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お土産探し

士官学校に進まない者は小等部終了後四年ほど一度領地に戻り学ぶ期間が設けられる。そのまま領地を出る気がなければ優秀であっても中等部を受験しない選択もでき、受験するものは領地の勉強にプラスして選抜試験の勉強を行う。

私は専ら家庭教師を目指し学習していたが三歳下のミンティナは細かい作業が好きでお父様のように職人達のところへ出向きつつ最低限の学習をこなしている。今回の事でミンティナが家督を継ぐ可能性もでてきた為、妹には学習への意識を変えて貰わなければならない。中等部を受験し王族や王都の流行について学ぶことも必要になるだろう。父がまだ若く家督を継ぐのは先になる為、父は跡を継ぐものに一度王都で経験を積むことを望んでいる。父のように手仕事を愛する妹は後継に向いているのだとは思うものの責任を押し付けるようで申し訳なくなる。

とりあえず今日はミンティナが喜ぶお土産を見つけよう。そんなことくらいで妹の機嫌が取れるとは思えないが……


朝はやくから馬車に乗って人気のスイーツ店に向かう。妹のミンティナから頼まれたお土産は三つだ。王都でしか食べられないお菓子、珍しい染めの布地、有名ロマンス作家の新刊。そのため、売り切れ次第閉店してしまうスイーツが最優先となる。

開店前にも関わらず既に多くの客が訪れたようで午後にはなるが来店予約を入れれたことに安堵した。予約時間で再度落ち合うことを決め、母は頼まれた本を求めロマンス小説の専門店に、父と私は仕事も含めカートイットが装飾品を担当している服飾専門の商店に布地を求めにわかれた。


私自身も読書は趣味だが一定のジャンルにこだわらず幅広く読むタイプである。小説も好んで読むものの、母と妹のロマンスにかける情熱とは差があり、二人の気持ちが滾る中に水を差してしまい「お姉様は現実的過ぎる」と言われることもしばしばなため、今日は父と布地を選ぶことにした。

父には装飾関係の知識は適わないがミンティナの好みに関しては私の方が父よりも正確に把握してるため喜ぶものが選べるだろう。


商店に到着すると仕事の方はやや込み入った話になりそうだと聞き、まずはお土産の布地を選ぶことにした。


遠目から見ると木漏れ日のように緑に白が光るように差してある布地が気になった。間近でみるとグラデーションのある緑に白で無数の葉の葉脈が描かれているようだった。ただこの繊細さをみると描いたのではなく実際に葉の葉脈を使用したのではないかと思うがどのように染められたのかは想像もつかない。しかし紛れもなくこの木漏れ日の反物はミンティナが好むものだろう。父も初めて目にしたようで大変感心したような表情を見せた。

店主に聞くとまだ無名である若い染物作家のもので試しに置いてみたそうだ。作家の連絡先も控えて置くことにした。お母様から見ても問題ないようであれば、自身としてはまた新しい作品を目にしたいと思った。

お土産の布地は無事購入できたため残すは仕事の話となる。私達は従業員専用の扉から裏に回った。


「カートイット伯爵様、こちらの債権者リストなのですが……」


全面鏡張りの店内は広く、また商品を何重にも煌びやかに魅せる。しかし全てはマジックミラーになっており、実際は内装の意味合いより防犯上の理由が大きいのである。

商店は顧客の多くの秘密を抱えている。そしてその情報は顧客自らが意識して開示している情報の数倍はあるだろう。父親が私達に秘密を嫌うのは仕事の上で抱え込みきれない量の秘密を扱っている影響も大きい。

装飾品の購入履歴、購入目的、債権情報など最たるものだ、それだけでそれぞれの貴族の経済状況、家族構成年齢、他家他領との繋がり様々なものを知ろうと思えば知ることができるのだ。

カートイット家が一目置かれているのは技術だけではなくその情報もだろう。普通に考えると下手に手を出せる相手ではないのだ。

改めて父の立場の重圧を感じた。


債権者リストには同じ家名が何度も見られた。この債権の量を家単位で考えると途方もない額で入店拒否を行う状況にあるが、個人単位になると毎回ギリギリの状況で支払いがなされており対応が難しく今の額まで膨れ上がっているようだ。

今回カートイットに相談があったのはその家の先代の伯爵夫妻が不幸に見舞われ支払いが見込めなくなってしまった為だった。その支払いを当代伯爵に請求しても意味はないだろう、使い方が一番派手でありそしてそれに比例するように収入額が多くあったのは亡くなった先代の伯爵夫妻であったからだ。

過去の栄光を物語るような夫妻が亡くなった今、収入は見込めず一族の中では最大の債権だけが残ることになったのである。


「フェイブル、以前この方から個人的に注文を受けていたが支払いは完了したか?」

「いいえ。商品の受け渡しの際に一週間後に支払いに従者を向かわせると伺いましたが、その後連絡はありませんわ」

「そうか……店主よ、今後装飾品に関してはショモナー家の新規の依頼は断るようよろしく頼む。今ある未払いのものについては一旦カートイットで受け持つ。支払いがなされた際にはすぐに連絡をしてくれ。」

「助かりました。ご配慮いただき有難く存じます」

「フェイブル。個人的なものに関しては支払いがあるかも知れないが先代伯爵夫妻のものに関してはおそらく差し押さえ等の処置が必要になるだろう。そのためフェイブルへの支払いがなされたとしても、今後は私的な場においてもカートイット家として注文は受けないようにしなさい」

「かしこまりましたお父様。私が請け負ったショモナー兄妹の未払い分に関しては私が責を負います」

「いいや、その必要はない。差し押さえ処置が必要となれば請求を分ける方が良くない。お前を通じて無理を通してくる恐れもある。全ては私が預かる」

「私が考え足らずでしたわ……。ありがとう存じますお父様」

「これもちょうどよい良い機会だな。これからはこのような学びの場も増やしていこう」

「はいお父様」


こういった事は一定数は起きる問題のようで父の対応に迷いはなかった。回収に関しても見込めるようであり、父が私に説明している間に父に仕える従者は父の目配せに頭を下げると店を去り動き始めたようであった。

優しい父親のいつもとは異なる顔を目にし、今までは深く関わって来れなかった家の事業に触れさせてくれたことを嬉しく思うとともにその責任を感じた。今後は自身の為だけではなく家の為に学ぶことも増やしていく必要があるだろう。


クロウとの婚約がなくなった今、カートイットの後継者は未定となった。

父は私の判断を待ってくれている。クロウの事を諦める日が来たら妹を支えることが私のできる唯一だろう。後継者であることよりも未婚でいることを選んでしまうだろうから……

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