晴天のへきれき:袁紹対曹操
曹操と袁紹が雌雄を決する『官渡の戦い』。
七十万もの大軍を擁する袁紹は、曹操軍を見下ろす櫓に強弩部隊を配置し、雨のように矢を振り注がせた。
これで勝負があったと袁紹が考えたとき、その音が聞こえたのだ。
家紋 武範様主催の三国志企画の参加作品です。
ドスーン!
雲のほとんどない晴れ晴れとした空から、聞き慣れない地響きのような音が響いた。
まるで嵐と地震が同時に発生したかのようだ。
「あれは何の音だっ」
黄金色の甲冑を纏った袁紹が、天幕から顔を出して怒鳴りつけた。
周囲にいる兵たちも混乱しているようで右往左往している。
袁紹は七十万の軍で、黄河の南岸・陽武に陣をしいている。
南の官渡では曹操が七万の軍勢で立てこもっている。
董卓の死後、袁尚は黄河の北部一帯・河北を統一して天下で最大勢力となる。
これに対して曹操は、献帝を保護して許昌に都を移した。
そして黄河の南部・河南を支配していた。
袁紹は河北の濮陽付近にある鄄城に都を移すように要求。
しかし、曹操はこれを拒否した。
そして袁紹と曹操の雌雄を決する全面戦争となる。
これまでのいくつかの戦場での小競り合いでは、互角の戦いであった。
しかし十倍の兵力で負けることはあるまい。官渡を落とせば許昌はすぐそこなのだ。
すでに官渡の周辺にいくつかの陣を置き、半包囲が完成している。
さらに袁紹は官渡の周囲の丘に土山を築いて、複数の物見櫓を建てていた。
槍には弩を持たせた弓兵をおいて、雨のように矢をいかけて曹操軍を苦しめているのだ。
さきほどの轟音はそちらから聞こえてきたようだ。
いったい何だ?
ドゴーーーン!!
さきほどより大きい音が響く。
落雷のような轟音に続き、地面も微かに揺れたようだ。
「申し上げます! 曹操軍が大型の投石器のようなものを持ち出してきました。大きな岩を投げてきております。丘の上の櫓が一つ壊されました」
「何いっ」
袁紹は急いで馬を用意させ、手勢を率いて丘の近くまで走らせた。
「むっ……。あれか……」
空を黒い塊が放物線を描いて飛んでいくのが見えた。
それは残っている櫓の一つを破壊した。
使える櫓の数は半分ほどになっていた。
櫓の周りの弓兵達も逃げ始めている。
飛んできた方を見ると、小屋ほどの大きさの木で組まれたものが見えた。
大きな車輪がついた投石器だ。だが、一度撃てば次まで時間がかかるであろう。
「出撃じゃあ! あの投石器を何としてでも破壊しろっ」
袁紹貴下の部隊が投石器に向かおうとしたが、周囲にはすでに馬防柵が張り巡らされている。
曹操軍からも大量の矢を射かけられ、なかなか近づくことができない。
ドスーン!
今度の岩は袁紹の部隊の方に飛んできた。
逃げ遅れた複数の兵士が岩につぶされる。
「火矢を使えっ。弩の部隊であれを破壊しろっ」
袁紹は声高に叫んだ。
丘から退却した来た弓兵を再編成し、火矢を用意して射かけ始めた。
しかしその時には、すべての物見櫓が破壊されていた。
投石器の車は官渡の街の方に引き上げられていく。
火矢の何本かは投石器に当たったが、守りの兵士に火を消し止められたようだ。
「おのれ曹操め。あのようなものを出してくるとは。だが私の策はこれで終わりではないぞ。公孫瓚を倒した地突の妙技を見せてくれよう。わーはっはっは……」
袁紹は官渡の町を睨みつつ、大きな笑い声をあげた。
劉曄が考案したと言われる曹操軍の投石車。
その轟音から、袁紹軍では霹靂車と呼ばれて恐れられたらしい。
後年、この出来事が由来となって『予想外に発生した出来事』が『晴天の霹靂』と呼ばれるようになったという。
イラストは重りの力で石をとばす投石機です。史実でこれが使われたかは不明です。
三国志作品の中では、重りではなく火薬で飛ばす設定のお話もあります。
始皇帝の時代が舞台の漫画『墨攻』でもこういう投石機がでてたので、三国志の時代に存在してもおかしくないかも。
なお作成者と言われる劉曄は、史実ではまだ曹操の配下になってないようです。
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