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1.私には……勿体ないほどの妻です



「息子よっ!!今帰ったぞっ!!!」



王都へ出発する前日に、ザグリオン辺境伯邸に大きな声が響き渡った。


ガイザード様が不在中は、ガイザード様のご両親である前辺境伯様と、前辺境伯夫人が留守番をしてくれることとなっている。その為、平和な田舎街で隠居していたお二人が辺境伯領までいらしてくれたのだ。


急いで出迎えようと玄関へ向かうと、山のように大きな体格のお義父様と、凛とした佇まいのクールな美人のお義母様がとてつもない強者のオーラを放っていた。


さ、さすがはガイザード様のご両親である。



「おっ!!其方が息子の嫁かっ!!儂はディナード・ザグリオンだ。こっちは妻のアルネルじゃ。宜しく頼むっ!!!はっはっはっ!!!」


「あなた、そんな大きな声じゃ驚かしてしまってよ。ごめんなさいね。うちの男どもはがさつで……。こんなに可愛らしい子が嫁いでくれて嬉しいわ」


「っ!!ハッシュベルト侯爵家より参りましたロザリナと申します。どうぞ宜しくお願いいたします」



二人のオーラに押されながらも、何とか挨拶をする。その瞬間、目の前の二人は破顔し、ニッコリと微笑んだ。



「なんと!!可愛らしい嫁じゃっ!!!」


「わたくしたちを恐れないなんて、ふふふ。度胸もすばらしいわね。可愛い上に度胸もあるなんて最高じゃなくって!?」



何だか分からないが、認めて貰えたらしい。ちなみに、お義父様の守護霊は大きな熊で、何故かシャケを咥えている。お義母様の守護霊は、長い猟銃を構えるハンターの女の人だった。


さ、さすが前辺境伯夫婦。守護霊も特別なのね!!そして、ザグリオンの血族は動物系の守護霊なのだろうか?美味しそうにシャケを食べている熊さんが、可愛くてつい凝視してしまう。


そこへ『きゃんきゃんっ!!!』とポメちゃんが現れる。すると、何故か、熊さんと、ハンターの女の人の守護霊は恭しく頭を下げ、跪いた。


え……。ポメちゃんが力関係上なの!?


予想外な守護霊の序列を垣間見ていると──



「ロザリナ、大丈夫か!?父上と母上の気に当てられていないか?」


遅れてやって来たガイザード様が、お義父様方に挨拶するより先に私の元に駆け寄り心配そうに顔を覗き込んでくる。


ドキドキとその近さに心臓が音をたててしまう。「大丈夫です」と蚊の鳴く様な声で告げると、ガイザード様はホッとした様子で息を吐いた。


「まあ!まあ!仲睦まじい事っ!!ほほほほほ、心配は杞憂だったようね。母は安心したわよ」


「お前も元気そうじゃなっ!!!留守は任せよ、まだまだ儂は現役じゃからのうっ!!!」


「父上、母上、この度は出向いて頂き感謝いたします。妻のロザリナです。私には……勿体ないほどの妻です」


「わかっているじゃないっ!!!ロザリナちゃんはこのザグリオン辺境伯に降り立った奇跡よっ!!せいぜい大事になさい!!さあ、あちらでゆっくりお話ししましょう!!」



奇跡ってなに?

と一瞬思ったが、その前のガイザード様の『妻』発言になぜかきゅんとしてしまい、必死で平然を装ったのだった。





◆◆◆




「ガイザード、話があるわ。こちらへいらっしゃい」



晩餐の後、私は母上に呼び出された。明日は出立のため、ロザリナは早めに休み、父上は身体が鈍ると鍛錬しにどこかへ消えてしまっている。



客間に招かれ、母上と対峙する。凛とした空気を纏う母上と二人きりになると何故か気まずく感じ、悟られないように飲み物に口を付けた。



「貴方、まだ顔を隠しているの!?王都へ行くのでしょう、そんなんで『悪女』と噂されてしまっているロザリナちゃんを守れるのかしら?」


「っ……」


「図体だけ大きくて困るわ!あんな可愛らしい良い子をお嫁さんにもらったのだから、覚悟を決めなさい。あの子を護りたいんじゃなくって?」



母上の鋭い瞳に貫かれ、私はハッと見つめ返した。ロザリナを護ろうと、そう誓った。その為には何でもすると──。



「旦那様は、貴方と同じ年の頃は、わたくしを片手で抱き、魔獣の群れへ突っ込んだものよ。ああ、あの時の旦那様は格好良かった。貴方は長い髪で顔を隠し、モジモジと情けないっ!!!そんなのが横に居て女の戦場である社交界で笑われないとでも思っているの!?」



父上と比べられるとぐうの音も出ない。あの人は規格外なのだから……。

それに私がこの顔を隠すのは……。



「ロザリナに嫌われないでしょうか……」


「はっ、情けないっ!!!わたくしの息子ならば、堂々としなさい!!ロザリナちゃんを護りたいの?護りたくないの!?」


「ロザリナは……私の全てをかけて……護る──」



そう言った私に、母上はニッコリと背筋が凍り付く様な強者のオーラを醸し出しながら微笑んだのであった──。





◆◆◆



お義父様やお義母様とゆっくり話もできないまま、慌ただしく出立の朝を迎えてしまった。


マーロとロバート、そして護衛の兵士を数名引き連れて、王都へ向かうのだ。ガイザード様との旅は初めてなので、慣れた王都と言えどもドキドキと今から胸が高鳴ってしまう。


いえ、浮かれていては駄目よ。

ガイザード様を私の悪評から護り、矢面に立つために行くのだから!!!


浮ついた心をピシッと引き締め、玄関まで行くと、お見送りにお義父様やお義母様も出てきてくれた。



「息子よ、ロザリナ殿、行ってくるが良い!!!辺境は儂に任せるのだっ!!!」


「ふふふ。王都のお土産話楽しみにしているわねーっ!!!」



温かな言葉をくれるご両親にジーンとしていると、いつの間にか隣に来たガイザード様が私に手を差し出してくれる。



「……父上、母上、留守を頼みます。さあ、ロザリナ行こう」


「はい!では、行って参ります」


ガイザード様にエスコートされ、頑丈な馬車に乗り込んだ。その際にお義母様がガイザード様に、


「いい?わたくしの言ったことは忘れないようにね」


と何か念押ししていたが、お土産の話だろうか。少し気になったが、ガイザード様が神妙に頷いていたので、私からは何も聞かなかった。



こうして、波乱の王都行きは幕を開けたのであった──。






第三章もどうぞ宜しくお願いいたします!!

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