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閑話 彼の行く先に私も

私は宿の部屋につくまでずっと、彼の目的を考えていた。


そういえば盗賊団にいた時、その中の一人が言っていた。

女の子を抱くと、気持ちがいいと。その当時私は抱きしめるだけなのに、なんで気持ちがいいのか分からなかったが、そのうち意味を理解して怖くなった。結局お前は汚いからありえないと言われ、なにもされずに済んだ。


きっと彼の目的もそれかもしれない。私は少しだけ身構える。


彼は私をベッドに座らせ、私の顔に薬のようなものを塗ってゆく。


一通り私の怪我を手当てしてくれた後に、彼は何か思いついたように部屋を出てゆき、誰か女の子を連れて戻ってくる。


私が何をするのかと彼を見ていると、そのうち彼はその少女に代筆をしてもらい、私に何かを伝えようといるみたいだった。どうして私の耳が聞こえないことが分かったのだろう。


その内容は私が予想したものとはまるで違うものだった


彼は私の命を救うのみならず、その後この宿で衣食住まで提供してくれるというのだ。


意味がわからない。どうしてそんなことするのだろう。私は代わりに何をすればよいのだろう。


彼はそのうち少し申し訳なさそうな顔をして、少女と共に部屋を出て行ってしまった。


彼はそしてその後、私の前に現れることはなかった。


次の日、宿の少女がご飯を持ってきてくれる。そのご飯は今まで見たことのないようなもので、おいしいなんて言葉じゃ言い表せなかった。涙が出てきてしまい、少女には変な子だと思われただろう。それでもよかった。それでもいいくらいに、そのご飯はおいしかった。


それから一週間ほど、私はその宿で過ごした。足が歩けるくらい良くなったら、彼を探そうと決心した。


宿を出ていく日、私は彼の名前を知らないか、宿の少女に聞いてみたが、少女も宿の主人も知らないようだった。


「知り合いじゃなかったの??」とその少女は驚いていた。



それからしばらく町で安宿に泊まりながら彼を探すも、彼は一向に見つからなかった。


数週間が経ったある日、その日も彼を探していると、私はある男女を見つけた。

それは確か、彼と一緒にいた、私たちが襲った商人の二人だった。


私は後先もよく考えず、藁をもつかむ気持ちで、彼らのところに駆けて行った。


私を警戒する彼らに対して、必死に彼に会わせてほしいと話す。しかし、私は耳が聞こえないので言葉の発音が分からない。きっと言葉になっていなかっただろう。


女の人は「どうして生きていやがる」といい剣を抜く。


その間に男の人が「まあまあ」と言って割って入った。


男の人が女の人を説得してくれて、私に話すように促す。私は話せないなりに、頑張って伝えようとする。


「お前、言葉が話せねえのか」そう言って女の人が私を見ると、来い、と言って彼らの宿で書くものを用意してくれた。


私はその紙に、彼らを襲ってしまった謝罪を心の限り書き尽くし、いままでの私の生い立ちと、その後彼に救ってもらったこと、彼を追って恩返しをしたいということをできる限り一生懸命伝えた。


二人も真剣に私の話を聞いてくれて、男の人は号泣していた。女の人はそれをみて「あんた、嘘をついてるんじゃなかろうね」と私を訝しんだ。


私はどうしてもほんとであるということを伝えたくて、けれど、どうすればいいかわからなくて紙に「嘘だとわかったら、殺していい。命を懸ける」と書いた。今の私に懸けられるものは命しかなかった。


それを読むと女の人は、はあ、とため息をつく。

「あいつは本当に異常だよ。お人好しを通り越して、もはやねじがふっ飛んで狂っていると言ってもいいくらいだね。」

そう呆れた表情で呟いた。


逆に男の人はそれを読んで、ひどく怒った。


「せっかくジーク君が救った命だよ!!そんな簡単に懸けてはいけないよ!大切にするんだ!」と。


この人たちも私を救ってくれたあの人と同じで今までの私の知っている人たちとは何か違った。


そして二人は私の命の恩人、ジークなる青年について語ってくれた。

曰く彼は、人に会うために海を渡って行ってしまったらしい。


私はひどく落ち込む。それではもう彼に会うことはできないのかもしれない。


落ち込む私をみて、女の人は「仕方ない、諦めな」と言う。


それから、男の人がこそこそと女の人に話しかけ、それから二人は何やら口論をしているようだった。私からは口元が見えず、何を言い争っているのか分からなかった。


最後に女の人がため息をついて、諦めたように肩をすくめる。


男の人は、私の方を見ると笑顔で紙にこう書いた。


「私たちと一緒に来ないかい?」


私はそれに驚く。もしかしたら、彼と関わりのあるこの人たちと一緒にいればいつか彼に会えるかもしれない。彼らを利用するようで気が引けてしまうが、私にはそれが彼に会える唯一の希望なのだ。


それに、彼らは商人と言った。私も力になれるかもしれない。そう思って私は紙に返事を書く。少しでも彼らが私を連れて行ってくれるように。


「私は計算ができます。商学もある程度ならわかります。あなた様方のお役に立つことができます。誠心誠意あなたたちに尽くします、なんでもします。だから、どうかよろしくお願いします。」


それを見ると、二人は驚いたようにそれを見て、顔を見合わせる。

そしてこちらを見る。


「ばーか、そんなことガキが気を回すことじゃねーよ。ったく」そう言って彼女はむくれながら、腕を組む。


男の人は泣いているのか、笑っているのかわからないような顔で、「それはなによりです。私のことはショニー、この女の人のことはゴエと呼んでください。これからよろしくお願いしますね」と紙に書いた。


私は頷く。


男の人が「あなたの名前は?」と紙に書くので私は首を振る。


私は生まれてこの方、名前を与えられて呼ばれたことがなかった。


それを見て二人は驚く。そして二人で相談したのち、ショニーが紙にゆっくりと書いた。


「あなたの名前は今日から……」


その日、私は名前をもらった。


私はその幸せを噛みしめ、絶望から私を救い出してくれた彼に必ず恩返しをすると心に誓う。





この少女が、のちに世界を股にかける大商会「ショニー商店」の礎を築き、そして歴史に語り継がれるであろう偉大なる勇者たちの一員になるとは、誰も思っていなかった。


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