35 足止め
それは突然だった。
ある日の午前、私がいつものようにポロと遊んでいると、爆発のような音がした。
何があったのかと、ガローを振り返ると、ガローと知らない男の人が戦っていた。
その戦闘の規模に圧倒されて、私はただそれを遠くから見ることしかできなかった。どうやらその後の様子だと二人は親しげで、きっと古い知り合いなのだと思い少し安心した。
けれど、それからすぐに、何かが現れ、私はポロに守られるまま、気が付いたらガローが大けがをしていた。
私は訳が分からず、ガローに泣きついた。ガローがいなくなってしまうことが怖くて怖くてたまらなかった。
だけど、ガローはそのまま私を残して、死んでしまった。
いなくなってしまった。
私はまた一人ぼっちになってしまった。
それからのことはよく覚えていない。とにかく悲しくて、どうしようもない暗い世界に一人取り残されてしまった気がした。
私はその絶望の中に飲み込まれて消えてしまった方がいっそ楽なのではとさえ思った。
それからどれくらい時間がたったのかわからない。
ある日、その暗闇に一筋の光が差した。もう、二度と見ることのないと思っていた、淡い光が私を照らした気がした。
それがジークだった。ジークの優しさだった。
もうこれ以上何かを失うのが怖かった。何かを失うくらいなら最初からいらないと思った。けどジークはそれでも、と、私に手を差し伸べてゆっくりと暗い悲しみの底から救い上げてくれた。
彼は優しくて強い。ちょっと、おっちょこちょいで、困った顔や困ったときに頬をかく癖がまるでガローみたいで、私が泣くとすぐに心配してくれて。
そしてたまに見せる真剣な顔がとてもかっこいい。
私はちらと肩に乗るジークの顔を盗み見る。まつ毛がながいなあ。
その無防備な表情に私は思わず頬が緩む。
今日もジークに助けられてしまった。
ジークには助けてもらってばかりだ。
私を救ってくれた、ジークのために私は何ができるのだろう。
私は揺らめく焚火を見ながらそう考えていた。
*
首が痛い。どうやら僕は座ったまま眠っていたらしい。
ごめん、寝ちゃった、とニナに謝ると「いいの」と言って彼女は少し顔を赤くしていた。
僕はよくわからずに首を傾げた。
さて、今日の目標は森を抜けることである。北の森ともしも同じならば今日のうちに森を抜けられるはずである。
僕は寝違えたように痛む首をコキコキとほぐしながら薄暗い森を進んでゆく。
やはり、日が出ているうちは獣もそんなに活発化しないのか、出会うことなく、日が傾きかけたころに森を抜けた。
森の抜けた先は草原で、心地よい風が僕らの頬を撫でた。
「順調ね」というニナに僕も頷く。うまくいけば、今日中に町につけるかもしれない。
しかし見渡してもなかなか道が見当たらなかったので、僕らはミラレスにもらった方位磁針を頼りに南へと進んでいった。
僕らが森を出てしばらくすると雨が降ってきた。それも大雨だ。
ニナと相談する。もうすぐ日も暮れる。このまま雨の中歩き続けるよりは、雨宿りをした方がいいと僕は提案した。
「それもそうね。どこかで雨宿りしましょう。」
と言っても、周囲は木もまばらで雨宿りできるようなところもない。
少し考えて僕は思いつく。少し前に本で読んだが、魔法のうち、新たなものを発生させるには多くの魔力が必要となるが、もとからあるものを操作するのに必要な魔力は比較的小さいと書いてあった。ということは土を変形させて簡単な雨宿り場所を作ることもできるのではないか。
僕は少し冷たい湿った地面に触れて「とりゃ」と力を込めて土を盛り上げるイメージをする。
出来たのは、大人が10人は入れそうな大きな土のドームだった。
手に着いた泥を払いながら、そのドームの薄暗い中を覗き込む。
中は真っ暗でよくわからなかったが、雨をしのぐには十分だった。
「こんなことできるなら初めから簡易テントなんて作る必要なかったのにね」とニナがぼやく。
僕は頬をかきながら困った顔をする。
「魔法でこんなことできるなんてびっくり」そう言って体育すわりをしながら膝に顎を乗せて僕を見る。
ガローは普段火か風の魔法ばかり使っていたし、ニナもそれを真似してか、その二つばかり使っている。
一方僕は、それらの魔法は殺傷・破壊能力が高いので力をうまくコントロールできないと周りに迷惑をかけてしまうと思って普段は氷魔法ばかり使っていた。
土や水を操作しているガローを見ていないし、それを説明しているのも聞いたことがないからもしかしたらふつうはなかなかやらないのかもしれない。
ニナが少し興味を持って土を操作している。
「ん、これは大変だね」
そう言って数分かけて20cmほどの小さな土の山を作る。
「だめだわ、なんだか空気を動かすより重くてなかなか動かしにくい。」
なるほど、空気より土の密度の方が大きいので、動かすのに必要な魔力つまりエネルギーが多くなるのも当然か。
だからガローはあまり使っていなかったのかもしれない。
魔法を使うにはイメージが大切だ。
具体的には火を起こすには空気を動かすイメージ、氷を作るには空気を止めるイメージである。
そしてその氷魔法の応用で生み出した氷を変形させる感覚は、土を操作する感覚と近かったので今回は比較的簡単にこの土のかまくらを作ることができた。
「なかなかやまないね」そう言ってニナは外を見つめる。
その日は結局そのまま雨は止まずに、その土のかまくらで夜を明かした。
次の日も雨は降り続けていた。
「どうしようか」僕はそう呟き、土のかまくらの入り口から濁った空を見る。どうやら止みそうにない。
食料は一週間ちょっと分あるので、余裕があるが、この中はいかんせん暇だ。
それでも、降りやまない雨の中、どこにあるかわからない町を探すわけにもいかなかったので今日も今日とて雨宿りをして過ごすことにした。
次の日も、その次の日も雨は止まなかった。
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