20 大切にするということの難しさ
急いで家に飛び込もうとした瞬間遠くからニナの声がした気がした。僕は咄嗟に周りを見渡す。
すると、ニナは家から少し離れたところでポロにくわえられて、泣いていた。
数分後、火は無事に消えた。
僕とガロー焼け落ちた家を呆然と眺めて、何が起こったのかわからずにいた。
泣くニナをなぐさめながら、ガローは一体何が起こったのかを彼女に聞く。
彼女はポツリ、ポツリと起こったことを話した。
ニナの話を聞くとこうだ。
僕とガローが魔法の練習をしている間、いつもニナはポロと家や外で遊んでいるのだが、今日はたまたまやることが思いつかず、僕たちをこっそりのぞいていたらしい。
それでガローの繰り返し言っている魔法の使い方を聞いてしまった。
好奇心半分で家に帰ってから、囲炉裏に向けて魔法が出ないかを試してみたら、勢いよく火が出てしまい、それが家に燃え移ってしまったらしい。
「これは、火の魔法じゃのぅ」
焼け落ちた家をみて、そうガローがつぶやく。
つまり今回の犯人はニナだったということだ。
ポロは彼女を助けるために、火が家に燃え移ったのを見て、すぐにニナをくわえて、家から離れてくれたのだろう。
ニナは、ごめんなさい、とすすり泣く。
僕とガローは困ったような顔でお互いを見る。こういう時どうすればいいかどちらもわからなかったのだ。
とにかく、ニナが泣き止むまで待ってそれから話をすることにした。
ニナも魔法はうらやましいと思っていたらしく、しかし、自分は魔法を使えないから仕方ないことだと割り切っていた。だから、お遊び半分で真似をしただけだった。
けれど、魔法が使えてしまったのだ。
ガローは彼女が魔法を使う素質はあると知っていたようで、そのことは驚かなかったみたいだが、他者の助力を得ずに自力で魔法を発現したということはひどく驚いていた。
「自然に魔法が発現するなど、きいたことがないのう」
そう言ってガローは困った顔をした。
僕もガローも魔法を使うということは、それだけ危険に近づくということを知っているため、ニナに魔法を使わせたくはなかった。
その夜は夕食後、三人で今後どうするかを話し合った。
ニナは魔法を訓練したいと言った。しかし、僕もガローも彼女を戦争の道具に使われるなんてまっぴらごめんだった。
話し合いは難航した。
結局その話し合いでは結論が出ずに、話し合いは終わった。
僕もどうすれば正解なのか、さっぱりわからずに困ってしまった。とりあえずニナのところに行く。ニナは部屋の隅で体育座りをしていた。
ニナ、大丈夫かい、と声をかける。
「ジークはいいわよ。魔法使うことが許されているもの。なんで私だけがだめなの。」
そう言って僕をぽかっと叩く。
痛い。
僕は、ガローは君が大切なんだ、だから怪我をして欲しくないんだ、と彼女に伝える。
それを聞くや否や、彼女は目に涙を一杯貯めて、立ち上がる。
「私だって、ガローやジークが大切よ。だから、折角、やっと、みんなの力になれると思ったの。ずっと、守られてばかりで私だけは何もやっていなかったから。魔法が使えないから、今までは使えないって言われていたから、だから、剣術だって、狩りだって、頑張って、頑張って。
それなのになんで私だけお姫様扱いなの!私が女の子だから!?」
彼女は睨むように僕をみる。
僕は彼女のその瞳から伝わるやるせなさや悔しさが伝わってきて、言葉が返せなかった。
彼女も僕と同じだ。
ガローに助けてもらって、彼にたくさんの愛情を注いで育ててもらって、そして、だからこそ彼の力になりたいと思っている。
その気持ちは僕が一番理解しているはずだ。ガローとニナどっちが正しいとかはないんだ。だから、僕が自分で答えを探さなければならない。
彼女は一人ではない。僕がいる。これは驕りではなく決意だ。
「わかったよ。僕も、一緒にガローにお願いする。」
その代わり、僕が彼女を必ず、命を賭してでも争いごとから守らねばならない。そう固く決心する。ガローに話に行こう、といいニナを引っ張って外に出ようとしたとき、ガローが家に入ってきた。
多分僕らの会話を聞いていたのだろう。
ニナ、とガローは優しい声で彼女を呼ぶ。ぽりぽりと頬をかいて、気まずそうに言う。
「すまぬ、ニナ。わしがの、まだやっぱり臆病じゃったんじゃ。ニナの覚悟もわかってやれずにいた。怖かったんじゃ……。本当にすまんの……。」
そしてニナの前に立ち「明日からジークと一緒に訓練に来なさい」そう泣きそうな覚悟を決めたような顔で言った。
そういうと、ニナはパーッと顔が明るくなり、ガロー、ありがとう!と言って彼に抱き着いた。
*
甘やかすだけが愛情ではない、とミラレスは言っておったが全く的を射ておる。甘やかすというのは正味わしのエゴなのだ。
それはまるで草花にやる水じゃ。
その草花が愛おしいばかりに水をあげすぎると、次第にそれらは草花の根を腐らせて、枯らしてしまう。
きっと子育てもそうなのであろう。
彼らが強く地に根をはり、綺麗な花を咲かせるためにわしができること、それをすることが真に彼らに愛情を注ぐということなのかもしれん。
時には雨風が、彼らに強く吹き付けるかもしれんが、それが彼らの根をより強くするならば、それを見守るのもまた、愛情なのであろう。
何かを大切にするというのは本当に難しいものじゃ。




