32 涙の先に
出発の朝が来た。
ニナとポロがなかなかテントから出てこないので、僕は先にガローに挨拶を済ませてしまおうと、墓の前に座る。
この世界に来て、本当に沢山のことがあって、それで本当に多くのことをガローから教えてもらった。それは僕の中でとても大切なもので、この先僕を支えて、勇気づけてくれる気がした。
「ありがとう」
僕は頑張るよ。
「ガローが望んだ、僕が望む世界を、僕が作ってみせるよ」
手を合わせて、目を閉じる。この誓いを決して忘れてない。
そうして僕は立ち上がった。
ニナがいつの間にか起きていたようで、後ろで僕を見ていた。きっと邪魔をしないように静かにしていてくれたのだろう。
「わたしも、ガローに挨拶を言ってくるわ」
そう僕とすれ違いざまに言い、お墓の方に駆けてゆく。僕は少し離れてそれを見る。
お墓に向かって目を閉じる彼女は、朝日に照らされていることも相まって、まるで聖女のようだ。
それは可愛いというよりも美しかった。
彼女は挨拶を終えたのか、こちらに駆けてくる。
「ジーク行こう。」
僕は頷く。
そうして僕らは、思い出が詰まった故郷を旅立った。
歩き始めてしばらくすると、ニナがこっちを見る。
彼女がどうして僕を見ているのかわからなくて、不思議そうに彼女の目を見る。
すると彼女は、はじめ笑ったような顔をしていたが、だんだんと目尻が下がってきて、そして、耐え切れなくなったのか涙が彼女の頬を流れた。
声を上げて泣き出してしまう。
きっと頑張って我慢していたのだろう。頑張って最後くらいガローに明るくお別れを言って、立派に旅立つところを見せたかったのかもしれない。
僕も彼女を見ると、ついつられて涙が出てきてしまった。
泣けば泣くほど、いろんな思い出を思い出してきて、涙が止まらなかった。
僕らの旅立ちの始まりは、とてもかっこ悪いものだった。
それでも、どんなに涙を流そうとも、僕たちは決して歩みを止めることはなかった。
その日の夕方ごろに、森の縁まで来た。
「今日はもう日も暮れるし、森に入る前にここで一泊しよう」
そう僕が提案し、周りに落ちている枝や草でテントを作る。
ニナもポロと一緒に彼女らのテントを作り始める。
テントは二人分のものを作ろうと思うと、大きい枝を探す手間があり、大変なので各々で一人用のものを作るようにしていた。
初日は家から持ってきた干し肉を晩に食べた。
「味気ないね」
ニナがつぶやく。その夜は二人で黙って干し肉をかじりながら、焚火の火を見つめていた。
パチパチと焚火の火が弾ける。
もう二人とも森の獣の鳴き声は怖くなかった。
翌日の朝僕は少し早く目が覚めて、一人朝日を見ていた。以前、僕が初めて町に行くときも、こうやって朝日を見たことを思い出す。
その時はガローと二人で見たっけな。
僕は今でも忘れられないその光景を思い出す。あの時と変わらず朝日は美しく僕を照らす。
その日僕たちは森に入った。
日が高く登りきるまでは歩き続けて、お昼ごろになったので、いったん休憩することにする。
「あ、オルカの実だ!」そう言ってニナはするすると木に登り、木の実を頬張る。
う~ん、あま~い、と幸せそうな顔をする。
その瞬間、ポロがむくっと起きて、わうっとニナに向けて吠える。
「えっ」ニナが驚いた顔をする。
彼女の顔が固まった。ぎぎぎぎぎ、と不自然に首が動いて僕の方をみる。
「ジークどうしよう、やらかしちゃった。」
僕は何をやらかしたのかわからなくて首を捻る。
「ポロが焦ってる。何か私やらかしちゃったかも。」
彼女も何かをしてしまったことはわかるがそれが何かはわかっていないようだった。
突然、ポロがワオ~ンと遠吠えをする。それはまるで狼のようだった。
僕がそれに驚いていると、今度はニナが木に登ったまま、クラッと気を失うように落ちてきた。ポロが彼女の下に行き、受け止める。僕は何が起きているのかが分からなかったが、とりあえず本を取り出し、彼女に触れ『診断』の文字を押す。
数秒後、診断結果が出た。
『薬物中毒(原因薬物不明:lysergic acid diethylamideに類似)』
僕は新たに出たその項目を触れてみる。どうやら、毒のようなものをニナが食べてしまったようだが、本の記述にはなく、それに似た薬剤の説明があるだけだった。それによると、様々な精神症状、特に幻覚が起こりやすいとのことだった。最悪中毒症状で死に至るとも書いてあった。
僕はそれを見て焦る。必死に治療法を本から探していると、ニナは突然むくっと起きて僕を見た。
「さ、触るな、魔王!!」
そう言って僕からバッと離れる。
あ、これ、幻覚見ていますわ。
ニナは僕を睨んで剣を抜く。
やばい、どうすれば、と思ってポロを見る。
ポロは俺はやることをやったぜ、あとはお前の仕事だ兄弟、みたいな顔で、興味なさげである。
おいおい。
ニナが、叫びながら剣を振りかぶってくる。その剣は火を纏っていた。
本気じゃないか!と心の中で叫びつつ、僕は魔力全開で水を生成する。
ざばーと彼女に水がかかる。
これで少しは目が覚めてくれるといいのだけれども、と淡い期待を抱いたが、その願いもかなわず彼女は相変わらず鋭い眼光で僕を睨む。
「おのれ……」
君はそんなキャラじゃないだろ。
「はあああぁぁ!」
ニナが僕に切り込んでくる。
「ニナ、落ち着けってば!」
しかし、彼女は聞く耳を持たない。
今回は魔法を纏わせてなかったため、かろうじて、彼女の剣を避けると、彼女の手を掴んで、剣を落とす。彼女には悪いが、そのまま地面に押さえつけて無力化させる。
う~う~とニナがうなる。獣みたいだ。
僕はため息をつく。早くニナを治療しないと。
すると何か周りがガサガサと言っているのに気が付き、僕が慌てて見渡すと、森ざるたちが集まってきているようだった。
これは本当の本当にヤバいのでは……。絶体絶命を僕は嘆いた。
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