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29 旅立ち


赤い髪の女の子ミクと、オレンジ色の青年シュルクの怪我がやっと全快した。


彼らは今日ここを発つつもりらしい。



「世話になったな、ミラさん。」


ミラレスはいえいえ、お元気になって何よりです、と微笑む。


「この後はシュルク君とミクちゃんはどうするんですか?話を聞いた感じだと、もう魔王国には戻れないでしょう。」


「戻んねーよ、あんなクソ王国。俺にはやることがある。だから、まあミクを飢え死にさせない程度に、旅しながらあのクソ魔王をぶっ殺すために何かできないか考える。」


僕が口を開こうとすると、シュルクはこっちを見た。


「わーってるよ、じじいは、復讐なぞ、望んじゃいねえ。


けどな、確かにじじいが殺されたこともそうだが、魔王の野郎は、このままだと諸国片っ端から滅ぼして、焼け野原にするつもりだ。狂ってるよ。だから、俺が魔王をぶったおす。俺は復讐者じゃねえ、じじいの息子でその意志を継ぐ男だ。みんなを守るために戦うんだよ。」


そう言って胸を張る。



何を思ったのか、彼はガローの墓の方をみて大きく息を吸ってから叫ぶ。


「くそじじい、絶対にてめーの望んだ世界ってのを俺が作ってやるからよ!!!せいぜいそこで指をくわえてみてろ!!!」



彼はふぅ、と息を吐くと、

「行くぞ、ミク」と言って、少女を抱え、彼は空中を蹴る。そのまま空高くまで駆けて行った。


彼と話しているとき僕が足から魔法を出せることを教えると、シュルクは数日でそれをものにして、空中を歩くようになっていた。空気を足で圧縮するらしい。理屈としてはわかるのだが、まだ魔法制御が上手くない僕には少し難しかった。


ちなみにミラレスと、ニナにも教えたのだが、僕ら二人以外はなぜかできないようだった。


ミラレスに関しては「できるはずがありません!」と少し怒った顔をしていた。


シュルクは空中で、ふと止まり、少し考えた後、僕に向けて言う。


「おい。なんつーかな、その、あれだ。今回は本当に迷惑をかけた。もしお前がじじいの意志を以て、何かを為すなら、俺たちの道のりは違えど、歩みを進めていれば、いつかは交わる。


まあなんだ、その時もザコだったらぶっ殺すから、せいぜい強くなれよ、兄弟」


そういって背中を向けると、ミクを抱えてない方の手でひらひらと手を振った。彼らはあっという間にいなくなってしまった。





「シュルク、謝れて偉いね。それと兄弟よかったね。」


「な訳ねえよ、おれの弟があんなふわふわした野郎なんてがっかりだぜ。魔力はまあ、百歩譲ってどっかで見たようなバケモン級だがな。」


そう言ってシュルクは魔王を思い出す。


「素直にまた会おうねって言えばよかったのに。」


「うっせ」俺は少し照れくさくて顔を背ける。


「これからどうするの?」


「まずは修行だ修行。今の俺じゃ、あのクソ魔王の足元にも及ばねえ。じじいの意志を叶えるにも、お前やそこら辺のザコたちを守るためにも俺はもっと強くなんなきゃいけねえんだ。」


と言っても、本当に魔王に勝てるのか、この自分がそこまで到達できるのだろうか。若干の不安が頭をよぎる。


「大丈夫、シュルクならできる。」


「うるせえ」


生意気なこと言いやがって。


やってやる。なんたって俺はあのくそじじいの息子なんだ。


ありがとう、とミクに言いかけたが、こいつにそれを言うと調子をこくから言わねえ。


ちらっとミクの顔を窺ってみると、にやにやと俺を見てくる。


「シュルク、照れた」


「落とすぞ」



オレンジ色の髪の青年と赤い髪の少女はそのまま空を駆けて行った。







シュルクとミクがいなくなってから数日後、ニナはガローの墓の前に立っていた。


ニナがガローの墓の前に花を置く。


「じゃあね、ガロー。 行ってきます。」


ニナは墓に向けてそう言うと僕の方に駆けてきた。


「ジーク行こう。」


「うん」



そうして、二人と一匹は、踏み出す。


数え切れぬほどの大切な思い出がつまった故郷を背にして、もう彼らは振り返らない。



彼らの行く先には、青く澄んだ空が広がっていた。


それは英雄が最期に見た空と同じ、透き通るような青い、青い空だった。


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