16 決意の灯
「ほれ、こっちに来なさい」
やや緊張した面持ちでガローの横に座る。
「ジーク、ニナを助けてくれてありがとうのう」
僕は何もできなかったよ、そう言うと、「そんなことないわい」と言って、遠い眼をしながら話し始める。
「ニナは、わしの友の娘なんじゃ。彼は、一国の主じゃった。賢く、勇気があり、逞しい前途有望な王でのぅ。彼の国が攻め込まれたときに、彼が最後の頼みとしてわしにニナを預けたのじゃ。この戦うしか能がなかったわしにな。だからわしはその頼みを果たすために、大切にニナを育ててきたんじゃ。少し甘やかしすぎて、おてんばに育っているのも自覚しているがのぅ。そのニナを守れなくては、その友に見せる顔がないのじゃ。」
そう言って頬をかく。
だから、助けてくれてありがとうのぅ、とガローは微笑んだ。
「さて」
彼の目が真剣になる。
そして問いかける。
「ジークよ」
「おぬし、もしも、魔法が使えるとしたらどうしたい。」
僕はその言葉に驚いて、使えるの!?と思わず聞き返した。
「違う。もしも、魔法を使えるとしたら、おぬしは何を為すかを聞いておるのじゃ。」
そう彼は僕の目を見る。
僕はそう言われても少し困ってしまう。
いきなり何を為すと言われても……。もちろん魔法が使えたら、まずミラレスに薬を習って、今後ニナが、もしくはガローが病気になったときに治してあげたい。
あとは、そうだな、その魔法を使って旅をするのもいいかもしれない。
ガローとニナとポロと、様々な出会いを経験しながら、魔獣をバッタバッタと倒して、俗に言う冒険者として名を上げたりして……。
そこまで考えて僕は違和感があることに気が付く。
いや、何か違う。そうじゃないんだ。僕がこの世界で本当にやりたいことはなんとなくそうじゃない気がするんだ。
僕はふと思い出す。僕がこの世界に来たきっかけになった本に書いてあった言葉を。これまで何度も読んだその言葉を。
『この本には私が知りうる、私たちのすべてをできる限りもれなく記述したつもりである。それは私たちのようなものを救い助けるためだけではなく、どう生きるかをこの本を読むあなたに託すためである。どうか争いのない、私たちやそうでない人たちが幸せに暮らせる世界を作りだす勇者となって欲しい。あなたのできることはあなたしかわからない。―――ロアン』
焚火がぱちぱちと音を立てて揺らめいていた。
*
僕は昔からずっと一人だった。
親に捨てられたのか、親が早くに亡くなってしまったのかわからないが、物心がつく頃には親はもういなかった。
体がとても弱かったから、物心がついた頃にはずっと病院と施設を行ったり来たりしていた。
なぜか、昔から人に嫌われた。こいつは何かしでかしそうだ、と何もしていなくても言われた。
だから、何事も人より正直に、優しく、真面目であろうとした。人に迷惑をかけなければ、都合のいい人間であろうとすれば、嫌われないと思ったからだ。
それでも周りの人には嫌われた。僕の周りには一度だって人がいたことがなかった。
その一方で日本という国はどんなに嫌われても、孤独でも生きることができる国だった。
できるだけ人に会わない仕事をしたり、人に会わないように生活したりして嫌われないようにした。小学生の時、人がいない放課後に図書室で読んだときにどこにでもありふれてそうな本を見つけて読んだ。
その時見つけた「生きていればいつかいいことがある」というありきたりな言葉がずっと僕の心の支えだった。
実際僕の人生でそれまでいいことなんて一つもなかった。
けど、それでも、自分の生きる意味を見出せないままで、そのありふれた言葉にすがって、その「いつか」をずっと待っていた。
諦めることはできなかった。
それが僕の生きる意地であり、意味だった。
日本での生活から突然、雪原に飛ばされたとき、
絶対に死にたくないと思った。
まだ「いつか」は来ていない、だから絶対に死んでなるものかと。
おそらく世の中は非情で、「いつか」が来ずに死んでしまうことなんてざらだろう。僕もそこで死んでしまうのが普通だったと思う。
でも、だからって諦めるのは違うと思った。
だから諦めなかった。
なぜか僕は生きていた。
そして、ガローとニナ、ポロに出会った。
彼らは僕を嫌わず、優しく接してくれた。
初めてだった。人と触れたのは。人の身も心もとてもとても温かくて、いつだって涙があふれそうだった。
諦めなくて本当に良かった、と心から思った。
そのとき僕は気が付いたんだ。生きていればいつかいいことがある、という言葉は、その言葉が真かどうかは問題ではない。
きっと、その言葉を諦めずに信じ続けるかどうか、が僕の生き方を決めるのだ。
そんなことを教えてくれた彼らに僕は何ができるだろうか。
それを彼らに教わった僕は何ができるのだろうか。
焚火が風に吹かれて、ボッと音を立てた。
僕は覚悟を決めて口を開く。




