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閑話 スラムの少女

物語の本筋には影響ありません。


私の人生には絶望しかなかった。


あれは何年前だったろうか、家が相当に貧しかったから、耳が聞こえなかった私はある日あっさりと、道端に捨てられた。それからが私の地獄の始まりだった。毎日、路地裏で捨てられる残飯をあさり、ゴミを食べ生き延びた。


そんな生きることに必死な生活の中で、私の唯一の幸せはたまに裕福な家や学校から捨てられる本を読むことだった。



私は周りの音が聞こえないから、本だけが心の拠り所だった。



スラムでの生活にも慣れて、ある日、私はいつもの住処で本を読んでいると、怖い男の人たちが私のところに来た。



「おい、お前、字が読めるらしいな。それに上等に計算もできるらしいじゃねえか。スラムに住むクソ虫が話してたぞ。感謝しろ、俺たちがお前を有用活用してやるよ。」



私は彼らの口の動きからそう言っているのが分かったが、反応はしなかった。あわよくば、耳が聞こえないと知って、帰ってくれないかと思っていた。


「おい、こいつ耳が聞こえねえんだよ、何言っても無駄だ。こんなクズ、落ちてる物と同じだ。力ずくで連れて行けばいいだろ」そう言ってもう一人が下卑た笑いをする。


私はまずいと思って、逃げ出そうとするが、腕を掴まれて、そのまま結局彼らに連れ去らわれてしまった。


彼らはここらじゃ有名な盗賊団で、港町の近くに拠点を構え、港町で貿易する商人などを狙って襲うのが常套手段だった。私は盗んだものの換金の際に、きちんと数字が間違っていないか、確認させられた。そのうち彼らの資金繰りもやらされるようになった。悪事に加担している罪悪感はあったが、逃げても殺されるだけだった。


それに彼らの待遇は良く、私は食事を毎日とることができた。

それでも、たまに、強盗に駆り出された。私は怖くていつも後ろで震えているだけで、役立たずと言われそのたびに殴られていた。


そんな生活をしながら数年が過ぎた、ある日のことである。いつものように彼らは強盗の算段をつけていた。


「女ひとりと男一人、それに子供が二人だ。」

「いひひ、いい鴨じゃねえか。」


また、誰かを襲うのだろう。


「おい、ガキ、おらよ」と言って彼は私に錆びたナイフを投げ渡す。

そのナイフは鞘にも収まってなかったので、私は怖くてそれを落としてしまう。


私が慌てふためく様をみて彼らは笑った。


「なんでいつもお前、あいつを連れてくんだよ。」

「いいだろ、オトリだよオトリ。それに俺が本当の戦いってやつをわざわざ教えてやってるんだ。」

「おいおい、嘘つくなよ。カシラが現場にいないからって、見えないとこでぴーぴーなく泣いてるこいつを殴ってストレス解消しているだけじゃねえか」

そう言って彼らは笑う。


私は彼らがいなければこんな裕福な生活、毎日食事にありつける生活なんてできない。



だから、仕方ないのだ。私は唇を嚙みしめた。



その日の襲撃は計画通りに進んだ。だが、標的の中に魔法使いがいたようだ。



「ちっ、魔法使いかよ、どうする?」

「相手は四人だ。人数で押し切れば行けるだろ」そう言って彼らを追い詰める。


「おいおい、氷にこもっちまったぜ」

「ははは、やっぱり為すすべ無しって感じじゃねえか、楽勝だな。」

「おい、硬いもんもってこい、これ壊すぞ」


そう言って彼らはその氷を壊そうとする。


「おい、お前も震えてねえで手伝え。どんなにザコでも氷くらい叩けるんだろ」

そう言い、殴られたので、私は持っている錆びたナイフで氷を削る。


けれどその氷は硬くて一つも傷が入らない。


彼らも氷があまりに固くて驚いていた。それはまるでダイヤモンドのようだった。


その時である。氷の中にいる私と同じくらいの年の女の子がこっちに歩いてくる。


すると、何か言った後に、魔法を放った。それは綺麗な青い炎だった。

私はまずいと思った。炎の色は温度によって変化するが、青は相当高温なのだ。


周りの盗賊たちも何かやばいと思ったのか、じりじりと後退する。


数秒も経たないうちに氷が溶け、炎が噴き出す。


私は咄嗟に避け切れずに、炎に顔を焼かれ、痛みうずくまる。


顔を上げると、周りのみんなが逃げてゆく。


「お、お前はここに残れ」


目が合ったうちの一人が恐怖に怯えた顔で、私にそう言ったのが分かった。


私は絶望する。足をくじいてしまったようでうまく立ち上がれない。次々と周りの人たちは逃げ去っていき最後には私だけ一人残ってしまった。


ああ、なんでこうなってしまったのだろう、私が何をしたというだろうか。


魔法使いの女の子はこちらにゆっくりと歩いてくる。そして私の前に立つと、「ごめんね、辛いよね」と言い、剣を抜く。


私はナイフを構える。手が震える。力も入らない。痛い。涙が溢れてくる。

それでも、ここで死にたくなかった。何のために今まで泥をすすって生きてきたのか、ここで死んだら、私の人生は本当に何の意味もないものとなってしまう。



女の子が剣を振るう。



私は思わず目をつぶった。




しかし、数秒が経っても、何も起こらない。

天国に来たのかな、そう思って目を開けてみると、私の前には男の子が立っていた。

その男の子が、女の子の剣を受け止めていた。


意味が分からなかった。それでも、まだ生きていることが、不思議で、理解が出来なくて、涙が止まらなかった。



結局私は、自分が襲おうとした人たちに、殺されることなく、その場に取り残されることとなった。



彼らが去ってゆく。

男の子は私を振り返って、申し訳なさそうな顔をしていた。



私は生き伸びた。



しかし、そのあと、少し歩こうとしたが、足が痛んで歩けなかった。

顔の火傷もとても痛くて、どうしようもなかった。


もしかしたら、盗賊の仲間が迎えに来てくれるのではとも思ったが、その望みはすぐに絶たれた。


次第に日が落ちる中で、震える体を抱え込む。


嫌だ、死にたくない。ゆく方向もわからないまま、地面を必死に這いずる。




朦朧とする意識の中で誰かが歩いてくる気がした。



「大丈夫」そう聞こえた気がした。私が聞こえるということは神様の声なのかもしれない。

私は神様が言うなら、大丈夫か、と安心した。






気が付くと、私は男の子とお湯につかっていた。


?????


私はこの状況が理解できずに戸惑う。

その男の子は今日私を助けてくれた男の子だった。



私は、意識が朦朧としていたから、何が起こったのか、全然思い出せずに、頭を抱える。


それにしたって私はなぜ、服をひん剥かれて彼とお湯につかっているのだろうか。


すると彼が私に向かって「顔の傷はどうだい」と言った。


顔の傷は痛むがそれ以上に戸惑いが大きかった。


私は、落ち着いて状況を整理する。私はたぶん彼に助けられたのだ。


彼が私の頭を洗ってくれていたらしい。私は自分の髪色がこの薄桃色であることを久しぶりに思い出した。風呂なんて人生で初めてだった。こんなにも心地いいものだなんて。


私はもしかしたら、ここは天国で私はやっぱり死んでしまったのかもしれないと思ったが、顔の痛みがそうではないと告げていた。


彼はそのうち、湯船を上がり、脱衣所に行く。彼は私の下着まで着替えさせようとしてきたが、私はそれを断固拒否して彼からもらった着替えを受け取り彼に隠れて痛む足をかばいつつ頑張って着替える。


こんな状況でも異性に着替えさせられるのはなんだか、気恥ずかしかった。


そのまま、彼は足を怪我する私を背負って宿に連れて行ってくれた。


彼の目的は何なのだろうか、私は頭をフル回転させながら、私を背負う彼の横顔をそっと横から覗き込む。


彼はそれに気が付くと、私を背負ったまま、「あまり動かないでくれよ」と言って笑った。



そんな彼を見て、胸の鼓動が高鳴る気がした。


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