17 魔の子
「僕が、魔法を使えたら、誰かの力になれるようにそれを使いたい。
ニナやガロー、ミラを守れるように。」
でも、それだけじゃないんだ。僕は絶望と幸せを知っている、だから。
「それと、世界のどこかにいる、暗く苦しい、深い絶望の中で、それでも希望を捨てきれずにいる人たちに手を差し伸べることができたらいいなと思う。
それは僕がガローにしてもらったことだから、今度は僕が誰かにもしてあげられたらなって。
もしも、魔法が使えなくたって、僕はそうしたい。」
今はそんな力はなくて、支えてもらっていてばかりだけどね、と自嘲気味に笑う。
風に吹かれて焚火が煌めく。
ガローは少し驚いたように僕の話を聞いた後、黙った。
とても長く感じられる、沈黙が流れた。
数分して、ガローは口を開いた。
「ジーク、いいかい。今まで、嘘をついていたことがある。
おぬしは、魔法を使うことができる。でもな、正直なことを言うとわしはおぬしに魔法を使ってほしくないのじゃ。だから、今まで嘘をついてきた。
魔法とはこの世界で有効な武力である。別の言い方をすれば、魔法とは戦争の手段なのじゃ。ゆえに、強大な魔法を持つものほど、戦いとは切っては切れん縁を持つことになる。
わしはの、長いこと戦場にいたからの、その恐ろしさが身に染みているのじゃ。次々と隣の者が死んでいく。敵を殺さねば自分が殺される。おぬしたちを、本当はそんな世界に関わらせたくないから、わしはおぬしたちに魔法を使わせたくなかったのじゃ。」
ガローは遠いどこかを見るような目で続ける。
「ニナを育てる前の話じゃ。わしは以前、その時にいた国である子を育て、その時は何の疑問も持たずに、彼に魔法を教えたのじゃ。ある日な、その子が、血まみれで帰ってきて、敵をたくさん殺したと笑顔で言った。それを聞いてわしはなんてことをしてしまったのかと絶望した。魔法を教えるということはそういうことじゃったのにのう。その時に後悔してから、もうこういう事は繰り返さないと決めていた。」
「けど、ミラに少しこの前怒られてのう、少し考えなおしていたのじゃ。そして今おぬしの言葉を聞いて、心が決まった。」
一息ついてから、ガローは聞きなれぬ言葉を言った、日本語でも、この世界で聞いたことのある言葉でもない。
『ソロム シークウィード ポーテス』
「己の為せることは己しかわからぬ、ということわざじゃ。わしの祖母は地元じゃちと名の知れた言語学者での、中でもこの言葉がお気に入りらしくてな、わしが小さなころはいつもわしにそう言っておった。」
ガローは意を決して、彼は僕を見る。
「ジークよ」
そう言って僕の手をとる。
「いいかい、これだけは忘れてはならん。おぬしの魔法は、その決意を現実のものにするために使うものじゃ。そのための力じゃ。むやみに人民を巻き添えにするような争いに利用されてよいような力ではない。」
僕は真っ赤に燃えている焚火の火をみる。
そして、ガローに向けて頷く。
「忘れない。
僕のできることは僕しかわからないんだ。
僕の為すべきことにそれを使うと誓う。」
大切なのは僕の決意。
ガローは、僕の目を見つめると、ニコっと笑い、いつものように僕の頭を優しくなでてくれた。
「意志を貫き通せば、貫けぬ壁などないのじゃよ。」
風が吹いて、ボッと焚火が勢いよく火を上げた。
*
年をとったのう。
詳しくは聞かないが、きっと彼は幼くして相当つらい人生を送ってきたはずである。
それは、彼が「魔の子」であるからだ。
「魔の子」は成長し大人になると「魔人」と呼ばれる。
魔の子はなかなか魔人になれない。ゆえに魔人の数は極端に少ない。
それには理由がある。彼らはとても弱く、愛されないからだ。
彼らは膨大な魔力を生まれたばかりのころから代謝せねばならず、体の負担が大きい。ゆえに体が弱く常に熱心に彼らを見てやらねばならぬ。
しかし、彼らは愛されないのだ。
彼らはその膨大な魔力を制御できないため、周りの人を常に膨大な魔力にさらすこととなり、その人たちに相当な恐怖を与えてしまう。
それはまるで剣先を常に喉元に突き付けられているかのように。魔の子は魔力のない夫婦から偶然でしか生まれないというのもそのことに拍車をかけている。
つまり普段から魔力にさらされていない者たちが、膨大な魔力に触れてしまうことで想像を絶するような恐怖を感じてしまう。
この子は自分の命に何か悪いことを起こすに違いないと本能が判断してしまう。
だから、魔の子は捨てられることが多い。もしも、その親の意思がとても強いものでも、普段感じないものすごい恐怖にさらされてしまうのだ、子が育て切る前に気がふれてしまい、多くが自らの命を絶つこととなる。
魔の子は生をうけてすぐに、訳も分からず、恐れられ、孤独になるのだ。
赤子が孤独で生きられるほど、世の中は甘くない。
だから、大抵の魔の子は魔人になるまえに死んでしまう。
ジークは10歳ほどで大森林に捨てられていた。これは信じられないことである。
なぜならそれはつまりその年まで誰かが育てたということであり
そんなことは、相当高度な治癒学・薬学の知識をもつものが、彼に嫌悪を抱こうとも、彼を育てるか、相当な魔力耐性を持ったものが彼を育てることができなければありえないからだ。
そうまでして、育てた彼を大森林に捨てるのも道理が通らない。
しかし、実際に彼はここまで育ち、ここに捨てられていたのだ。
これも運命というやつなのかもしれん。
せっかく自分がその彼を拾ったのだ。彼の力になれるなら、自分のできる限りのことがしたい。
もっと、わしがいるうちに平和な世の中を作ってあげられていれば、ジークも、そして「あやつ」もこんな思いをすることはなかったのに、自分が情けない。
ジークが望むなら、わしも全力で彼の為すことを応援しよう。人生なにがあるかわからんものじゃが、運命というのは数奇なものじゃのう。
ジークはいずれもしかすると……。
もし神がいるなら、おぬしはわしに期待しすぎじゃ、と笑えてきてしまったわい。




