閑話 姫への誓い
物語の本筋には影響しません。
ガローが死んでから数日が経った。
家が壊れていしまったので簡易テントを作って、ミラレスが女の子と青年の看病をしていた。
オレンジ色の髪の毛の男の子はシュルクというらしい。けがはそこまでひどくなかった。赤い髪の女の子の方はミクという名前で彼女も同様に重症ではなかった。あと数日もしたら治るだろう。
ミラレスはシュルクのことを知っていたらしい。
どうやらシュルクもガローに育てられたらしく、彼を探してこちらに来たらしい。
ローやミラレスが元々魔王国にいたことに驚いたが、それ以上に驚いたのは今回のことは魔王の仕業ことだということだった。
シュルクは自分のせいだといい、自分を責めていた。
僕は、複雑だった。彼が来なければ、ガローは死ななかったのだと思う一方で、彼の気持ちもわかる。僕もガローに突然いなくなられたら、彼の安否が心配で気になるだろうし、一目会いたいとも思ってしまうだろう。
それにガローは最後に僕に彼を責めないでくれと言った。ここで僕が彼を憎むのはきっとガローが一番して欲しくないことだろう。だから、僕は堪えた。
ガローの体は、僕とシュルクで墓を作って埋葬した。墓石には『ウルフ・ポルト』と刻んである。
ニナは相当ショックを受けていた。ニナは国が滅びて両親を失い、そして今はまたその自分を育ててくれたガローを失ってしまったのだ。
僕は彼女が心配で、ご飯も食べずにテントの中に閉じこもっている彼女の方の様子を見に行く。
「ニナ、入っていいかい」
答えは返ってこない。
「入るよ」そう言いテントの中に入る。
彼女は体育座りをして、足の間に頭をうずめていた。
「ご飯を食べないと」と僕が言うも彼女の返答はない。
「みんないなくなっちゃうわ。」
僕が彼女の横に座ると、彼女はポツリと呟いた。
「みんな、私に優しくするだけ優しくしていなくなっちゃうの。そんなことなら私は優しくなくてもいい、厳しくしてもいいから、ただみんなに一緒にいてほしかった。」
「もう、こんなことってないよ……。いっそのこと私もお父さんやお母さん、ガローのところに行ってしまいたい……。」
そう言って、静かに泣き始める。
僕は日本でずっと一人だったからこそ、わかったことがある。
それは大切なものは、それを得られない苦しみより、失ってしまうほうがずっと苦しいということだ。
それが自分の中で大切であればあっただけ、その寂しさは大きくなる。僕も日本でずっと一人だった時よりも、今の方が何倍も寂しかった。
だから、自分にとって大切なものを作らずに、見ないようにして生きてしまえばこんなつらい思いをしなくても済むと考えてしまう時もあるだろう。
でも、僕はそれでも大切なものを自分の中で明確にすることにした、その勇気をくれたのはガローだ。
僕は彼女の隣に座る。
「ニナ、そのままでいいから僕の話を聞いてくれるかい。僕はね、君やガローに出会う前は、ずっと一人だったんだ。両親も、家族もいなかった。それでもね、君たちに出会えた。それからの日々はまるで夢のようだった。
そんな日々はある日突然に終わりが来てしまうんだ。僕も本当に悔しい。
すぐに立ち直れなんて言わない、悲しいままでいい、寂しいままでいい。だからせめて僕に君のそばにいさせてほしいんだ。それが僕にとっての幸せの最後のあがきなんだ。」
悲しみはすぐには癒えない、けれど、癒えないからと言って、絶望に飲み込まれてはいけないのだ。ただ「生きていれば、いつか」という希望を失ってはいけない。
彼女はゆっくりと顔を上げて僕を睨む。
「そんなこと言っても、きっと、ジークもすぐに私のそばからいなくなるわ。」
僕は彼女から目を背けない。
「いなくならない」
「いなくなるわ」
「いなくならないよ」
彼女が怒気のこもる声で叫ぶ。「なる!」
「ならない」
「なるってば」
「ならない!!!」
僕がつい大きな声を出すと彼女は驚いたようにびくっとした。
一呼吸おいてから僕は落ち着いて話す。
「ごめん、驚かせて。でもね、ならないよ、ニナ。
僕は君を守るって自分に誓ってるんだ。本当はガローも守るって言ったのだけどダメだった。
……だからこそ、もう二度と大切なものを失いたくないんだ。死んでも守るとは言わない、絶対に死なずに守るよ。だから、ニナ、僕と一緒に生きようよ。」
ニナは、俯く。
「それでもジークが死んでしまったら?すごい強い奴に、理不尽な力でねじ伏せられて死んでしまったら?」
その時は…、僕は少し言いよどんでから、情けなく笑った。
「その時は、僕が死んじゃう前に、ニナに助けを求めてもいいかな。」
そう僕が言うと、彼女は下を向いたまま、約束、と言って右手を差し出す。
なんだろう、これは、えっと、どうすればいいのだろう。
僕が戸惑っていると、「もう!早くして!」というので、その手を取って彼女を立ち上がらせる。
「違う!!!!」彼女は顔を上げて怒る。ずっと泣いていたのだろう、彼女の目は真っ赤だった。
ごめん、約束の仕方知らないんだ、というと、彼女はぷんすかしながら、
「約束を誓う人は、その相手の手の甲に、その、く、く、口づけをするの。」
そう言って顔をぷいと背ける。なるほど、日本にいた時に絵本で読んだ騎士の誓いのようだなと思いつつ、僕は彼女の右手を取る。
「約束する。」
そう言って彼女の手の甲にキスをした。




