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2章:触手と姫騎士(2)

 トイレの個室に入った僕は、ためしに財布から取り出した十円玉を指で縦に力を込めてみた。

 するとコインは、ゆっくり曲がり始めた。


 こんな力、僕にあるはずがない。

 体のあちこちを触ってみるが、筋肉がついたということもなさそうだ。

 後で真白さんに相談してみるか……。


 ――コンコン。


 とりあえずここを出ようと立ち上がると、個室のドアがノックされた。

 トイレには僕以外誰もいなかった。

 当然、他の個室はあいているはずだ。

 アイツらにトイレでいろいろされた嫌な記憶が蘇り、思わず天井とドアの隙間に目を向けてしまう。


「ジュン様、明音だよ」


 ドアの向こうから聞こえたのは、赤石の小さな声だった。


「ここ男子トイレだぞ」

「うん、だから早くイれて欲しくて……」


 イれるという単語だけで、あの夜を思い出してしまう健康な男子高校生である。


 ここまで追って来るのだから、何か話があるのだろう。

 僕がドアを開けると、赤石はするりと個室の中に体を滑り込ませ、後ろ手でカギを閉めた。


「ジュン様、ごめん!」


 そのままの勢いで抱きついてくる。

 片腕を前で吊っていてなお、そのボリューム十分な胸が当たる。


「いつも通りしてくれと言ったのは僕だ」

「でも……でもぉ……」


 これまでなら嬉々としてイジメに参加していたはずだが、今は涙目で僕を見上げている。


「お仕置きして……ください……」


 赤石がウルんだ目で見つめてくる。

 これまでされてきたことを思い出し、加虐心がくすぐられる。

 だけど、やられたことをそのまま返すようなマネはしたくなかった。


 じゃあどうすると言われてもね……。

 特に何も思いつかないんだよね。


「これでどうですか……? 片手しか使えないけど……」


 赤石は膝立ちになると、僕の太ももにそっと手を添えた。


……。

…………。

………………。


「んっ……」


 赤石がごくりと喉を鳴らした。


「はぁ……」


 恍惚とした赤石が立ち上がり、物欲しげに顔を近づけてくる。

 今の赤石とキスする気にはならなず、顔をそむけた。


 悲しげな顔をした赤石の体が光出す。

 しまった!

 僕の体液を取り込むと、変身するんだった!

 こんな狭いところで!


 出現した赤石の鎧が、トイレの壁をひっかき、傷をつけている。

 これじゃあ僕が疑われかねない。


「あれ?」


 赤石は自分の腕をペチペチ叩いた。

 折れていたはずの腕をだ。


「治ってる」


 変身した際、つけていたはずのギプスも制服とともに消滅していた。

 ちなみに、服は変身が解けると同時に戻るらしいが、ギプスもそうなのだろうか。


「ありがとう、ジュン様」


 変身になのか、僕の体液になのかは知らないが、治癒効果があるらしい。

 全くお仕置きにはなってないが。


「でもこれ、どうしよう……」


 鎧姿になった赤石は、両手で大きな胸を持ち上げた。

 たしかにこのまま教室に戻るわけにはいかないし、街を歩けば痴女扱いだろう。

 どれくらいで解けるものなんだろうか。

 そもそも、自然に解けるのか?


「とりあえず、真白さんに連絡してみるか……」



ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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