21 そうして物語は動き始める
ニナは次の日から早速、僕と同じく魔法の訓練に参加し始めた。魔法の訓練をしてしばらくすると分かったが、ニナの魔力規模はガローより大きい。
そしてニナは抜群にセンスが良かった。
「ほぉ、これが才能というやつじゃのう」とガローが驚くほどであった。
彼女は感じる、放出する、コントロールする、のうち最初の段階をすっ飛ばして魔法を放出させ、火の魔法を出したので、残るはコントロールだけだった。そのコントロールを訓練の最初わずか十分ほどでそれをこなしたのだ。
僕はそれを見てかなり落ち込む。
「焦るでない、おぬしが普通じゃ」
ガローが僕を慰める。
すると、ふと何か思いついたようで、ポンと両手を合わせて、魔力を流し込む相手をニナがやるといいのでは、と僕に提案した。
たしかに彼女は魔力量が多いし、放出速度もはやい。つまり一気にたくさんの魔力を放出できるのだ。いい考えだと思い、ニナを呼んで訓練を手伝ってもらえないかと聞く。
「いいよ~」と元気な返事が聞こえて、少し離れて魔法の練習をしていたニナが、ぱたぱたとかけてくる。
わたしはなにをすればいいの?と聞かれたので、手を合わせて魔力を流してほしい、と頼む。
すると彼女がおかしな反応で「てててて、て?」と聞き返してくる。
なにを驚いているのかと疑問に思いながらも、そうだよ、こうやって、と彼女の腕をつかんで僕の手に合わせて見せようとすると、顔を真っ赤にして「いやっ」と言って手を振り払われる。
僕はショックで呆然とした。
ガローもニナの突然の反応に驚いている。
僕の手はそんなに汚いのだろうか。いや、そんな訳がない。それならガローの手が汚くて、それと触れていた僕の手も汚くなった、つまりガローの手が汚い理論に基づき今回の状況を理解すると、今回はガローの手が汚くて……。
僕の頭がショックと驚きでショートしかけると、すかさずガローがフォローに入ってくれる。
「これこれ、ニナ、そういう言い方をすると、ジークも傷つくじゃろ。」そう言って彼女をなだめる。
「ほらこうやって手を合わせるだけでいいんじゃ」
そう言ってニナの手と自分の手を合わせる。ニナは黙ってガローと手を当てたままでいる。
ガローは、ホッと安心したように息をつくと、ニナの頭をよしよしと撫でて、「ほら、ジークも手を洗ってきなさい」と僕に言った。
おい、いま、自分の手が原因じゃないか確かめただけだろ。
僕の手はそんなに汚くないぞ、きちんと小まめに洗ってるもん。キッと彼女をにらむと彼女はうつむいたままで、顔は良く見えなかった。
僕はそのあと、五分間くらい手を洗っていた。
念入りに手を洗って戻ってくるとニナは下を向いたままだった
「頼むよニナ」と綺麗に洗った手のひらをみせて、お願いすると、下を向いたままコクリと縦に首を振って手を出した。彼女にとって僕の手はどれほど不浄に思われているのだろうか。
誰かに祓ってほしい。
僕はニナの手に両手を合わせると、ニナはビクッとしたあと、「じゃあ、流すね」と、ぼそぼそ言った。
手のひらから勢いよく魔力が流れてくるのがわかる。流れてくる魔力でその通り道がこじ開けられている感覚だ。
1秒くらいだったろうか、一瞬の出来事だったが、何かつかめた気がする。
目の前のニナを見ると、息を切らして「はあ、はあ、ジーク、すごい……。一秒も持たなかった」と相変わらず俯いてぼそぼそ言っていた。
ありがとう、多分感覚を掴めたよ、と伝えると、ゆっくりと顔を上げてのぼせたような赤らんだ顔で笑った。
僕は不覚にも胸が高鳴るような気がして、誤魔化すように「じゃ、じゃあ、やってみるよ」と魔力を放出してみる。上に向けて火を放つイメージで、両手を上にあげて魔力を流す。
せいやっ。
上空に向けて直径5メートルほどの火柱が雲を貫くように空高く伸びていった。
僕を含めて三人はそれをみて唖然としてしまって、ポロだけが興味なさげに、あぉ、とあくびをした。
*
その日、森の奥で大きな火柱が発生した。
それははるかに人知を超えていて、明らかに異常であった。
森の近くの村や町ではこれは何事か、魔王の襲来ではないかと言って、荷物を抱えて逃げ惑う人たちであふれた。
「あらあら、大変なことになっていますね」
ミラレスは天を貫く炎をみて、クスリと笑う。
そして、時同じくしてその街ではある人物がそれを見ていた。
それは少女のようで、赤い髪に小さなどくろの髪留めをつけていた。
「これは。シュルクに報告しなければだめそう。」
うつろな目をした彼女は、そう呟くと、その場から消えた。
*
僕は急いで魔力を止めようと手のひらをふさぐイメージをした。
すると次第に火が弱まってきて、ついに落ち着いた。
「こりゃ、制御に相当苦労しそうじゃのぅ」
ガローが呆けた顔で言った。




