54 sideB エンジンの裏町
また塔に入ってきた時と同じようにトンネルを通って出た町は今まで俺たちが見てきた地下都市の光景とはまた全然違ったものだった。大きな建物が何やら煙突のようなものを生やして、モクモクと煙を上げている。
無骨な建物が並ぶ中で上下繋ぎの服を着た人たちが、鉄を打ったり、溶接したりしていた。
「都市のこっち側は工業地区なのだ。空気が悪いからあんまり深呼吸とかしない方がいいのだ。」
世の中煌びやかなものがあれば必ず影がある。そんな当たり前のことを改めて見せられた気分だ。
チルチルの家はそれからしばらく歩いたところにあった。周りは何もない。
「ここら辺は、空気や土壌が汚染されていて誰も住まないのだ。だからチルチルにとっては好都合だったのだ。」
チルチルは家に入ってゆく。
家は簡素なものだったが、工房にはよくわからない部品などが転がっていた。
それから俺たちは三日間その家でダンジョン攻略の準備をした。
「そういえば、お前のその鎧も魔法をはじくよな。」
「ダンジョンで拾った素材で作ったのだ。中にいる人の魔法は通すのに、外からの魔法は通さないのだ。ある程度のエネルギー遮断なのだ。」
チルチルの話によると、一応許容量があるらしい。よくわからないが。
「……これでよし。できたのだ!」
そう言ってチルチルは腰に手を当てて、ふんっと胸を張る。
「よろい君2号なのだ。」
そこには以前より少し小型になった一方で、それでもまだ鎧と言うには複雑すぎる代物があった。
俺たちはダンジョンの塔の中にいた。俺とチルチルが戦った、入ってすぐのところにあるホールだ。
チルチルは漆黒の鎧を、ミクはチルチルがちょちょいと作ってくれた多少の魔法を防げるマントを羽織っていた。
「ミクは絶対俺から離れるなよ。」
ミクがコクンと頷く。
「よし行くか。」
「どこから上に行くんだ?」
「コッチダ」
チルチルは初め出会ったときのような感情のない音声を発して、ホールの端に走ってゆく。
チルチルが指したところはよく見なければわからないが、少し周りと壁の様子が違うようだった。チルチルはその壁を押すと、ギィと音を立てて、壁が開く。それは3mほどの扉のようだった。これは知らなければ気が付かないな。
「隠し扉か。おい、それよりもその変な声どうにかならねえのか。」
チルチルの方を睨んで俺が愚痴った。
「なるのだ。ただ自分の声のせいで嫌われてるかもと思っていたから、この打ち込みの機械音声の方がかっこいいのだ。」
「うるせえ、自分の声に慣れろ。それは禁止だ。」
「……わかったのだ。」
その扉の先に入ると、そこは異様な空間だった。わずかな踊り場はあったものの、小さな空間にその踊り場と昇りの階段しかない。
バタンと言う音を立てて扉が閉まる。ふと、閉まった扉の内側を見ると何かが書いてあった。
「ミクあの言葉読めるか?」
ミクはコクンと頷いてその文字を読み上げた。
「避難用階段 緊急時以外使用禁止 緊急時以外は自動警備装置が作動」
どうやら、チルチルの言うロボってのはその自動警備装置のことかもしれねーな。
俺たちは恐る恐る階段を上り始めた。カンカンと鉄と靴がぶつかる音が響く。チルチルの鎧は歩くたびにウィーンウィーンという、何かこすれるような不思議な音がしていた。
階段は塔の壁の内側に沿うようにして大きな螺旋を描いて伸びているようだった。階段室ともいえるようなそこは、幅は人が4人ほど手を伸ばした長さ、おおよそ7メートルほどだろうか。
左右は壁に囲まれており、外側の壁が塔の外、内側の壁が塔の内部を隔てているのだろう。
天井には等間隔で明かりがついている。
「おいチルチル、まさかこんな階段で幅も狭い状況の中、魔法の効かねえ奴らと戦うのか?」
「そうなのだ。でも全く効かないわけじゃないのだ。耐久性の問題なのだ。」
たまに機械の部品のようなものが地面に落ちている。ほかのやつがロボを倒した残骸なのかもしれない。屋内でかつそれほどスペースも広くない。
戦うには不向きな環境だった。
俺が頭の中で、使う魔法をシュミレーションしていると、突然ビービーと何か音が鳴り始めた。
「恐らく上から来るのだ。まずはチルチルが倒すから見ていてほしいのだ。」
そう言ってチルチルは俺たちに下がっているように言った。
俺はいつでも魔法が使える準備をしつつ、ミクの前に立つ。
ビービーと言う耳に響くような音と、ガンガンガンと何かが階段を降りてくる音が徐々に近づいて来る。
そしてそれは突然、ぬっと目の前に現れた。




