もみじのにしき かみのまにまに
放課後、俺は百人一首の表とにらみ合っていた。
「それで、なんでお前らもいるんだ。」
「俺たちも百人一首全く覚えてないからよ。」
「右に同じく」
そう、御手洗と影沼も表とにらみ合っていた。
「お前ら、去年もやったんじゃないのかよ。」
「一年もたつと忘れるに決まってんだろ。」
どや顔で言うことではない。
「まぁ、僕は教える人が少し増えようが構わないよ。」
「私も大丈夫だよ。」
そう、黛と西沢さんは講師として今回手伝ってくれるようだ。
「じゃあ、そろそろ始めようか。」
「ちょっと待て。」
御手洗がストップをかける。
「どうした。」
「誰が誰に教えるんだ?」
………….
「俺が、西沢さんに教えてもらう!」
「いや、それは俺だ!」
「僕だ!」
「お前らが、黛に教えてもらえ。」
誰が悲しくて、男を選ばなきゃならんのだ。三人で取っ組み合いをしていると影沼が提案する。
「じゃんけんで決めようじゃないか。」
「「乗った!!」」
馬鹿め。じゃんけんをただの運ゲ、もとい心理戦だと思っている素人め。そんなんだからいつまでたっても弱者なんだよ。あの戦いは、必勝法がある。相手が手を出す直前で相手の手が何なのかを判断し、自分の手をそれに対して変える。これこそがじゃんけんの必勝法、≪究極の後出し≫。俺は。これに気づいてから負けなしだ。せいぜい、辛酸をなめながら勉強するといい。
「じゃあ、行くぞ。最初はグー、じゃんけん「「ポ―――」」」
御手洗と影沼の手は、グー。パーを出してチェックメイトだ。
「「「ン」」」
全員が、パーを出す。
なに――――――――――――。どういうことだ。俺が、手を変えた瞬間、二人とも俺と同じタイミングで手を変えた。俺も手を変える前はグーだった。すなわち、こいつらも≪究極の後出し≫の使い手、ジャンケニストだったということか。俺は、こいつらを侮っていたということか。だが、それは二人も同じ。その目を皿のようにした目でわかる。次はどうする。考えている間に声がかかる。
「三人ともを二人で教えるから始めよ。」
「「「はい。」」」
西沢さんの鶴の一声でこの戦いは幕を閉じる。
俺たち三人は席につき、勉強の体制に入る。
「じゃあ、まずは一字決まりの句を覚えよう。」
なんだそれは。
「なんだそれは、という顔をしているね。僕が説明しよう。」
ナチュラルに心を読むな。
「一字決まりとは、上の句の一文字目が読まれたとき、下の句が確定する詩のことだ。これは七句ある。むすめふさほせ、だ。」
「「「ムスメフサホセ?」」」
聞きなれない単語にバカみたいな返しをする。
「これを覚えているかいないかで結構差が出ることがあるから必須事項だね。」
そうなのか。覚えなければ。ムスメフサホセ。ムスメフサホセ。ムスメオサホセ。ムスメオオカセ。まずい単語になってきた。
「他には、何かあるか。」
俺は、その考えを振り払うように問いかける。
「二字決まりとかあるけど、時間もそんなないし、あとは自分が気に入った詩を覚えるのがいいと思うよ。」
「ここに百人一首のかるたあるから、実戦でやろうか。僕が読み手をやろう。」
「よっしゃ、ただの座学だけかと思ってたからやる気出なかったんだよな。」
そして、俺たちは実践を通して、二人から様々なことを教わった。
「ふぅ、このくらいで終わりにしよう。」
「うっへぇ、全然とれねぇ。」
「自分の近くに置かれている札とられるとなんか傷つくな。」
初めの方は全然とれなかったが、やってるうちに少し慣れてきた。ちなみに御手洗は、、最後まで捕れて二枚だった。
「三上君、どう?得意な詩とか決めた?」
「あぁ、この札だ。」
そういって、人差し指と中指で札を挟みながら見せる。
このたびは
ぬさもとりあへず
たむけやま
もみじのにしき
かみのまにまに
ギリギリ2話投稿
下のほうにある星を押してくれると作者が狂喜乱舞します。