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5.ポ、ポメちゃーーーーんっ!!




『きゃんきゃんきゃんっ!!!!』



必死そうな声に振り返ると──

ガイザード様の守護霊であるポメちゃんがこちらに向かって号泣しながら駆け寄ってきた。



「ポ、ポメちゃーーーーんっ!!!!!」



張り詰めていた気持ちが、最大の救世主の登場に溢れ出そうになる。ベルローズとは比較にもならないくらい、頼もしい存在に安堵の涙が出そうになったくらいだ。



『きゅうーん、きゃんきゃんきゃんっ!!!』



感動の再会なのに、ポメちゃんは必死に何かを訴えている。どうしたのかしら……?


その異様な訴えに意識を取られていると、ドドドドドドドと木々が倒れる音がすぐ間近に聞こえた。


ま、まずいっ!!!



慌てて振り返ると──




「グゥゥゥゥゥゥゥ────っ」



黄金に輝く鬣に──鋭い爪と牙。


まるで獣人のような風貌。


耳を劈くような咆哮を上げ、目の前に現れたのは──




「旦那様ぁっ!!!お静まり下さいぃぃぃっ!!!!って、お、奥様ぁぁぁ!??ご無事でっ!!!?」



目の前の獣人のような彼をおいかけていたのは、はぐれたはずのメイドのマーロや、執事のロバート達で……。


彼女たちが『旦那様』と呼ぶのは、只一人だ。


まさか──



「ガイザード……さま……、なの……?」



怒りで我を忘れ、暴走しているように見える。彼が『怪物辺境伯』と呼ばれるのは──。





「っ……。そうです、あれは旦那様です。ザグリオン家の血筋は代々、獣憑きなのです。戦闘時に、己を守護する獣の力を借り、人の力を超越した戦士となる。大旦那様は熊の姿に。ガイザード様は獅子の姿に──」



ロバートの説明に、私の背中に汗が流れ落ちる。


『獣憑き』の獣……がもし、私に見えている『守護霊』だとしたら……。

お義父様の『熊』はわかるわ。

熊の守護霊がお義父様を護ってましたもの。



守護する獣の姿になるのならば──



『きゃんきゃんっ!!』



目の前には、ふさふさの鬣を揺らし、可愛らしく駆け回るポメちゃんがいる。



いいえ、違うわ、ロバート。


ガイザード様は……『獅子』ではない……。


『ポメラニアン』ではないかしらっ!!!!!




ポメちゃんの立派な鬣や黄金の毛皮に、可愛らしい犬歯は、獅子に似ているけど──。


ガイザード様の守護霊はポメラニアンのポメちゃんだもの!!!



ゴクリと息を呑む。


皆は、いいえ、きっと本人も『獅子憑き』だと思っている様子だ。

真実は、告げない方がいいに決まってる。


墓場までこの事実は持って行きましょう!!!



意外な事実に思考をもっていかれたけれども、獅子かポメラニアンか迷っている場面じゃない。

今は何故か暴走してしまっているガイザード様をどうにかお止めしなければ!!


私がガイザード様を恐れて固まっているかと心配しているロバートやマーロに向き直る。



「どうにかガイザード様を元の姿にしなければね!何故、ガイザード様は我を忘れるほど怒っているのかしら?」


「お、奥様……、旦那様を怖がらないのですか!?」


「え?なぜ?(ポメラニアンだし……)」


「奥様ぁぁぁぁぁぁ!!!さすがですぅぅぅぅぅぅ。もうマーロは一生奥様についていきますぅぅぅぅぅぅ!!!!」



何故か皆に一目置かれてしまった。マーロなど号泣している。



「……旦那様は、奥様が谷底に馬車ごと落ちてしまったことを知った途端、咆哮され、あの姿に。我を忘れたように荒れ狂い……、差し向けられた敵を殲滅した後も止まらず、森を破壊しながら奥様を捜し求めていらっしゃるようすでした。私共もお止めしたのですが、あの姿の旦那様と渡り合えるのは、大旦那様しかおりません。しかし辺境までは距離がありすぎる……」



「わ、私を捜して…?そんな、ガイザード様……」


「元々、国一個、簡単に滅ぼせるほどのお力をお持ちです。このまま暴走したら──」


「た、大変だわ──」


ガイザード様が通った所は戦車でも通った後のように荒れ果てている。それだけでも、ガイザード様の力がとてつもなく強力だと分かる。


ポメちゃんも心配そうにガイザード様に向かって遠吠えしている。ポメちゃんですら、止められないのだ──。

なんとか、大事になる前にガイザード様を元の姿に戻さないと。



優しい彼はきっとこの惨事を望んでいない。

ガイザード様を『怪物』にするわけにはいかないのだ。



みんなで案を出し合っているうちに、ドーンという大きな音がして吃驚して振り返ると──



「へ、辺境伯は『怪物』に成り代わった!!!これは駆除対象だっ!!!ヴィセンド・マークガストの名において、奴を退治してくれるっ!!!!」



兵士を引き連れたヴィセンド殿下が現れたのだった──。





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