33 ジャングルの中にて
周囲に森ざるが集まってくる。
どうしよう、今ニナを離すことはできないし、ポロに森ざるの相手をしてもらうしかないか。頭の中でどうするか練っていると、目の前にぬっと大きな獣が現れた。
それは見覚えのある大熊だった。森の主だ。
「敵ではない、よな?」
彼は僕らをじっと黙ってみている。緊張した空気の中、森ざるのキーキーした鳴き声だけが響き渡る。
額を汗がつたる。
しばらくお互いに見合った後、森の主が小さい革袋を取り出して爪先で器用に掴み、僕に渡す。
「それを食べさせるといイ。」
僕は、少々戸惑いつつも、お礼を言って受け取る。これをニナに食べさせていいか分からなかったが、今できることはそれしかなかった。神にもすがるような思いで、野生化したニナの口に袋の中に入っていたものをつっこむ。それは木の実のようなものだった。最初は嫌がるニナだったが、次第に目がトロンとなって、眠ってしまった。
僕はそれを見て一安心する。毒消しのようだ。森の主にお礼をいう。
「ここら辺はロアンたちの研究のあとト、たくさんの実験動植物がそのまま放置されていてそれが何百年もかけテ、独自の進化を遂げてしまっタ。彼女が食べてしまったのもそのひとつダ」
そうして森の主は悲しそうな顔をして、
ロアンがいた頃はこれよりもずっとずっと美しい森だったのダ、そうつぶやいた。
「その姫はしばらくすれば起きるだろう。」
僕は頷いて、彼に革袋を返す。彼はそれを受け取り、背を向ける。
「お前も旅立ってしまうのだナ。それが宿命なのだろウ。」
そう言って、森の奥へと帰っていく。
その背中が何だかとても寂しそうに見えて僕は叫ぶ。
「また、必ず帰ってくるよ!その時に、君を探すよ。絶対また君を訪ねるよ!!」
森の主は一度こちらを振り返ってから、そして森の奥に消えてしまった。
ポロはその姿をじっと見つめていた。
*
彼は優しい目をしていル。もっと彼と話してみたかっタ。
ただロアンのようにまた彼と会えなくなってしまうかもしれないと思うと我はとても寂しいのダ。
だからそうだナ、期待しないで待っておこウ。
期待してはまた寂しくなるだけダ。
「また、必ず帰ってくるよ!その時に、君を探すよ。絶対また君を訪ねるよ!!」
彼の声がしタ。
我は胸が苦しい感じがして、悲しみを悟られまいとその場から立ち去ル。
どうカ、生きてまた帰ってきてくレ。
どうカ。
*
森の主が言った通り数分後にはニナは目を覚ました。
「んぅ、あれ、ジーク?私寝ちゃってた?」
いえいえ、君は、どこぞの悪役みたいなことになっていましたよ。
彼女はどうやら覚えてないようで、僕が彼女に事の顛末を話す。何があったかを聞くと、ニナは顔を真っ赤にして謝った。
「ご、ごめんなさい!も、もうそういう軽はずみなことはしません……」
俯く彼女の頭を僕は撫でた。ガローがいつもそうしていたから。ニナの髪は真っ白でとてもさらさらで触り心地はまるで絹のようだった。なんだこれすごい。
僕が彼女の髪の毛の触り心地のよさに驚いていると
「い、いつまで撫でてるの!」といって少し怒った表情で僕を見つめる。
僕も何か気恥ずかしくなって、「ごめん、つい、ニナの髪があまりにさらさらで」と手を放す。
ニナはぷいとそっぽを向いて、そう、と言った。
また二人の間を気まずい空気が流れる。本当にこういう時どうすればよいのだろうか。
「じゃ、行こうか、日が暮れる前に今日のキャンプ地を探さなければならないしね」
僕は誤魔化すようにそういうと彼女はうなずいて立ち上がった。
その日は森の中でキャンプだった。二人しかいない上に、以前のように小屋もなかったので、かわるがわる交代で見張りをすることになった。夜は獣が増える。警戒をするに越したことはない。
その日の夜、ニナとポロがテントで寝息を立てている中、僕は焚火の前で見張りをしていた。周囲には獣の鳴き声が時折聞こえる。
こうやって一人で焚火を見ているといろいろなことを思い出してしまう。それは楽しかった思い出や悲しかった思い出、つらかった思い出など本当に様々で、それでもやはり、悲しい気持ちが勝ってしまって、僕は気を紛らわせるように、座って焚火を見るのをやめて横で素振りをしていた。
見張りの交代の時間になったのだろう、ニナとポロが起きてきた。
なにやっているの、とニナがジトッとした目で僕を見てくる。
「明日からも歩いたりするんだから、そんな無駄な体力使わないの!!」
彼女がふくれる。僕は頬をかきながら、ごめんごめんと言ってテントに入ってゆく。
僕はテントに入ってすぐに、眠気が襲ってきて、意識が落ちて行った。
「……ってば、ねぇ!ジーク!」外からニナの声がする。
僕は跳ね起きて、テントから出る。
ニナが剣を構えている。
「ポロが、警戒している。多分何かいる。」
僕は剣をとってニナと背中合わせになって、剣を構える。
瞬間、バッと、何かが目の前の草むらから飛び出してきた。
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