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6.もう幼い頃のままではないもの




「マ、マーロ、そこまでしなくてもっ」


「いいえ、奥様、夜会ですものっ!!ピッカピカに磨き上げなくてはっ!!!」


「ひやぁぁぁぁぁ!!!!」



只今、マーロの全身マッサージを受けている。香油を全身に塗り込まれ、念入りにあらゆる処を揉み解され、私は悲鳴にも近い声を上げていた。



やっとマッサージが終わったかと思ったら、次は全身パックが始まり、その後色々と塗りたくられる。


ほんのり花の香りがする化粧水やら乳液を塗り込み、そのまま髪も色々といじられる。


ヴィセンド殿下と一緒に出た夜会ですらこんなに万端な施術を施されたことなど無いのに……。


クタクタになった頃には、ようやくメイクとヘアセットが終わっていた。これでもかと言うくらいコルセットを絞められ、やっとの思いで淡い紫色のドレスに身を包んだ。



ガイザード様の色に包まれているようで、ドキドキしてしまう。そっと鏡を覗き込むと──。



「え?誰……?」



キラキラ光り輝くような、見たことのない自分がそこに映っていた。



「ありがとう、マーロっ!!凄いわっ!!魔法みたい!!」


「ふふふ、頑張りましたっ!!旦那様、腰抜かしちゃうんじゃないでしょうか!!」


「まさか……」



そう言いかけた時に、ガタガタっと何かが激しくぶつかる音がした。振り返ると、ソファに躓き、そのまま机にも躓いているガイザード様が目に入る。


物凄い…慌てように吃驚していると、そのまま何も言わずガイザード様が硬直している。


どうしたのかしら?


ガイザード様の羽織っているマントは私が刺繍を施したものだった。夜会に身に着けてくれるなんて……と嬉しく思っていると、硬直がやっと解けてきたガイザード様が口を開いた。



「ロ、ロザリナ……、その、とても綺麗だ……」


「っ!!!」


「綺麗すぎて……吃驚してしまった……。騒がしくしてしまい、すまない」


「い、いいえ!!ガイザード様も、その、素敵です。マントも、身に着けてくださり……ありがとうございます」



正装姿のガイザード様こそ、芸術作品のように恰好良かった。マーロのお陰で何とか横に並んでも、申し訳なくて逃げ出さなくてもいいくらいだ。



お互いを見つめながらぽうっとしていると、ロバートがコホンと咳払いする。



「さあ、お時間ですぞ」


「あ、ああ。そうだな。ロザリナ、手を──」


「え……」


「我がザグリオン辺境伯家の当主の妻が代々受け継ぐ指輪だ。家を出る際に母上から君にと預かった。これを身に着けてくれ」



そう言って左手の薬指に嵌められたのは、紫色の光り輝く美しい宝石がついた指輪だった。



「この指輪が君を護ってくれる。肌身離さないように」


「は、はい。ありがとうございます」



とっても高価そうな歴史のある指輪に気後れしながら、絶対に傷をつけないようにしようと、ゴクリと息を呑みながら頷いた。


ザグリオン辺境伯家の当主の妻の証──。ガイザード様の妻として認められたようで、嬉しい……そうこっそり思いながら、責任を胸に夜会のパートナーとして妻の務めをしっかり果たそうと、背筋を正す私の手をガイザード様が優しく握りしめた。



「そう気張らないで、君らしくいてくれれば、それでいい」


「っ!!は、はい」



ガイザード様の破壊力が凄い。正装で美が溢れ出ながらも、優しくて、私を気遣ってくれる……ガイザード様の一挙一動にドキドキが止まらなくなってしまう。



『お義姉さま、それちょうだい?』



ふいに幼い頃から何回も言われてきたナーサリーの言葉が脳裏に蘇り、ドキドキしていた気持ちが凍り付いた。



大丈夫、大丈夫よ……。


あの子は、ヴィセンド殿下の婚約者だし、もう接点もないわ。



そう自分に言い聞かせる。今夜の夜会で、ナーサリーに会うのだろうか。ハッシュベルト侯爵家として父や義母も参加するのだろうか……。



私は──。




「ロザリナ、どうしたんだ?」


「い、いいえ!!なんでもありません!!」



フルフルと頭を振り、嫌な思考を振り払った。大丈夫。きっと昔の夢を見てしまった後だから、過去に引っ張られているのだわ。


ナーサリーも、私も、もう幼い頃のままではないもの。


心配そうに私を見つめるガイザード様と守護霊のポメちゃんに、ニッコリと微笑む。



今夜の夜会は、私が矢面に立ってガイザード様をお護りするんだからっ!!!弱気になんてなっていられないわ!!!



「さあ!夜会へ向かいましょうっ!!」



ガイザード様の手を取り、夜会会場へ向けて、出発するのであった。






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