30 大刀の魔人
僕たちはさっそく困難にぶち当たっていた。
「はあああぁぁ!」
ニナが僕に切り込んでくる。
「ニナ、落ち着いてってば!」
「うるさい!魔王め!ガローの仇!」
おいおい、あの乱暴そうなシュルクでさえ、魔王に復讐しないと言っていたのに、君はやる気満々かよ。
かろうじて、彼女の剣を避けると、彼女の手を掴んで、剣を落とす。
「は~な~せ~、ガローの仇~」彼女は僕につかまれたまま暴れている。
僕はため息をついて、彼女を見る。
僕らの旅は前途多難のようだった。
*
シュルクとミクがいなくなったあと、ミラレスは僕たちに聞く。
「ジーク君、ニナちゃん、あなたたちはこれからどうするか決めていますか?」
僕たちが首を振ると、そうですよね、と少し考えた後、話を続けた。
「ジーク君、以前に薬の作り方をお教えすると言いましたが、正直に申し上げますと今のジーク君の魔力制御能力ではまだ無理です。もちろん、あなたはとても魔力が多いので、制御が大変だということは重々承知していますが、それでもやはり、繊細な魔力制御が製薬には必要なのです。
かといって、私はそれほどの魔力を持っていないですし、ガローさんと違って未熟ですのでジーク君のような人を鍛錬することができません。本当にごめんなさい。」
そう言って頭を下げる。
僕は、そんな頭を下げないでください、というと、彼女は顔を上げる。
彼女は話を続ける。
「それでですね、私から提案があります。この国には、一人私が知っている魔力がとても強い方がいます。
魔力が並外れて強いもののことを一般に魔人というのですけれども、彼がそうです。ここより、南に行き、海を渡って南西の方向に行ったどこかに留まっているはずです。
場所は詳しくはわかりませんが、魔人というのはそうそう多くいるものではありません。
それにその方は結構目立つ方なので、その方角に進んでいればそのうち居場所の手掛かりがつかめると思います。私からもあなたたちをお願いするよう手紙を書いておきますね」
彼女は「きっとあの人ならポルトさんの忘れ形見の子たちだといえば……うふふふふふ」と何か少し悪い顔をしていた。
僕はそれを見なかったことにした。
どれくらいかかるのか、彼女に聞いてみると、彼女は申し訳なさそうに「わかりません」と答える。
「数カ月、場合によっては一年以上かかるかもしれません。ただ、この国では今ジーク君が話している新魔語が通じますし、金銭もポルトさんが残したものがいくらかあります。
私も少しばかりお渡しできると思うのできっと旅には困らないと思います。ただ、冬の時期に関しては、どうしても雪があるので、どこかに数カ月は滞在した方がいいかもしれませんね。」
彼女はそうアドバイスをした。
なるほど、結構長い旅になりそうだ。その魔人とかいう人はどんな人なのか聞くと、曰く唯我独尊の四文字を体現させたような人物らしい。
大刀の魔人と言われていて、身の丈ほどもある剣を自ら打ち、振るう鍛冶屋兼剣士らしい。ミラレス曰くこの国の最高戦力だろうとのことだった。
どうして、ミラレスが知り合いなのか気になったが、それよりも僕は、その話を聞いていて、ふと自分がいる国さえ知らなかったのだな、と思った。
「あの、ミラ、ちなみになんですけど、この国ってどんな国なのですか」と彼女に聞くと、
「ガローさんはそんなことも教えていなかったのですか!全くもう」とぷんすかしながら教えてくれた。
どうやら、この国は、古代からあると言われる歴史ある国のひとつらしい。魔王国とも対立しているが、魔王国は西側の海を渡って大陸をずっと西に進んだ先で地理的にとても離れているため、戦争にはなかなかならないだろうということだった。魔法と剣術が発達していて、一説には魔法発祥の地とも呼ばれているらしい。
だから、ガローは魔王国から攻められにくい、この国に、ニナを連れてきたのかもしれない。
彼女が続ける。
「ここより南に海を渡ったさきに、魔法都市があります。厳密にはそこは魔法都市ではないのですが、まあ行ってみればわかると思います。私もそこで研究をしたくて、魔王国から出てきたので、もしも、そこを通ったらぜひ観光してみてください。」
ただでさえ魔法が発達していそうな魔王国から来るということは相当魔法が発達している都市なのかもしれない。
さすがにジークさんほどの魔力の方を教えられる人は、魔法都市でもいないと思いますけどね、と彼女は付け加えた。
僕はそんなこと全然聞いたこともなかったという顔をすると、ミラレスは、全くガローさんはそういうところが抜けていましたからね、と笑う。
「ただ、この国領土は小さいのですが、いくつかの島が集まって国家を為していますので、船を使って移動が必要なことは覚えておいてください。」
僕はそれを聞いてなんだか楽しそうだと思った。冒険のようだ。
「それでも、いい国ですので、せっかくなので先々で旅を楽しむといいと思いますよ」
そうミラレスが微笑む。
そして次に発した言葉に僕は耳を疑った。
「ここニホン国は皆さん優しいですしね」




