50 sideB 漆黒の魔人
よくわからねえ表彰の式典にミクが呼ばれている間、俺はやることがなかったので、そこらぶらぶらと歩いていた。
「見ツケタ」
そんな声が後ろからして、ふと振り向くと、割れた人混みの奥から真っ黒い甲冑のようなものを身に着けたやつがこちらに歩いてくる。
「ああ?誰だ、てめえ。」俺がそいつを睨み返すとそいつは両手を挙げる。
「敵意ハ無イ。」
両手を挙げたままこちらに歩いてくる。
黒い甲冑野郎はかなりの大柄で二メートルはありそうだった。俺の前まで来ると、そいつは俺を見下ろす。
「気安く話しかけんな。ぶっ殺すぞ。」俺がそいつを睨みつつそう言うと、
「スマナイ。我ハ漆黒ノ魔人。貴殿ト話ガシタカッタ。」
感情のないような、まるで心がないような抑揚のない声でそいつは俺に言う。
「三時間後ダンジョンで待ツ」
そう言い残して漆黒の魔人は去っていった。
何だったんだ。
それからしばらくしてミクがへとへとな顔をして戻ってくる。
「取材、取材、取材、すごい大変だった。」
俺は返ってきたミクの頭を撫でてやり、ひょいと抱える。
「おい、用ができた。行くぞ。」
「??」
ミクは不思議な顔をしながら、俺に抱えられる。
約束の時間になったとき、ダンジョンの前には漆黒の魔人が立っていた。
周りには人っ子一人いない。
魔人にしては中途半端に魔力を垂れ流している。
「おい、きたぞ」
「来イ」
そう言って、ずんずんとダンジョンの方に向かってゆく。俺たちも訳が分からないまま、そいつについてゆく。
漆黒の魔人はダンジョンの前に着くと、そのカードを壁に差し込む。すると、カードは壁に吸い込まれて、ダンジョンの壁がすっと消え、入り口が出てきた。
俺とミクはその不思議な光景に驚愕する。
「何ヲシテイル。来イ。」
そう言って漆黒の魔人はダンジョンの中に入っていったので、俺たちも同じようにダンジョンにカードを差し込んで彼についてゆく。
ちなみにダンジョンカードは返ってこなかった。もしかしたら使い切りなのかもしれない。
ダンジョンを入ると、長いトンネルのような暗い道に入る。先に何やら明るくなっているところが見える。
しばらく歩くとトンネルを抜け周囲が明るくなった。そこはホールのようなところで、天井が見えないほど高かった。
この塔はどうやら吹き抜けのようになっているらしい。ずっと上まで伸びていた。ダンジョンという割には美しい建造物だと思った。
漆黒の魔人はそのホールの真ん中に立ち、俺たちを見下ろして言った。
「単刀直入ニ言ウ。 ダンジョン攻略ニ協力シテクレナイカ」
俺は予想していなかった頼みに面を食らう。
「どうしてだ?」
「オ前、強イ。」
俺は少し考える。俺の予想だと、このダンジョンの頂上は地上だ。つまり、ダンジョン攻略するのは俺たちにも都合がいい。しかし、それだけじゃ、俺たちがそもそもここに来た意味がない。
俺は力をつけなければならないのだ。
「お前が俺に勝ったらいいぜ。代わりに俺が勝ったらお前も俺の言うことを一つ聞け。」
「我ハ魔人ダ。ソレデモ良イカ。」
俺は頷く。
「おい、ミク。離れていろ。デカブツ、この小さい奴は何もしないから攻撃するなよ。」
「ウム」
ミクがととと、とホールから離れる。
「来イ。」
漆黒の魔人のその声を号令に俺は地面を蹴り、剣を抜く。
「最初から全力で行くぜ。」
奴の表情はわからないが、やつは俺の攻撃を避ける気配すらなく、ただただ立っている。
俺は剣に炎を纏わせる。
「魔道朱殷流 剣式 火炎一閃」
瞬間、俺の体が重たくなった気がした。剣がいつものように振れない。漆黒の魔人はその巨体にも関わらず、軽々と跳びそれを後ろに避けた。
「驚イタ。オ前、魔人ダッタノカ。」
ったく、驚くのは俺の方だ。今は何の魔法だ?魔王国ですら見たことがない。
「だったら、やめるか?」俺がそう煽ると漆黒の魔人は首を振る。
「マスマス一緒二来テ欲シクナッタ。」そう言って両手を前に構える。
来るか。
俺が、身構えたが、あいつは何もする様子がない、と思った次には俺の体は地面に倒れこむ。まるで何かに押さえつけられているかのように、起き上がることができない。
クソ、やっぱり強え。
「勝負アッタ」
俺はこちらを見下ろす漆黒の魔人を睨む。
「まだだ。まだ負けてねえ。」
俺は起き上がる。ジークに教わったことを生かして、地面に接している体から火を出し、起き上がる。
クソ、常に体から力に拮抗するように火を放出してないと立っていることさえままならねえ。
俺は地面を蹴りあいつに飛んで行く。さらに力が強くなる。俺も火を強めてそれに対抗する。
間合いに入った。
「魔道朱殷流 剣式 火炎龍突」
炎を纏わせた一突き。全力だった。俺の剣はあいつに当たった。だが、鎧によって弾かれる。
魔法無効の鎧かよ。そんなもの、神話でしか聞いたことねえよ。
俺はすぐに飛び退いて間合いを取る。考えろ。あと俺には何ができる。
また俺を押しつぶす力が強まった。本当に魔人ってのはどいつもこいつもバケモンかよ。
体力的に時間がないことを悟り、俺は再びあいつの方に走ってゆく。
多分次がラストチャンスだ。
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