51 sideB 出会い
今できることを考えろ。
あと一撃であいつを倒さなければならない。
そのためには一番得意な魔法を最大出力であいつの鎧に最短距離でぶっ放すしかねえ。
俺は最後の力を振り絞って、正面から漆黒の魔人に飛んでいく。あいつがそれをやすやす見逃すわけもなく、上から拳を振り下ろしてくる。
それをギリギリで避けると、股の下に滑り込み、背中に回り込む。幸いあいつの動きは鈍い。
俺はあいつの鎧の後ろに手のひらをかざし、俺ができる限りの魔法をぶっ放す。
「魔道朱殷流 拳式 雷撃拳!!」
瞬間、鎧の中でバチッと音がして、漆黒の魔人は力が抜けたかのように膝から崩れ落ちる。
俺は魔法の反動で大きく弾け飛び壁にぶつかった。
「やったか」
魔人は膝をついたまま動かない。
しばらくすると、プシューと言う音がして、鎧の胸の部分が開く。
瞬間、膨大な魔力が場に充満する。俺は痛む体に鞭を打って、咄嗟にミクのところに駆けてゆく。ミクは魔力の恐怖で歯を鳴らしている。
クソ、倒せてなかったか。
鎧の胸の部分からは煙が出ていて何やら人影が見える。中に入っていた漆黒の魔人が出てきたようだ。
「いや~、困ったのだ。これは困ったのだ。」
場違いな素っ頓狂な声に俺は首をかしげる。煙から出てきたそいつはミクくらい小さいガキだった。頭の中で情報を処理しきれずに困惑する。
そいつはこっちを見ると、トコトコと歩いてくる。
俺は魔力をいつでも出せる体制でガキを睨む。
すると、ガキは立ち止まり申し訳なさそうに謝る。
「ご、ごめんなのだ。チルチルはこの魔力遮断の鎧を着ていないとみんなを怖がらせてしまうのだ。けど、敵意も悪気もないのだ。」
その声があまりにも悲しそうで、俺はふと疑問を抱く。
こいつ、まさか、自分の魔力を抑える術を知らないまま、魔人になったのか。
と言うことは。
「おい、お前の魔法は、誰に学んだ。もしかして……。」
ガキはもじもじとしながらこっちをちらちらとみて答える。
「チルチルは誰にも学んでいないのだ。死に物狂いでずっと戦っていたら自然と使えるようになってきたのだ。」
俺はそれで大体の事情を察して、はあ、とため息をつく。
ミクにこの場でもう少し我慢して待っているように言って、ガキの方に歩いていく。
「おい、ガキ、名前は?」
すると、ガキはこんな近くで話しかけられたことがないのだろう。おどおどしながら、目を合わせずに答える。
「チルチルなのだ。怖がらせて本当にごめんなのだ。その小さいのを怖がらせるつもりはないのだ。というか、お前は怖くないのだ?」
怖くねーよ、と俺は投げやり気味に返事をする。こいつに悪意はない。というか、そもそもこいつは戦闘意志もなければ、初めから聞き分けが良かった。
俺の方から始めたケンカだしな。
「チルチル、今から俺の言うとおりにしろ。いいか、まずは……」
魔の子や魔人が魔力放出を抑える方法は案外簡単だ。ほかのやつはどうか知らねーが、要はケツの穴を閉じるような感じで放出を止めるだけだ。感覚的にも難しくない。
俺はガキ、チルチルに魔力放出の止め方を教えて、そいつができるようになるまで面倒を見た。
数十分後にはチルチルは魔力を放出しなくなっていた。
「こ、これでいいのだ?」
俺は頷く。
「小さいの。お、お前もチルチルがもう怖くないか。」
チルチルがミクに聞くと、ミクも「怖くない」と言って頷く。
「そうか……。そうなのだな……。」
チルチルは嬉しいやら悲しいやら何とも言えない顔になる。
「そう、なのだな……。チルチルはもう、嫌われずに済むのだな……。」
そう呟くと、静かにぽろぽろと涙を流した。
俺を見てため息をつく。ガキって言うのはなんでこんなめんどくさいんだ。だからガキは本当に嫌いだ。
俺はガキの前で膝をつく。
「おい、チビ。辛かったな。もう大丈夫だ。」
それでも、例えじじいの真似事だと分かっていても、じじいが俺にしてくれたことが無駄ではなかったと信じたいから。
俺は不器用にチルチルのことを抱きしめる。あの時じじいが俺にしてくれたように。
最初、チルチルは何をされているのか理解できなかったようだが、思考が追いつくと、わんわんと声を上げて泣き始めた。
「本当によく頑張ったな。」
俺はチルチルの頭を撫でる。
本当によく頑張ったよ、お前は。
チルチルは長いこと俺の胸元で泣いていた。
しばらくすると、ズーー、と鼻をかむ音が聞こえる。
「おい、お前、俺の服で鼻をかむな!」
俺は立ち上がり、ひょいとチルチルを持ち上げる。
チルチルは目を真っ赤に腫らし、鼻水を垂らし、くしゃくしゃな顔をしていた。
俺は持ち上げたチルチルの目を見る。少し考えてから、口を開いた。
「おい、お前、俺様に負けたよな。」
「チルチルは鎧が壊れただけで……」
何も言わず、ガキを睨むと、チルチルは悲しそうな顔をして頷く。チルチルが勝てば一緒にダンジョン攻略、俺が勝てば俺の言うことを聞くという話だった。
「それだけ、魔力を抑えられれば、もう仲間と行動することもできるから、ダンジョン攻略は大丈夫だろ。勝手に同業者を募れ。」
俺がそう言っても、チルチルの顔は浮かない。
俺は少し胸がチクリと痛みながらも、言葉を続ける。こいつは悪い奴じゃなさそうだが、まだそれも確かではない。ミクの身の安全のことを考えると、そうせざるを得なかった。
「お前には俺が勝ったんだから、お前の魔法を俺に教え……」そこまで言ったとき、ミクがどんと俺に体当たりをする。
そして俺を見上げて言うのだ。
「シュルク。ミクはシュルクを助けるためにいる。お荷物なら消える。」
そう言って俺を睨む。
「シュルクはミクのすごいヒーロー。」
こいつは本当に何なんだ。
俺はため息をつく。もう一度ちらと、ミクに目をやると、ミクは頷く。はあ、これだからガキは嫌いなんだよ。
見えもしない空を見るために上を向いて、俺はまた一つ、背負う覚悟を決める。
「おい、チビ。」
チルチルは顔を上げる。
「俺たちの仲間になれ。」




