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39 魔法の応用

時は正午を少し過ぎたくらいであった。


僕は町の門を出て、しばらく行くと、足に空気を圧縮するイメージをして空中に踏み込む。


シュルクがやっているのをみて僕もできないかやってみたかったのだ。


と言ってもどうしてもあれほどうまく魔力操作できないので、すごく一歩一歩が遅くなってしまう。とても不格好だ。


それでもゆっくりと上空へ上がってゆく。一歩一歩慎重に行かないと、落ちたら大変だ。

下を見ると、思ったより高く、全身がぞわっとした。


僕は、ふー、と息を吐いて自分を落ち着かせて、周りを見渡し、ショニーたちの馬車を探す。


僕の考えは、馬車を新たに用意しなくても、流されてしまったものを見つければよいのではないかというものだった。


あった、あれが例の氾濫している川だ。町から見ると北から南に向けて流れているようだ。商人のショニーたちの馬車は見当たらない。


とりあえず、シュルクのように空中を移動したかったが、まだそれほど魔力制御ができていない状態であれをやるのは、落下して怪我をするかもしれないので、階段を下りるように地面に降りてゆく。

川の方までは、魔法を使い、炎の推進力で地面すれすれを飛んで行く。



そのまま川の上流に行って、再び上空からショニーたちの馬車を探すと、ここより少し下流に横転している馬車を見つける。きっとあれだ。



馬車のところまで行くとそれは確かに昨日僕らが乗った二台の馬車だった。繋いでいた馬は、ショニーたちが町まで帰ってくるときに乗って帰ってきたのだろう、馬車だけがそこに横たわっていた。


周囲には中に積んである石炭のようなものが散らばっている。


思いのほか馬車は損傷していないが、まずはこの激流の中から馬車を救い出さなければならない。


そこで、少し考えて思いついたのが、川の流れを変えることだった。地面に両手をつき、地形を変えてゆく。


数分後にはそれまでとは全く違う流れの川が出来上がっていた。自分でも、その光景に驚くほどだった。


ふう、と汗をぬぐい馬車のすぐそばに立つ。どうやら大きな損傷はないようだ。


僕一人で持って行ってもいいが、散らばった貨物などもどうにかしなければいけないので、ショニーたちに伝えて、一緒に来た方が手っ取り早いかな。


僕は急いで町に戻り、ショニーたちの宿に向かう。


彼らの宿の部屋をノックすると、「は~い」という返事と共にショニーさんが出てくる。



「ほ、本当かい!?ジーク君!!」と僕の話に驚き隣の部屋にいるゴエを呼んできた。


「あれだけの激流だからね、普通はばらばらになってしまうし、今日の朝流されたところを馬で見に行ってもね、どこにもか見当たらなかったから、諦めていたのだよ。」


ショニーさんは大喜びしていた。


「すまないね。」と言ってゴエさんが僕に頭を下げる。


「いえいえ、元はと言えば僕たちがショニーさんたちにご迷惑をかけてこんなことになってしまったので、本当に申し訳ないです。」と謝ると


「いいんだよ、ジーク君。それよりも馬車を見に行こう。案内してくれるかい?」とショニーさんは笑った。ショニーさんは果たして怒ったり感情を露わにしたりするのだろうか、とふと思った。


僕はニナとポロを途中で宿から広い、四人と一匹で馬車を見に行くこととした。


ショニーさんとゴエさんが馬を連れてきたのでそれに二人ずつ乗る。

「ポロはどうする?」とポロに聞くと「走るわ!」とニナが答える。

マジですかいという顔で僕とポロがニナを見る。


結局ポロは馬と一緒に走って移動することになった。それにしてもポロは早い。

ポロは馬を先導するように走っていた。余裕そうだ。


こう見るとポロがすごく狼に見えるのだけど、ポロって犬なの?狼なの?と自問しているとニナと一緒に乗っているゴエさんが僕に声をかける。


「日暮れまではあと2時間ってとこだね。ジーク、馬車まではどれくらいかかるのかい」


馬だと30分と言ったところだと思いますと答えると「そうか」と言って前を向く。


日が暮れてしまうとなかなか作業もしにくいと思うので、それまでには馬車をどうにかしたいものである。


しばらく走って、馬車のところに到着する。


「これ、お前がやったのか……?」そうゴエさんが僕に聞くので僕は頷く。


「すごいな、これほど魔法が使えるものは見たことねえ」


僕は少し照れ臭くなり、誤魔化すようにショニーさんに馬車の様子を聞く。


「どうですか、ショニーさん。馬車の損傷度合いは」


「流されたにしては本当に奇跡と言えるほど、傷は少ないですが、この車輪の軸が折れてしまっているので難しいかもしれませんね。」


そう言って彼は前輪の左右を繋ぐ車軸を指す。僕も見てみると確かに折れてしまっていてこれでは走れなさそうだ。


少し待っててくださいと言って僕は馬車に駆け寄って、魔法で車軸の木を動かして修復するイメージをして魔力を込める。きっと固体を動かす感覚は同じはずだ。


木はまるで生きているかのようにうにうにと動いて何とか修復できた。


それはきっとかなり不格好で、僕の魔力精度は本当に粗いことを自覚する。


それでもショニーさんとゴエさんは顎が外れそうなほど驚いていた。


「とりあえず、応急的に直してみました。それと、どうにか倒れてしまっている馬車を起こさなければなりませんね」


ショニーさんとゴエさんがコクコクと頷く。


三人でどうしようか考えていると後ろからニナが倒れている馬車の地面を操作して馬車を立てればいいかもと、提案してきた。確かに。


僕はそれに従ってゆっくりと馬車の側面が接している地面を盛り上がらせて行く。

ずずず、と音がしながら馬車が起き上がった。


提案したニナまでも開いた口がふさがらなくなっていた。


「魔法って便利ですね~」とショニーさんがつぶやくと、こんな魔法がほいほい使えたらたまったもんじゃないよ、とゴエさんがため息をつく。


僕はお役に立ててよかったです、と頬をかいた。


そのあとは馬に馬車を引かせて町まで帰り、ショニーさんがご飯をご馳走してくれるというので、その言葉に甘えて、一緒に晩御飯を食べることとなった。


ショニーさんが選んだのは「シャントの酒場」という、僕らだけでは絶対に入らないであろうにぎやかな店だった。

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