34 不思議な少年
僕は咄嗟に魔法で火を出そうと思ったが、そうすると、ここら一帯が火の海となってしまう。
かといって僕はまだ剣に火を上手く纏わせることもできないので、剣を右手に持ったまま左手で氷の壁を作るイメージをした。
ドンッと何かが氷の壁にぶつかり、氷が割れる。
僕はすかさず、その何かに剣を突き立てた。
何かは「キイイイ」と悲鳴を上げて僕の剣が刺さったまま、再び僕に突進しようとしてくる。
まずい、そう思った瞬間ポロがバッと飛んでその何かの首元に噛みつく。
何かははじめバタバタしていたが、次第に静かになり、そのうち動かなくなった。
「ありがとう、ポロ」
剣を引き抜くと、獣からどす黒い血が流れだしてくる。
それはイノシシのような獣だった。
しかし、それは僕の知っているイノシシよりはるかに大きく、姿も似ているようで似ていない。
ふう、僕らは一同安堵して、息を落ち着かせた。
「どうするの?」ニナが僕に聞く。
もしかしたら、血の匂いに誘われてより獰猛なものが現れてしまうかもしれない。その獣は燃やすことにした。
僕の制御できない火力では森ごと消し炭にしてしまうので、ニナにその獣は燃やしてもらった。
「ごめん」
僕が謝ると、いいの、と言って彼女は魔法を放った。真っ赤な炎が周囲の木々と彼女の真っ白な髪、整った顔を暗闇から浮き上がらせた。
ひとまず事態が落ち着いて僕はほっと息をつく。
ニナがこちらを見る。
「ジークはもう少し寝ていていいよ」
僕は首を振り、一応一緒に見張るよと言った。
僕して僕らは二人と一匹で焚火を囲んで夜見張りをした。
*
ぱちぱちという焚火の音と、たまに響く何かの鳴き声だけが場を支配していた。
突然、右肩にこつんと何かが当たる。私がびっくりして横を見るとジークが寝てしまって私の肩に頭を乗せているようだった。
心臓がうるさい。顔が熱くなる。
「つ、疲れているもの。起こしてしまうのはかわいそうよ。」
自分に言い聞かせて自分の肩に乗っているジークを見る。
*
ジークはある日突然ガローが拾ってきた。
その日はとても冷える夜で、外の空気はツンと肌を刺すようだった。
いつものようにガローと鍋を食べていると、ポロがむくっと顔を上げる。
「どうしたの?ポロ」
ポロはなんだか迷っている顔をしていた。彼がこんな顔をするなんて珍しい。
ガロー、ポロが何か困っているみたい、とガローに伝えると、ガローもめずらしいのうと言って不思議そうな顔をした。
それからしばらくしてポロはオオーンと鳴いて外にガローを引っ張り出す。ガローはなんじゃなんじゃと驚いていたが、「ちょっくら、待っといてくれ、ニナ」と言ってポロと二人で外に出て行ってしまった。
私はどうしたのだろう、と思いながら、鍋を食べていた。
少し経って、ガローが少年を担いで戻ってきた。闇夜のように真っ黒な髪の私と同じ年くらいの少年だ。少し離れたところで倒れていたらしい。こんな冬の夜に倒れているなんて不思議ね、というと、ガローは頷いたものの、何か難しい顔をしていた。
「ニナはこの少年が怖くないのかの」とガローが突然不思議な質問をしてくる。
私は少年の顔を見る。とても悲しそうで寂しそうな顔をしている。
私は首を振る。「この子、とても寂しそうだよ」というと、ガローはそうじゃのう、と言って、また考え込んでしまった。
その夜、ガローはその子の冷えた体を温めるために一晩中世話をしていた。私はそれを見ながら眠ってしまっていた。
次の日起きるとガローは私に話があると言って、私の方にやってきた。
「この子の面倒をしばらく見ようと思うのじゃ。事情もよく分からないしのぅ。これから一緒に暮らすことになるが、ニナはどうおもうかの。」
「いいわよ!この子こんなに寂しい顔をしているもの。きっと、もしかしたら、私みたく、お父さんやお母さんと離れ離れになってしまったのかもしれない。」
そういうと、ガローはいつもの優しい笑顔で私の頭を撫でてくれた。私はそのガローの温かい手が大好きだった。
その日、ガローが外で作業をしているときに、その子は目が覚めた。
ポロがその子とじゃれていたので、ポロをどかして、その子を見る。
その子は困っているような顔をしていた。
「大丈夫?名前は言える?どこから来たの?」その子はきょとんとしている。
言葉がわからないのかな。
「今ガローを呼んでくるね!」
そう言ってガローを呼びに私は外に出た。
その子は言葉が話せないようだった。
厳密には話せないというよりは私達とは違う言葉を話す子だった。けれど次第に生活に慣れてきたのか、私と同じ言葉を話すようになり、一年もたてば、意思疎通が取れるようになった。
名前はジークドーと名乗っていたが、変な名前だし、発音しにくかったので、ジークと呼ぶことにした。ジークはとても優しかったけれど、いつも寂しい顔をしていた。真っ黒な髪の毛とその暗く重苦しい雰囲気が相まって、彼を見ると私は心が痛んだ。
私にはそれが両親と離れ離れになったばかりのときの自分に重なって、できるだけこの子の寂しさを紛らわせてあげようとたくさんお話をした。
それからの日々は、とってもにぎやかで楽しい日々だった。
私が生まれてから13年たったちょうどの日、ジークは私に手作りのブレスレットをくれた。それは、白と緑の二色が綺麗に編まれていて、私にはまるで宝石のようにきれいに見えた。
ジークは「上手にはできなかったけれど、一生懸命作ったよ」と照れながら笑っていた。
私はそんな形でプレゼントをもらったことがなくて、本当にうれしくなって身も心も飛び跳ねる。ジーク曰く、それを手や足に着けて切れたら願い事が叶う、と言っていたが、私はそれが切れてしまうのが嫌で、大切にしまっておくことにした。
ジークは不思議そうな顔をしていたけれど、せっかくもらったものが壊れてしまうなんて嫌だもの。
そうして、私たちは、時に喧嘩したり、笑い合ったりして、本当に本当に幸せな日々を送っていた。
ガローが死んでしまう、あの日までは。
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