52 sideB 本当のダンジョン
「……いいのだ?」
チルチルがこちらを窺うように見る。
「いいもなにもこっちから誘ってんだ。ダンジョン攻略ってのは話を聞いてから決めるがな、何つーか、あれだ。とりあえず、飯食うぞ。」
そう言うと、チルチルはまた目に涙を溜め、泣き始めた。
あーあー、もう、うぜーなおい。
俺はチルチルを抱えるようにして、ホールの壁側にいくと、そこにチルチルを降ろし、腰を掛ける。
ミクの鞄からごそごそと『おにぎり』とやらを取り出してチルチルに差し出す。
「ほら、食え」
チルチルは少し驚いたようにそれを受け取る。
「おにぎりなのだ。」
「そうだ。おい、ミクもほら、食え」
ミクも頷いて俺からおにぎりを受け取る。三人でもぐもぐとおにぎりを食べる。
ふと、チルチルの方を見ると、また泣いていた。おい、こいつ泣きすぎて脱水にでもなるんじゃねえのか。
「誰かと、食べるおにぎりはこんなにもおいしいのだ……。」
そう言って一口食べては涙をぬぐい、また一口食べては涙をぬぐうの繰り返しで、食うのに随分と時間がかかっていた。
俺とミクはチルチルが食べ終わるのを黙って待っていた。
チルチルが食べ終わったのを見計らって俺はチルチルに事情を聴く。
「おい、チビ」
「チビじゃなくて、チルチルなのだ。」
ったくめんどくせーな。
「そもそも、お前は何者だ?」
その質問を皮切りにチルチルは自分の生い立ちから今までを長々と話した。
まとめると、チルチルは魔の子の例に漏れず、親に井戸に捨てられて、地下都市に落ちてきたみたいだ。
そこで何とか乞食や盗みで食いつなぐも、限界が来た。そんなある日、路地裏でダンジョンカードを拾ったらしい。もうこれはダンジョンに行くしかないと思ってダンジョンに潜り早数年、死に物狂いで戦って、現在に至るという訳だ。
「じゃあなんで、俺を仲間に誘おうと思ったんだ?」
「それはもちろん大乱闘競技大会なのだ!あの強さは別格なのだ。さらに魔法まで使えるならもう無敵なのだ!」
興奮気味に熱く語り始めるチルチルに俺は若干引き気味になる。
念に一度のお祭りと言うことでチルチルも参加したくなったらしく、たまたま観客席で見ていたら、俺の戦いを見た。
もう俺を誘うしかないと思って大会後に俺を探していたらしい。
まあそこまでは理解できる。問題はダンジョン攻略云々だ。
俺の考えが正しければ、
「おい、チルチル、お前はなんで、このダンジョンを攻略したいんだ?
もしかしたらこのダンジョンを攻略して上に行けば地上に出られるのか?」
チルチルは俺にそう聞かれて不思議そうな顔をする。
ちっ、これは、的外れな予想だったか。地上に出れる希望がまた遠のいちまった。
「そうじゃないのだ。
確かに上に行けば地上に出られるのだ。チルチルはもう何度か地上に出てるのだ。」
俺は思わず前に乗り出して聞き返す。
「出られるのか!?」
「で、出られるのだ。それまでに強い奴はいるけど、チルチルとお前が居たら余裕なのだ。」
俺は安堵の息を漏らす。
そうか、出られるのか。というかよく考えたらそうだよな。こいつは恐らく、漆黒の魔人で間違いない。デカブツの黒鎧騎士という特徴も一致している。その噂が地上に流れているってことはつまり、こいつは地上に出たってことだ。
そこでふと疑問が浮かび上がる。
「それならなんでお前はまだ地下に居て、攻略済みのダンジョンを攻略する仲間を探していたんだ?」
「ダンジョンはまだ攻略していないのだ。」
「???」
俺とミクは理解ができずに首を傾げる。
「ここから、地上までの塔のことを、確かに地下都市の人たちはダンジョンと呼んでいるのだ。
だけど、それは間違いなのだ。
確かに、対魔法を想定された高性能警備ロボットが結構うようよしているから、普通は通るのでさえ難しいと思うのだ。それでも所詮ここから上までの道は地下と地上を繋ぐただの通路なのだ。この地下研究所はもっと深地層に設置されているはずなのだ。」
俺たちはますますチルチルが何を言っているかわからなくなった。
「おい、俺たちにもわかるように言ってくれ。」
すまないのだ、えーと、とチルチルは少し考えてから口を開く。
「つまりは、
この古代工業都市エンジンの本当のダンジョンはこの上ではなく、下。つまりもっと地下へと伸びているのだ。」
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