プロローグ
「華燭の灯る佳日まで、貴方と共にあり貴方を護る証としてこれを捧げます」
二つの重なる誓約の言葉と共に、ブローチと首飾りが互いに差し出された。どちらも、金色に力強く煌めくイエロートパーズと桃色に優しく揺らめくローズクォーツが寄り添うようにデザインされている。
誓約の証を身に付けると差し出された少年の手に少女の手が添えられた。
白銀の髪に金の瞳を持つクロウゼス・シャーレッツオと月白の髪に桃色の瞳を持つフェイブル・カートイットは 互いに十二歳となる年に婚約の日を迎えた。
二人が初めて手を繋いだのはわずか生後ひと月の頃だ。伯爵同士の父親が元々親友であり更に家は隣合っており、家族同士の交流が頻繁に行われていた。両家の夫人が同時期に懐妊するとその縁はさらに深まり、双子のように育てられた。二人は当たり前のように一緒にいて、それでいて性別も見た目も性格もまるで違っていた。ただ唯一互いを愛しく思い、これからも二人でいる未来を疑うことのない真っ直ぐな思いだけが同じだった。
「ふふっ」
式が終わるとフェイブルは我慢できないとばかりに口を抑え笑い声をもらした。
「フェイ?どうした?何か可笑しいとこでもあったか?」
「ち、違うの。だってあまりにクロウが真剣な顔してるんだもの……ごめん我慢できない」
と今度は両手を口に笑い始める。
「愛を誓うんだから当たり前だろ」
「だけど、プロポーズの時は違うじゃない?」
まだ笑いを収めれないフェイブルにクロウゼスが拗ねたような表情を見せる。
「でも、そうね。クロウは三歳の頃から毎年誕生日にプロポーズしてくれたから。言われる前から嬉しくなっちゃって笑っていた私のせいでもあるわね」
「フェイが笑顔だからつい笑顔になっちゃうけど、俺はいつだって真剣にプロポーズしてるよ」
「わかってるわ。ありがとうクロウ。でも、これからはきっと真面目な顔で二人でいる機会が増えるわね」
「次はデビュタントのエスコートかな?……自信はないけど頑張るよ」
「私もないわ…きゃあ!!!」
そう言って瞳を見つめあい笑いあった時、晴れた空を切り裂くように雷鳴が轟いた。
瞬く間に黒い雲が湧き出し激しい雨が降りつける。
すぐさまクロウゼスはフェイブルを抱き寄せた。
「大丈夫フェイ?」
「ええ、急だったから驚いただけよ」
クロウゼスの腕の中でそう答えたフェイブルは見知らぬ姿をしていた。
赤くうねる髪に赤い瞳をしていて、驚愕に固まるクロウゼスに対し真っ赤な唇で笑みを浮かべる。
勢いよく抱擁を解き我に返る。あらためて目を向けるとそこには月白の髪をもち不安そうに桃色の瞳を揺らしながらクロウゼスを見つめるフェイブルの姿があった。
クロウゼスは頭を強く降り一瞬の悪夢を振り払った。そして再度フェイブルを腕に囲いながら、最愛の人を不安にさせ自身に悪夢を見せた雷雲を射殺さんばかりに睨み付けた。
「あ、晴れてきたわ。通り雨だったみたいね。ほら、見てクロウ!虹だわ!」
「本当だ綺麗な虹だね」
これからの二人の行先を暗示するような空だった。