、一番最初に降りていった。
普段はこんなに遅い時間まで教習所にいることはない。早い時間の技能教習の予約が取れなくて仕方なく夕方になった。それならばと、その前後に学科の方も入れたので結果この時間に。
学校で許可証をもらってから自宅学習期間になるまではなかなか通えず、がっつり行けるようになったのは2月中旬。進学校にいるくせに就職することを選んだ私は、4月までに免許を取らないと更に時間が無くなるので必死だ。
誕生日が3月なので本試験を受けるのがギリギリになるから、余計そこまでのことを早めに終わらせないといけないのが少しだけ面倒。
「女の子を遅い時間まで外出させているのは親御さんが心配するだろうから、先に岡田さんを送っちゃうねぇ。」
オジちゃんがそう言って私の家までの道を走りだす。後ろの男の子の家の方がここから近いらしい。
明るい時間にしか乗らない送迎車だから、こんな風に配慮してくれるのは初めてで新鮮だった。更にいうと、自宅から少し遠い教習所に通っているので、自分と同じ方角でここまで乗っている人がいるのも初めて。
後ろから反応がないのは、彼はいつもこの時間でこういうことがちょくちょくあるのを分かっているのかもしれない。
「というか、二人の家って結構近いから、もしかしたら学区が一緒かもねぇ。」
「そうなんですか?小学校だとだいぶ狭いですけど、中学ならありえるかもですね。」
続くオジちゃんの言葉にびっくり。暗いし先に彼が乗車していたこともあって顔を見ていないから、知り合いかもということに後ろを振り返りたくなった。
「確かに中学なら一緒かもねぇ。どう?高橋君。」
「…え?あぁ、そうですね。一緒だと思います。」
「………は、高橋?」
聞き覚えのある名前に聞き覚えのある声。
恐る恐る振り返って俯いていた顔を上げた彼を凝視する。
忘れもしない、マフラーを燃やしたと言っていた元彼がそこにいた。
教習所に通っていたのはもう何年も前の話なので記憶が曖昧です。教習所にもよるから、今はどんな感じなんでしょうね。