19 生きるための命
魔法の訓練に加えて、僕は狩りの練習をガローと始めていた。そのうち、森の魔獣などを相手に魔法や剣術の実践訓練をするために、まずは狩りからということで、ガローと一緒に狩りを行くことになったのだ。
ところが、僕が狩りの練習をしてしばらく経った後である。突然ニナが「魔法はできなくても狩りの練習は手伝いたい」とガローに頼み込んで、同行することとなった。
その日は初めてニナが狩りに同行する日だった。ニナはなぜかいつもよりだいぶ緊張した面持ちである。
僕は横を歩くニナの不安そうな顔を見て、疑問に思いつつ、帰りに狩った獲物を積むための荷台を引く。
青く晴れた草原で草むらに紛れた動物を探す。
しばらく歩いていると、ガローが今日の獲物を見つける。大きな角を持った鹿のようだ。
「よし、ジーク」とガローに肩を叩かれ、僕は頷く。
僕は背中に背負った弓を手に持ち、狙いを定める。
弓を引き、離した瞬間、矢は目にもとまらぬ速さで飛んでいき、鹿に当たった。
血しぶきを放って、鹿が地面に倒れる、と同時に僕は走り、剣を抜く。
もし鹿が死んでいなければ、余分に苦しませてしまうだけなので、できるだけ早く仕留めなければならない。鹿の近くまで行き、確認する。どうやらまだ息があるようだ。
「ごめんな、辛いよな。」
そう言って僕は手持ちのナイフで鹿の首元を切り裂く。
その場で急いで血抜きを行い、そのほかの処理も行う。それを急いで家に持ち帰り井戸の水で洗って、氷魔法で冷やさねばならない。
だから、持ってきた荷台に鹿を積み込み、帰ろうとしたとき、どうやらニナの様子がおかしい。
彼女は俯いていた。
心配になって彼女の顔を覗き込むと、その顔はまるで恐怖と絶望が入り混じったような顔だった。
僕は一瞬彼女に何が起こったのか分からなかったが、もしかして、と思い至る。彼女は以前、森の主である魔獣の表情がわかると言っていた。それが本当だとして、もし、彼女が動物の感情を読み取れるとしたら。
本当にそうならば、この狩りという行為は彼女にとって「拷問」である。
彼女は我慢できなくなったのか、その場でしゃがみ込み、嗚咽を上げながら胃の中のものを戻してしまう。僕は体を震わせて泣く彼女の背中をさすることしかできなかった。
もしそうならば、もし本当に、動物の感情がわかるのならば、どうして今日、彼女はそんな辛いと分かっていることに付いてきたのだろうか。
彼女が落ち着くまで、しばらく背中をさすっている間、それをガローは心配そうに見ていた。
ひっく、ひっくと泣き続ける彼女は、しばらくすると立ち上がり、「ごめんなさい、帰りましょう。でないと、この子が死んだ意味がなくなってしまうわ」と弱弱しく言った。
僕らは少し急ぎ足でかえって、鹿の処理を行った。彼女をその過程を、まるで一つも見逃すものかというような目で見守っていた。
夜になって、三人で今日狩った、鹿の鍋を作る。料理を作っている間、ニナはうつむいていて彼女の顔は良く見えなかった。
鍋が完成し、食事の時間になる。ニナが鍋を取り分けた皿を持ったまま食べないので、僕らも食事に手を付けなかった。
ニナは湯気が立っている鍋を見つめていた。
しばらく三人の間に沈黙が流れたあと、彼女が意を決したように、鹿肉を口に運ぶ。大切に、味わうように、鹿肉を噛む。
「とってもおいしい……。」
彼女は、それを頬張りながら、ぽろぽろと涙を流して、泣いた。
それを見て僕とガローも鍋を食べる。とてもおいしい。だが、このおいしさは味付けなどではないかもしれないと思った。
「ニナ、僕が昔いたところでは、食事を食べる前にはいただきますって言うんだよ。僕たちが生きるために命をいただきます、ありがとう、という感謝の気持ちを込めて。」と彼女に伝えた。
すると僕が昔の話をすることが珍しいのだろう、少し驚いた顔をした後に
「とてもいい言葉ね。」
そう言って彼女は微笑んだ。
「……いただきます。」
静かに呟いて、彼女は再び鹿肉を頬張った。
「本当に、とってもおいしいわ……。」
その日の鍋は、少しだけしょっぱかった気がした。
*
魔法の訓練は困難を極めた。
魔法は、感じ、放出し、コントロールする、の三段階で発現させていくものだと頭では理解できているのだが、どうも僕はガローの魔力量では感じにくいらしく、なかなか感覚を掴めないのだ。
僕が魔法の訓練を続けて一か月がたっても、いまだ感覚が掴めず放出ができない。
そうやって、どうしたものかと困っていると、突然家の方から悲鳴が聞こえてきた。
僕とガローが急いで家の方に戻ると、家の一部が燃えている。
ガローが急いで水魔法を使って、火を消しにかかる。
「ニナっ!!」
ニナが中にいるはずだ。僕は燃えている家に戸惑いなく全力で駆けてゆく。




