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2.だ、旦那様が……可愛いっ!?



「旦那様、晩餐はどうされますか?」



執務室で仕事をするガイザードにロバートが話しかける。書類から目を離したガイザードは首を横に振る。


「……私と食事など……、彼女を怖がらせてしまう。私抜きで持て成してやってくれ」


「かしこまりました。けれども、私には奥様は旦那様を怖がっている様子は見られませんでしたけどねぇ」


ガイザードが幼い頃から仕えているロバートは、主人の鋭い視線も全く気にせずに続けた。



「これから長い間連れ添う奥様です。最初の晩餐は共にされるのが誠意でしょう」


「…………わかった」



ロバートだけには勝てないガイザードは、書類を机に置き、深いため息を吐く。怪物伯と呼ばれる自分は、存在するだけで人を怯えさせてしまう。王都育ちのか弱き令嬢など、きっと泣いて逃げ出すのではないかと覚悟していたが、ロザリナはポカンとした顔をしただけで、ガイザードから逃げ出すことはしなかった。


何故だかは分からないが……。


王都では『悪女』と噂されていた令嬢とは思えない。半ば処罰のような形で嫁いできたロザリナを哀れに感じた。



──このような怪物の妻になど……誰もなりたくは無いだろう……。



夥しいほどの血で染まったこの手を、誰も取ってはくれない。ガイザードは両手をぐっと握り締め、忌まわし気に目を閉じるのであった──。




◆◆◆




『きゃんっ!!きゃんきゃんっ!!』



晩餐の席では、辺境伯様は何も言葉を発しない。しかし、背後の守護霊であるポメラニアンは嬉しそうに尻尾を揺らし、私と彼の間を行ったり来たりしている。



どうしましょう……、凄く可愛らしいわっ!!!



辺境でしか食べられない食材を使った美味な晩餐を堪能しつつ、私の視線は可愛らしいポメラニアンに釘付けであった。主人である辺境伯様は恐ろし気なオーラを醸し出してはいるが、全く恐ろしく感じないから不思議だ。まさにポメラニアン効果である。


「あ、あの……辺境伯様」


意を決して話しかけてみると、ポメラニアンはシュンと項垂れる。切なげにこちらを見つめ『くぅーん』と鳴く。


え!?なにっ!?何か間違えたの、私っ……!!


焦っていると、家令のロバートがニッコリと微笑み耳打ちした。



「旦那様の御名前で呼んで差し上げてください」


「ふぇっ!?」



まさか、辺境伯様と他人行儀で呼んだのがいけなかったのだろうか!!恐る恐るその名前を口に出してみた。



「ガ、ガイザード……さま……」


「っ……、な、なんだ……?」



ポメラニアンが物凄い尻尾を振っている。その場でクルクルと周り始め、凄く喜んでいることがわかって、思わず微笑んでしまった。



「そ、その、このような素敵な晩餐をありがとうございます。ガイザード様とご一緒できてとても嬉しいですわ」


「…………そうか」


『きゃん!!きゃんきゃんきゃんっ!!!!!』



ポメラニアンは思いっきり走り回り、歓びを身体で体現していた。


きっと、怖い方ではないのだわ。歩み寄ってみたい……。


なぜかその時、怪物と恐れられるガイザード様が何故だか可愛く思えてしまったのだった──。




◆◆◆




「奥様は、旦那様を見ても怖く無いのですね。旦那様には婚約したご令嬢が何人もいましたが、皆一日で逃げ出しました。奥様は全く怖がられるご様子も無いので……」


メイドのマーロにそう聞かれ、キョトンとした顔になってしまった。


「辺境伯様……ガイザード様を怖いとは思わないわ。きっと、優しくて、可愛らしい方だと、そう思うの」


「えええええええっ!!!!???だ、旦那様が……可愛いっ!???」



驚きの声を上げるマーロに苦笑する。自分だって、守護霊のポメラニアンが居なければそうは思わなかっただろう。しかし、あの可愛らしい守護霊を連れている姿を見れば見るほど、可愛らしく感じてしまうのだ。



「お、奥様ぁぁぁぁ。マーロは嬉しいです。旦那様は無口で不器用な方ですが、周りで言われるほど怪物なわけでは無いのです。奥様にどう分かって頂こうかと、使用人共々色々計画を立てていたのです。良かったですぅ、奥様が、旦那様と婚姻してくださってぇぇぇぇ」


ポロポロと涙を零すマーロは、よっぽどガイザード様が心配だったようだ。ここまで使用人に慕われている彼はやっぱり怖い人間ではないと思う。


「まあ、マーロ。これで涙を拭ってね。私はガイザード様を怪物だなんて思っていないわ。見た目は怖いかもしれないけれど、(守護霊ポメラニアンだし)私はガイザード様を恐れないわ。だから、色々ガイザード様について教えてね」


「はいぃぃぃ。私、奥様に一生ついていきますぅ……!!」


何故だか、マーロに忠誠を誓われてしまった。感極まるマーロをヨシヨシと宥める。


「わ、私は旦那様に拾われたんです。魔獣に襲われて両親を亡くし孤児になった私を雇ってくださいました。この屋敷の者たちは皆旦那様に命を救われたり、拾われたりしたものがほとんどで、全員旦那様に幸せになっていただきたいんです。……奥様が奥様で……良かったですぅ……」


「そうなのね、よく話してくれたわ。マーロの話だけで、旦那様が素敵な方だってわかるわ。……仲良くなれたらいいのだけど」


「うわぁぁぁぁん、奥様がいい人すぎて、わたし、わたしぃ……」


更に号泣するマーロは、ロバートにより回収されていった。落ち着いたらまたガイザード様の話を聞きたいな……と思いながら、マーロを見送るのであった。






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