汰介の過去8 <中学生編6>
「え?」
「だから、ボクの家に来てくれないかってこと」
いや、それは分かってるんだよ。でも理解らない。
なぜ急に僕を家に呼ぼうとしたのか。
「急な提案すぎて理解が追いついてないって顔だね。無理もないよ」
エスパーの方?...それはまあいいとして。
「どうして急に?」
「それはとりあえずこの家から出たら説明するよ。どうする?」
しばしの沈黙の後、と言っても答えは最初から決まっていたのだが。
「行く」とただ一言だけ答えた。
上着と財布、あとはスマホ。それだけを持って僕たちは階段を降りた。
扉を開けると、温かい風が僕らを撫ぜた。
久々の外だ。10数年ずっと歩いた街のはずなのに、なぜか久しぶりに来たような感覚。
「あのね、」
街の懐かしさに浸っているところにフロウが口を開いた。
「君の両親の会話を聞いてて思ったんだ。あの両親、君に冷たいでしょ?」
もう占い師の仕事始めたらいいのに。洞察力がすごいとかのレベルじゃないと思う。いとも簡単に言い当てられて少し不気味に思っている僕に構わずフロウは続ける。
「ただでさえ大きな傷を負って家に籠るしかなくなった君が、家族からも傷つけられている。それがボクには耐えられなかった。」
「でも、だからって家族にしようってなるかな」
「分かってる。いろいろおかしなこと言ってるのも。でも、こうでもしないと君の傷が癒えないような気がして。」
「僕の中のことはもはや僕自身にもわからないからなぁ。」
「ボクはね、実は今の家には拾われたんだ。」
「えっ…」
そんなことは一度も彼の口から一度も聞いたことがなかった。
「児童虐待から逃げてきたんだよ。路地裏で弱ってるのを拾ってもらった。
うちの家族はみんな似たような境遇だから、きっと分かってくれる。皆、人の痛みがわかる人たちだから。」
僕よりも酷い状況じゃないか。僕はまだ恵まれていた方だ。そんな人たちにこのことを話しても仕方ないじゃないか。
声には出なかったが、どうせ追い出されるだろうとだけ思いながら歩いていた。
辺りが真っ暗になる頃に、フロウが立ち止まった。
「ここがボクの住んでる家だよ」
そう言うと彼はすぐ隣の呼び鈴を鳴らした。
「遅かったじゃんおかえ…おや?お客さん?ちょっと待ってね!」
3年生ぐらいだろうか。同じ学校の制服を着た青年が扉を開けたが、ボクがいるのを見るや否や家の中へと走っていった。
10秒ほどして、扉が開いた。さっきの子と、もう一人、似たような顔の青年が扉から出てきた。
「ようこそ。君の家がどこかは知らないけど、暗いからとりあえず上がっていきな」