18 魔法の習得
しばらくして顔を上げると、ガローは笑っていた。
僕が不思議そうな顔をすると、カッカッカッとより一層声をあげて笑った。
「よし、ジーク、今日からお主はわしの弟子じゃ!!わしの指導は厳しいから覚悟するんじゃよ!!」
そういって僕の肩を叩き、彼は家に戻っていった。
彼が家に入ると、ふぅ、と息を吐いて、焚火を眺める。
魔法を頑張れば、もしかしたら僕も人に必要とされる人になれるかもしれない。誰かを守ることだってできるかもしれない。
前世では誰にも必要にされる人間ではなかったから、守る人さえ僕の周りにはいなかったから。
焚火はより一層まぶしく燃え盛っている。
夜の風は心なしか夏の香りを運んできた。もうすぐ春が終わる予感がした。
僕も家に戻ると、ミラレスが微笑みながら、お帰りなさい、と言った。
「夜は春でも冷えますよ。ほら、ジーク君これを飲んでください。」
そういって僕にホットミルクを渡す。
ガローはニナのところで寝ている彼女の頭を撫でていた。
僕はお礼を言って、ミラレスからホットミルクを受け取る。
「ところでジーク君はどうして、薬の作り方を知りたいのでしょう。」
ちょうどホットミルクを飲み終わったときにミラレスが僕にそう聞いてきた。
僕は、ニナを助けられなかったことが悔しかったことを伝えると、彼女はそうですか、と言って少し黙ってしまった。
そして僕の目を見つめると、再び話を続けた。
「ジーク君、実は薬の作り方を習うだけでは、病に立ち向かうには不十分です。薬というのは病を払い、人を元気にする手段の一つであり、またその過程における一工程にすぎません。残念ながら、薬だけ作れても、人は治せないのです。」
彼女は真剣なまなざしで僕を見た。
「ポルトさんに魔法を習うそうですね。きっとその道はそう簡単なものではないでしょう。それでもそれを乗り切って魔力操作を習得したら私の町の店に来てください。ジーク君ならきっとできます。そして、その時に、改めて、ジーク君の決意をお聞きしますね。」
と優しい笑顔で僕に言った。
翌日から早速ガローの訓練が始まった。
それまでの剣術トレーニングに加えて魔法のトレーニングが加わった。午前が剣術、午後は魔法、夕方は狩りに同行するというものだった。それに加えて習慣となっていた朝のランニング、夜の筋力トレーニングは続けていた。
魔法の訓練の初日、ガローにこう告げられた。
「1年後、来年の春の終わりじゃな。その時に一つおぬしに試練を課す。それができれば、とりあえずはひよっこ卒業じゃ。それまでにその試練で死なぬようにおぬしを鍛え上げる。いいかね。」
僕は頷いた。
魔法を習得するまでには三つの段階を経なければならない。
一つは、魔力を感じることである。具体的には誰かに魔力を自分の体に流してもらうことで、習得するらしい。
二つ目は、意識的に魔力を自分の体から出すことである。自分の体に流してもらった魔力の感覚を頼りに、自分の体からも魔力を放出する。その際の魔力形態は問わない。つまり、火として出してもいいし、風として出してもいい。魔力形態はイメージが大切らしい。ここがなかなか難関そうだ。
そして最後は、その魔力をコントロールすることである。いわゆる魔力制御というやつだ。ここが一番魔法使いの技量が試されるところであり、ガロー曰く実はここが、一番難しいらしい。
僕はまず、第一段階に取り掛かる。ガローと向かい合って両手を合わせる。
ガローが、ゆくぞ、と言って僕に魔力を流す。
その瞬間手のひらから何かをまるで掃除機かのように吸い込んでいる感覚になった。
その感覚は手のひらから次第に腕に、そして胴に流れ込み、鳩尾当たりにおちてゆく感覚だ。
ガローが手を放す。
「はぁ、はぁ、どうじゃ。」ガローがやや疲労の顔を見せて僕に尋ねる。
何か流れ込んでくることはわかった、と答えるとそれでいいのじゃ、と彼は答えた。
「まるで底なしの井戸じゃな。これじゃ、いくらあっても魔力が足りんわい。」そうガローはつぶやき頬をかく。
ガロー曰く、僕の魔力許容量は大きい方らしく、ガローではまるで足りないらしい。
それはつまり、僕は魔法の才能があったということなのだろう。
そう僕が喜んでいるとガローは
「しかし、それは同時に魔法を使うことが困難であるということじゃ。考えてみよ、細い小川と、向こう岸が見えないような大河をせき止めるとしたら、もしくはその流れを御すとしたらどちらが容易で、どちらが困難であるかを」
そう言って僕を諭した。
僕がその言葉を真に理解するのはしばらく後になってからだった。




