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3.ね、寝坊してしまったわっ!



私とガイザード様の部屋は分かれている。寝室も別だ。嫁いできて今夜が初夜になるはずだが、ガイザード様の訪れる気配はなく、自室の寝台に横たわり、ぼーっと天井を眺めていた。



『あーあ、つまらないですわ。今までの『悪役令嬢』でしたら、今頃は酷い目に遭って、己の運命を嘆き悲しんでいるところでしたのに』


「ベルローズ、貴女、私の守護霊なのよね、何故主人の不幸を願っているのよ」


『まあ!人聞き悪い。わたくしは『悪役令嬢』として生きて散ることが美学だと思っていますのよ。それこそが主人の幸せだと!!』


そんな横暴な……。


全く守護してくれないこの守護霊をため息交じりに見つめる。それでも、見ず知らずの土地で、物心ついたときから共に居たベルローズの存在は心強かったりするのだ。


「貴女の言う破滅の未来が訪れないことを祈っているわ。じゃあ、おやすみなさい……」


『ああっ!まだ話はおわってませんわよっ!!』



ベルローズの声が徐々に遠くなり、私はすやすやと眠りに就いた。長旅で疲れていたのだろう。泥のように眠り、目覚めたのは翌朝、太陽が既に真上に上がったときだった。



「ね、寝坊してしまったわっ!!!」


「奥様、ゆっくり休むようにと旦那様より申し付かっておりますので、お気になさらず。遅めの朝食も準備できていますよ」


キリッとしたロバートがテキパキと指示し、部屋の中に軽食が運ばれてくる。あと少ししたら昼食であるのを考慮した気遣いに頭が上がらなくなる。


「ガイザード様は……今日はどちらに?」


「辺境伯軍への指導に向かわれています。帰るのは昼過ぎになるかと」


「そう……、お見送りできずに申し訳ないことをしたわ……」


初っ端からやってしまった。普通嫁いで来た妻に見送られながら仕事場に行くものだろう。


少し落ち込んでいると、ロバートが目を細めながら温かい紅茶を差し出してくれた。



「奥様が来られて、旦那様は浮かれているご様子でしたよ。宜しければ、戻られたときに奥様にお出迎えしていただくと、喜ばれるかと」


「まあ!……そうだったら嬉しいのだけど。では旦那様が帰られたら一番に教えてね」



気持ちを切り替えて、お出迎えはきっちり妻らしくしようと決意する。軽食をすませ、支度を整える。お昼過ぎに戻るということは、昼食は召し上がってこないのかしら?だとしたら昼食も一緒に摂れるのかしら?


尻尾を振って駆けまわる昨夜の晩餐の際のポメラニアンの姿が脳裏に浮かび、つい口元が綻んでしまう。



「ねえ、マーロ。旦那様はお昼ご飯はこちらで召し上がるのかしら?」


「どうでしょうか。いつもは軍の食堂で済ませてくることもありますが」


「そ、そう」


しょんぼりとする私を見てマーロが目を丸くする。そしてさっとロバートと目配せした。


「いいえ、帰ってきてもらいましょう!!」


「えっ……?」


「厨房にもそう伝えてきます!!奥様の為ならこのマーロ、旦那様を連れてまいりますぅぅぅ!!!」


「ま、待って──」



止めようとしたが、マーロの背中はもう遠くなっていた。ロバートもテキパキ指示を出している。まさか自分の一言で、こんなことになるなんて……と背中に汗が流れ落ちる。


ガイザード様が軍の食堂でのお食事を楽しみにしていたら申し訳ないわ……!!



そんな心配をよそに、昼過ぎにマーロに連れられガイザードは帰宅したのであった。



「ガイザード様っ、おかえりなさいませ」



ぎこちなく出迎えると、吃驚したように彼の肩が揺れた。長い髪の間から見える瞳が動揺したように揺れた気がした。守護霊のポメラニアンが尋常じゃないほど尻尾を振って駆けまわっているので喜んでくれている……?のだろうか。



「た、ただいま戻った」


「今朝はお見送りもできず、申し訳ございませんでした。昼食は一緒に摂れたらとガイザード様のご希望も伺わずつい口にしてしまったら、マーロやロバードたちが私の為にガイザード様をお連れしてくれ……ご迷惑じゃなかったですか?」



早口で一気に言い切った私に、ガイザード様はまたもや固まってしまった。



「…………迷惑ではない」



ぽそりと返事が返ってきてほっと息を吐く。守護霊のポメラニアンはお腹を見せて嬉しそうに『きゃんきゃんっ!』と転げまわっているのを見ると、怒ってはいないようだ。



「よかったですわ。朝食は私が寝坊してしまいご一緒出来なかったので、昼食はご一緒させてくださいませ」



「あ、ああ」



良かった。これで挽回できるかしらと、食堂までの足取りが軽くなる。その後ろで、守護霊のポメラニアンが歓びを爆発させていることなど気が付かなかったのであった。




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