3.わ、私も行くわ。ガイザード様と共に王都へ
「ロザリナ、身体に不調はないか?」
知恵熱で再び気を失って以来、ガイザード様は過保護になった。毎日私の体調を気にして、守護霊のポメちゃんも心配気に私の周りを走り回り守護してくれている。
かわいい。
でもポメちゃんはガイザード様を護ってもらわないと!!
私の守護霊様であるベルローズは全く護ってくれないのに、健気なポメちゃんにキュンとする。
魔獣の討伐の成果もあり、辺境は平穏な時が流れている。
魔獣たちも冬眠で大人しくなるこの時期に、年に一度国王陛下に辺境の様子を報告し、王家主催の夜会へ参加しなければいけないらしい。その準備がのんびりと行われていた。
第二王子との婚約を破棄され、辺境に嫁いだ私は、一緒に行かない方がいいのかなとは思うけれども、ガイザード様は私を一人で辺境に残していくのを心配している。
『王都へ行くか行かないかは、君が決めてくれ。私は君の望みを叶える』
そう言い切ったガイザード様は、全ての判断を私にゆだねてくれている。
私は、胸を張ってガイザード様の隣で彼を支えたい。
でも悪評がある私が横にいたら彼の評判も悪くはならないだろうか。
うーん、と頭を悩ませていると、マーロがお茶を淹れてくれた。
「奥様、旦那様が王都に着ていかれるマントに刺繍をされてはどうでしょうか?辺境では愛しい旦那様が王都で浮気しないようにマントに愛の刺繍を施して送り出すのですよ。一緒に王都に向かうにしても他の令嬢に牽制になりますし、愛の刺繍!!しましょうよぉぉ!!!」
「ふぇっ!!!!!!」
素っ頓きょうな声が出てしまった。そんな風習があるなんて!!愛の刺繍って…!!
色々情報量が多すぎたけれども、お守りをあんなに大切にしてくれたガイザード様だから、きっとマントの刺繍も喜んでくれそうな気がした。
浮気防止とかではなく……そうだ、身を守ってくれるとされる図柄で護りの刺繍をマントにさすのはどうだろう。遠征とかでもマントを羽織るかもしれない。ガイザード様の身を案じて、私の刺繍が御守りになれば嬉しいわ。
そうよ、そうなったら、金色の頑丈な刺繍糸を取り寄せて……。出発までに間に合うかしら。
「奥様は新しいドレスの採寸をしましょうね。王都に行かないとしても新しいドレスはあって損にはなりませんからっ!!」
「えっ?私は──」
「さあ!流行ドレス、見てみたいんですよぉぉ!!」
マーロに押され、私も新しいドレスを作ることになった。ドレスを縫ってくれるお店にこっそり刺繍糸もお願いして……。
平穏な毎日が一気に慌ただしくなったのだった。
◆◆◆
『あらぁ!!健気にマントに刺繍なんてしちゃって、流石『悪役令嬢』ですわ。王都で貴女の悪ーい噂がまだある中、『悪役令嬢』が施した刺繍入りのマントを羽織った夫だけを貴族の巣窟へ送り込むなんて、さすがわたくしが見込んだ『悪役令嬢』ですわねぇ!!!』
せっせとマントへ刺繍を入れていると、興奮気味にベルロースが言った言葉に私は指を思いっきり針で刺してしまった。
「え……」
『先程、王都から来た商人についていた守護霊に聞いたんですの。あの第二王子と貴女の義妹の婚約発表で今王都はお祝いムードなんですって。それに付随するように貴女の悪い噂も流れているって!!ああ、『悪役令嬢』っぽくって最高じゃない!祝杯をあげないとねっ!』
そ、そんな……。
私が辺境へ送り出された時点でみんな私への興味を失くして、とっくに噂なんて風化しているかと思っていたのに……。
まるで作為的なように広がり続ける『悪女』の噂に、胸が圧し潰されそうだった。ガイザード様は『怪物辺境伯』と言われ、ただでさえ誤解されている。
妻になった私の悪評が未だ根強い王都へ彼だけ向かわせてしまって良いのだろうか?
もう噂が収まらないのならば、せめて当人である私が矢面に立って、ガイザード様を敵意からお守りできないかしら?
『さあ、祝杯を──』
「わ、私も行くわ。ガイザード様と共に王都へ」
『え?貴女敢えて敵意に晒されにいきますの?』
「ベルロース、ありがとう。私は、辺境でぬくぬくと……辛い思いをされるガイザード様を送り出してしまうかもしれないところだった。『悪女』に向けられる敵意は自分で受け止めなければ。私、もう逃げないわ!!」
ぐっと拳を握り締めた。ガイザード様を守るためだと思うと、何故か力が湧いてくる気がする。
こうして私は王都行きを決意したのであった。