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父の背負うもの

邸に戻るとジーンが出迎えてくれた。


「旦那様が戻られましたが今は休んでおります。夕食前にフェイブル様とお話をしたいと仰っていらっしゃいました」

「わかったわ。ありがとう」


ここ数日の疲れを思うと父に無理をさせたくなかったが、すぐに話すべき事柄もあるため申し出を有難く受けることにした。


昼食後にジャンヌ達の話を聞くと、ジャンヌとアーバンは潜入し情報を入手する事に長けており戦闘などの実力はジーンに少し劣るが、敵を倒すことを目的としなければ保護対象者を守り逃げることは余程のことがない限り問題がないと話していた。

トーレは潜入には向かないが戦闘能力が高く、視力や聴力にも優れているので相手が隙をついてくることができなくなるため、外出の際は必ずトーレを伴って欲しいと言われた。


「それにしてもジーンは三人とは既に顔見知りだったのね」

「シャーレッツオで訓練する際に相手になってもらうこともありましたし、先日フェイブル様の依頼で教会を調べていた際も会いました。三人とも性格は多少難がございますが、信頼できますし私も頼もしく思っております」

「……トーレも性格に難が?」

「私からは言えません」

「そ、そう」


優しく仕事に誠実そうで個性的な二人をうまく纏めている印象しかなかったため、難があるとは全く想像がつかない。


「……ジーンみたいな観察眼を養いたいわ」

「いえ、あれは実際に目にしない限り誰もわかりません」

「……いつか目にするかしら?」

「目にすることがないことを願っております」


怖くなるような一言を告げ、お茶の準備を終えたジーンは退室した。

とりあえず頼もしい存在には変わりないため、父と話した後に必要であればジャンヌとアーバンには調査をお願いし、トーレには……一緒にいたらやっぱりいつか目にする日も近いのでは?と思い、何があっても受け入れられるよう心積りしておくことにした。



「お父様、忙しい中お時間いただきありがとうございます」

「いや、私もすぐに話したかったからな。サノス侯爵家でお前達を取り巻く問題について詳しく聞くことが出来た。フェイブルにはクロウくんが話したと聞いている。話を聞いてお前がどうしたいと思っているのか知りたい」


クロウから聞いた話の内容があまりに重大で父にどこまで話して良いか悩んでいたが、サノス家から聞いたと聞きとても安心した。今回の件は父以外には相談できずにいるので、その父にも話せないとなるとかなり苦しい状況に陥るところだった。

決断したことを覆す気持ちはないが申し訳なく思いながら自分の気持ちを伝える。


「クロウは私達の未来に向けて動いていました。私も同じ道を選びます。ですが、その事で私だけではなく家族を危険にさらすことになります。それだけが……」

「前を言ったようにフェイブルが決めたことなら私はそれを支持するし、何よりお前が望む道が選べることを嬉しく思う。それなら、私が第一にすべきことはお前が心配しなくて良いように家族を守ることだな。私が用意しなくともお前の守りは既に用意されているようだから大丈夫そうだが、できれば武器も与えられたらよいのだが……」

「武器ですか?」

「言葉通りの意味ではないが……まあ少し待っていてくれ」


クロウのような力を持たない私にとって武器が持てるというのは願ってもいない話だった。何も出来ず無力感ばかりがつのる状況を少しでも改善出来るかもしれない。そう思うと嬉しかった。


「わかりました。お父様その件に関してですが、クロウからサーヤにも接触があったのでミンティナも気をつけるようにと言われました」

「わかった。領自体の守りは連絡すれば十分だろうが問題はミンティナ自身だな、なにか手を打っておくから心配しないように。……それとショモナー家のことだが、伯爵夫妻に関しては死亡が確認されていて兄妹については行方不明扱いになっている。差し押さえなどの処理は既に終えたが、押収されたものの一部の処理と付随する仕事をサノス家から依頼されている。クロウくんの別邸に運んで欲しいと言われたが、知っているかい?」


兄妹は行方不明扱い……任務に付随したことであってもクロウがしたことは公にはできないことであると改めて感じた。

行方不明であればショモナー兄妹に関してノミンシナからまた接触があるかも知れない。その時どう対応すべきか考えておく必要があるだろう。

押収されたものの一部に関してサノス家が依頼しながらクロウの別邸にということは、サノス家が保管できないものということだ。王族……王妃様に関係する何かだろうか。クルライが祖父母は王妃様からの覚えもめでたいと言っていたことを思い出す。


「ええ、知っています。ジャンヌ達も知っているはずですから、ジャンヌ達に頼めば運んでくれると思います。私がそれを確認することはできるでしょうか?」

「今はまだ無理だとしか言えない。……私が直接行くことは避けた方がよいだろうし、確かに三人が適役だな。もう一つの仕事に関してはカートイットの本来の業務に関するものであるから、領地に戻る必要がある。そう言えば、想像がつくかな?重要な仕事であるため戻ればしばらく私は領地から動けないだろう。ただサノス家から今後も別の仕事を頼まれる可能性もある、私が王都にいれない間はフェイブルお前にそれを代行して欲しい」

「……かしこまりました」


今はまだということなら、いつかは目にできるのだろうと期待を持つ。渦中にいながら目の前にある情報に手が届かないままでいるのはやはり歯痒い。


カートイット本来の仕事は宝飾品の加工だ。父が直接依頼されるような重要な宝飾品となれば……失われた王族の装飾品の作成以外にないだろう。

王妃に関係する押収品、失われた宝飾品。この二つについて依頼しなければならない状況にあったことでサノス家は今回の経緯を父に開示したのかもしれない。

これほどの重大な情報と任務をサノス家から請負いながら、父には焦りも不安も一切見えなかった。私が今まで感じていた以上にカートイット伯爵家が担うべきものは大きいのだろう。カートイット家の当主となるためにはどれほどの心構えが必要なのだろうとその地位の重さと、それを受け止めながらも揺らぐことのない父の強さを思った。


「私からはそのくらいか……。フェイブルからは何かあるかい?」


王妃様と主教がショモナー家の問題に関わっていた可能性があること、ノミンシナと王妃の関係が予想以外に良好であったこと、今度主教の関係者と思われる殿下の友人候補が離宮に来る予定があるが、それがノミンシナの子どもであるかもしれないといったような事を父に話した。


「……フェイブルは職を辞する気はないのだろう?」

「はい。危険性が高いことは承知してますが、自分の為にも教師という役目から考えた場合においても辞めるつもりはありません」

「わかった。護衛の目も届かない場所だ、くれぐれも気を付けなさい。王妃様に関しては難しいが、私の方でも教会とハオスワタに関しては情報を集めておこう」

「ありがとうございます。それと……全く別の話になりますが、見送りの際にホビロン卿お会いしまして、その際も過分な気遣いを受けました。送って下さるという申し出はお断りしたのですが、邸に戻ったら一筆貰えれば安心するとおっしゃいまして。まだ筆をとっていないのですが……お父様はどういった方がご存知でしょうか?」

「ホビロン卿か……確か離婚の経験がありその後は一人で子どもを引き取って育てているはずだ。何か思惑があってお前に近付いているのか、善意からはまだわからないな。ただ、何か違和感があるから報告してきたのだろう?」

「はい、なんとなくですが……」

「手紙の方は私が出しておこう。お前がやり取りして噂が立つようなことがあれば良くない」

「ありがとうございます」

「お会いしたからわかると思うが、ホビロン卿はあまり宝飾品には興味がないようでな、カートイットに情報があつまりにくい相手でもある。気を付けることに越したことはないだろう」

「かしこまりました」


確かにホビロン卿は最低限の宝飾品しか身につけておらず、服に関しても流行とは無縁のベーシックな物を身につけていた。騎士らしく指輪などはつけておらず、ピアスはあったものの石や飾りはなく願かけのようなものに見えた。父がいうように、情報を得るため通い詰めている王都の服飾店の記録でもホビロン卿の名を目にしたことは無い。

子どもがいることは知らなかったが、そうなると後妻を探している可能性もあるが婚約を破棄された私よりも相応しい候補はいくらでもいるだろう。侯爵家の跡継ぎでありまだ若く、男性の離婚暦などは大して問題にもならないのだから。

やはり単なる親切に過ぎず私の考えすぎだろうか。


「では先に夕食に向かいなさい。私も先ほどの手紙を済ませたらすぐに向かう」

「ありがとうございますお父様。また夕食で」


今後も父に相談できることに深い安堵を得ながら書斎を後にした。

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