25 sideB オレンジの青年と赤の少女
その日俺たちは魔の子が新たにいるかもしれないというミクの情報をもとに、その真偽を確かめに来た。
魔王の野郎が、魔の子がいるならば、十人衆の誰かが行く必要があると言っていたので、俺が真っ先に名乗り出た。現在の魔王国において第五位の俺様がだ。理由は単純で、ミクがじじいを見たということを言っていたからだ。
じじいは数年前にダチの国を救うとか言って、出て行ったきり帰ってこなかった。だから、ぶっ殺してやるのだ。
俺は魔の子だった。生まれてすぐに、両親に殺されかけたらしい。
魔王国は比較的魔の子を保護する制度が整っていたようだが、俺はその杜撰な制度に引っかからず、スラムで魔の子として売り飛ばされ、奴隷商に、大人になったら国に高く売れるからという理由でどぶ飯を食わされて、4歳ごろまで育った。
なんで高く売れるかはその時の俺は知らなかった。
俺の人生に変化が起こったのはちょうど4歳の時だ。じじいが奴隷の摘発をしているときに、俺を見つけた。
そして、ひどく汚れた俺を抱きしめてこう言った。
「つらかったのう、もう大丈夫じゃ。」
ありきたりな言葉で反吐が出そうだったが、なんでかはわからないが、俺から出たものは涙だった。
その後はじじいは自分が育てるといい、俺を引き取ったらしい。じじいは本当にうざかった。優しいし、飯はまずいし、俺のためにいつも苦労していた。なんで俺のためにと何度も思った。それを聞くたびに、笑ってこう答えた。
「おぬしが大切だからじゃ。」
なんで赤の他人が大切なのか、わからなかった。
俺が8歳になったとき、俺はたまたま魔の子はすごく魔法が使えることを知り、じじいに魔法を使いたいといった。じじいは俺が何かをしたいというのが珍しかったのか、とても喜んで、じじい本人が魔法を教えてくれた。
じじいは魔人ではなかった。ちょっといいとこの平民生まれの両手の魔法使い、魔王国ではいわゆる魔士と呼ばれる立場だった。
けど、じじいはめっぽう強かった。
戦場では魔力が多くない代わりに、沢山の魔法と剣術を組み合わせることで敵を圧倒していた、らしい。
俺が拾われたときにはもうすでに第一線を退いて、町の治安維持のための組織を作って、もっぱら国内で悪いことをしようとしている奴らを取り締まっていた。
前になんで戦場に行かないのかを聞くと「わしに人殺しは性に合わんくてのう」と少し悲しい顔をしながら頬をかいていた。そういうじじいは情けねぇが、それでも市民を守るじじいは少しかっこよかった。
魔王国では一番強いものが魔王となる。そしてその次に強い上位十人を十人衆として第一位から第十位までランク付けするのだ。大体魔王が死んだら、第一位が次の魔王になる。魔王国は実力主義なのだ。
国を出てしまう直前までじじいは魔士にもかかわらず、何人かの魔人を抑えて第二位だった。そんなことふつうはありえないらしいが、じじいはそれをやってのけた。
さらに魔王国では十人衆の中から、功績に応じて、ウルフ、ベア、スネーク、ホーク、バタフライいずれかの称号を得るものがいる。これらの称号は、持っているからってなにもないらしいが、国民のあこがれだった。そこらへんのガキはいつか五神獣の称号を得ることが将来の夢ということは良く聞く話だ。
じじいは先代の魔王の時代に、山ほど活躍したらしく、ウルフの称号を得ていた。俺はそれが少しだけ誇らしかった。
じじいに魔法を教わって、みるみるうちに強くなって、俺はすぐに魔人として扱われた。
魔の子が魔人として扱われるのは年齢ではなく、その能力だ。だから天才だった俺はすぐに魔人になった。
魔人になった俺はすぐに魔王に戦場を志願し、この年齢では考えられないほどの功績を残した。それをじじいに自慢してやったらあいつの反応は俺の思っているものと違った。
おれはてっきりいつものように褒めるのかと思ったが、あいつはすごく申し訳なさそうな顔をしてすまんのう、と謝ったのだ。
なんで謝るのか聞くと、じじいは、俺に魔法を教えなければよかったなどとほざいた。俺には戦争に参加してほしくなかった、お前は人を守る優しい子だと。
ちょっとうざかったが、俺は仕方ないからしぶしぶ、じじいのいうことをきいてやることにした。魔王に直訴して、じじいと一緒に町の治安維持の仕事をやることとなった。
町では平民上がりの魔士であるじじいは英雄扱いで人気だった。実際は、いつもへらへらして頬をかいている情けないじじいだとも知らずにな。
事件があったのはそれから一年ほどが経ってからだった。
先代が死んで、新魔王になった元第一位のクズ野郎が、本格的に大規模戦争をはじめ、国を落とすといったのだ。じじいは反対した。
けれど、魔王の意見は魔王国では絶対で、じじいは十人衆をやめて、どっかに行ってしまった。
国を出ていくときに俺に残した言葉は
「シュルク、おぬしは優しく強い。お主はたくさんの人に必要とされている。それはおぬしが彼らを守っているからじゃ。その心を大切に、元気にやるんじゃよ」だった。
心底くだらねえ、と思った。
それでも俺は、じじいならサクッと解決して帰ってくるのだと思っていた。だから、じじいの言いつけ通り、日々努力と鍛錬をこなしていった。
数年経ってもじじいは帰ってこなかった。
ある日、じじいを探させていたミクがあいつを見たといった。
ミクは魔法を使えない人間で俺が奴隷商を潰した時に、奴隷として売られていたようで、たまたま気が向いたので飯をやったらついてきやがった赤い髪のガキだ。猫みたいなやつだと思った。仕方ないからじじいの真似をして面倒を見てやることにした。
ミクなりに色々頑張って、できることをいくつか身に着けたらしいから、危険が少なそうな役目を任せていた。魔法を使えない人間だしな。
ある日、ミクが同じ町にたまたま魔の子がいるかもしれないというので俺は魔王に魔の子を見つけたと報告し、自分が確かめてくると言ってここまでわざわざ足を運んだわけだ。
横を歩くミクを見ると、出店に興味を引かれるようで、じじいをぶちのめしたら、なんかおごってやるか、と頭の隅で考えていた。




