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5.き、君は知らないのか?



そっと席を立ち、昨夜仕上がったばかりの、ガイザード様のマントを持ってくる。



「あの、辺境伯領では殿方のマントに刺繍を施して王都に送り出すという風習があるとマーロに聞きまして。私もガイザード様のマントに刺繍を刺してみました。ガイザード様をお守りできるように護りの柄を刺繍しました。……よろしければ、どうぞ」




ドキドキしながら、金色の糸で刺した刺繍入りのマントを渡した。我ながら良い出来だと思うのだけど。どうかしら?とガイザード様を覗き見ると……。



『無』だった。



あら?

ガイザード様も守護霊のポメちゃんも、微動だにしない。


もしかして、お気に召さなかったのでは……と段々不安に思っていると、ポメちゃんが震え出し、そのまま大粒の涙を流して『きゃおぉぉぉぉぉぉぉぉん』と遠吠えし始めた。



え……?


もしや、すごく喜んでくれている……?


未だに動かないガイザード様を見つめていると、はっと我に返ったらしいガイザード様は、私でも分かるほど動揺していた。



「わ、私のために刺繍してくれていたのか!?」


「はい。ガイザード様を想ってひと針ひと針さしました」


「っ!?!?」



むしろガイザード様以外誰を想えと?

私が心から無事を祈るのも、何でもいいから、力になりたいと思うのも、ガイザード様しかいないのに。



「き、君は知らないのか?マントに刺繍をして渡すのは……愛しい者へ向けての……贈り物だと……」


「知ってます!!ガイザード様を私はっ!!!」



そう言いかけて私ははたと止まった。え?何て続けようとした?


わ、私──。




かぁぁぁぁぁと全身が沸騰しそうなくらい火照る。気付いてしまった。自分の気持ちに。


私は、私はガイザード様を愛おしいと、そう思っている。


それは、『恋』なのかどうかは、まだ分からないけれども──。




「ロザリナ?」


「ひゃぁぁぁぁ!!!!あの、ちょっと、ちょっと待ってくださいね。整理しますから」


また具合が悪いのだろうかと心配し始めたガイザード様に、私は自分の気持ちを整理するために思いを巡らす。



「大丈夫だ。ロザリナ。勘違いなどしていないから」


「え?」


「君は……第二王子殿下を愛しているのだろう。無理に忘れようとしなくてもいい。私は、今のままで──」


「は?」



心からわけがわからないという声を上げてしまった。なんでここでヴィセンド殿下が出てくるのだろうか。守護霊のポメちゃんも首を傾げている。



「あの、意味不明です。私が愛おしく思うのはガイザード様だけなんですけど!」



有り得な過ぎて無意識にそう突っ込んでしまった。そして自分が今何を言ってしまったのか思い至って目の前が真っ白になりかける。



「……………?」



ガイザード様は理解が追い付かないようで、そのまま固まったままだった。ポメちゃんも遠い目で空を見上げていた。



これはどういった状態?


いや、これ以上ややこしくする前に、ちゃんと伝えた方がいい気がする。何でかわからないけど、ガイザード様は私がヴィセンド殿下を好きだと勘違いしてたってことよね?


ヴィセンド殿下にいたっては、守護霊の禿げたおっさんと、後頭部しか意識してなかったから、愛だの恋だの言われても全くピンとこない。


むしろ幼い頃から私はベルローズの影響で『悪役令嬢』と『破滅』を回避することだけを願って成長してきた。ベルローズに婚約破棄する未来を延々と言われ続けて来たし。


そんな私が、きゅんとしたり、ドキドキしたり、胸が締め付けられるような……そんな特別な感情を持てたのは……ガイザード様だけなんだ。


気付いたばかりのこの感情がなんなのか、まだ答えは出ていない。

むしろ経験が無さ過ぎて判断もつかないけれども。


誤解だけは解きたい。

だって、私は──。



「私にとって、ガイザード様は特別なんです。今まで、恋とかしたことなくって、ヴィセンド殿下には義務だけの感情しか無かった。でも、辺境に来て、ガイザード様と過ごす中で……上手く言えませんが、ガイザード様を好ましく……そう思っているのです!!」



上手く伝えられなくてもどかしかった。

ちゃんと、順序立てて……と焦っていると、ポカンとしていたガイザード様は、プルプルと震え出した。



ポロポロと、守護霊のポメちゃんが涙を流す。そして尻尾がはち切れんばかりに振られている。……ということは、まさか、ガイザード様、泣いてらっしゃる!?



「ガイザード様っ!?!?」



慌ててハンカチを取り出し、ガイザード様の涙を拭おうとすると、その手をそっとガイザード様の大きな手でつかまれた。


「……私が、触れても、嫌では……ないか?」


「え……?嫌ではないです」



大きな手にドキドキはしますけどっ!!

と、赤く上気してしまう頬を隠したくなった。



「そう……か」



ガイザード様は何かから解放されたような、ほっとしたような、そんな柔らかな声をあげた。

ふとガイザード様を見上げると、口角が上がり、微笑まれていて、前髪でよく表情はみえないが、私の心臓はドキドキと鼓動を早めた──。





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