わがころもでは なみだでぬれつつ
準決勝第二試合。この試合で俺たちの決勝の相手が決まる。
「三上氏、左の手前の娘を見てみるといい。あれが……」
黛が何か言っているが、俺はそれどころではない。い、胃が痛すぎる。
そう、俺は実力がないのに決勝戦に上がるというプレッシャーに加え、クラスメイトからの応援、勝てという圧力によって、死にそうになっている。これ誰か、変わってくれねーかな。いや、だめだ。確かこの大会のプリントの注意事項にでかでかと『チームのどちらかが棄権した場合そのチームは、失格とする。』って書いてあったな。くそっ、誰かガス〇-ル持ってきてくれ。
「……と、いうことだ。わかったかね?」
「え、あぁ。」
全く聞いてないが、とりあえずうなずいておく。
俺が、胃の痛みと戦っている間に試合が終わったみたいだ。体育館内のボルテージが上がっていく。
「そろそろ、私たちの出番のようだ。」
待って。もうちょっと待ってくれませんかねぇ。
「黛君、三上君、頑張ってね。」
西沢さん、無自覚にボディブロー打ってくるのやめてくれませんか?
「応援してるよー。」
村上さんが憑き物が落ちたような満面の笑みで応援してくれている。
「三上がここまで来たとはな。同じ穴のムジナとして誇らしいぜ。」
なんでお前がどや顔なんだよ。同じ場所で同じ人に教わっただけだろ。お前らと一緒にすんな。
「勝ったら、お祝いにメロンパン スイカ味を買おう。お前の券で。」
影沼。お前の顔面に*煮干しクリームパンをぶつけてやろうか。
*煮干しクリームパン 購買にて絶賛販売中
突っ込みをさせるな。痛みが悪化する。
そして、俺たちは決勝の場に立つ。会場が一気に湧き上がる。
「いっけぇーー、つぶしてやれー。」
大歓声の中で、御手洗の声が聞こえる。応援してくれるのは素直にうれしいが。
「じょぉぉぉーー」
じょうは誰だ。俺を応援してくれんじゃないのか。
「見かけない方がおられますわねぇ。」
俺たちの対戦相手であろう、黒髪ロングの上品そうな女子が話しかけてきた。
「お嬢様、こちらは、転校生の三上和希という生徒だったと思います。」
お嬢様だと。この娘はどっかのお嬢様ということか。そして、男の方は従者か何かか?
「あらぁ、転校生やったの。これは、すいませんなぁ。自己紹介させていただきます。私は、竜胆紅葉と申します。こっちは、従者の御岳丈と申します。よろしゅうな。」
「三上和希だ。よ、よろしく。」
独特なしゃべり方だな。ん、竜胆?というか、丈、こいつかい。敵応援してんじゃねーか、あいつ。
くそ、考えるな。今は、百人一首のことだけを考えろ。胃が持たん。ムスメオオカセ、ムスメオオカセ。あれっ、あってるっけ。
黛と竜胆が、何か話しているが、俺にそれについて考える余裕はない。
「んじゃあ、決勝戦始めるかー。ぶち上げて行けよ、てめぇーら。」
うおぉぉぉぉぉぉぉ
やめて、声が胃に響く。
「いにぃし……」
「はい。」
早い。今回は、竜胆さんがとったが、俺以外は反応していた。やっぱり俺だけ場違いだって。
「ぅおおえ……」
「はい。」
御岳がとる。相手の方が足手まといがいない分圧倒的有利だ。だが、とれる札だけに命を懸けるぐらいしかやることはないが。
俺たちは少しづつ押されていく。
「こぉ~のぉ~」
きたっ。誰よりも早く、とはいかなかったものの俺は、札を近くに置いていたのでとる。
「ナイスだ、三上氏。」
「俺の仕事は終わった。あとは任せた。」
俺の胃も限界に近いからな。とはいえ、俺は次の詩に集中する。
そして、時間がたち
「次が最後の札だ。気張れよぉ~。」
アナウンスにより、俺は最後だけはと気張る。
「ぅあ~きの」
俺に電流が走る。練習の時の光景を思い出す。あの表の一番上の詩はよく見るから自然と覚えている。
あきのたの
かりおのいおの
とみをあらみ
わかころもでに
……
札は近くに。いけるっ。
俺は、札に手を伸ばす。
ババン
わずかにたたく音がずれて聞こえる。見ると、竜胆さんが札を抑えている。
俺と違う札を。
「三上氏、それは、わがころもでに ゆきはふりつつ だ。正解は、わがころもでは つゆにぬれつつ だ。」
俺は、試合が終わってすこしして、恥ずかしさと胃の痛みでトイレへこもった。
ちなみに試合は、十一枚対十四枚で普通に負けていた。
この後活動報告を書くかもしれません。
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追記 活動報告書きました。




