15 それぞれの無力
発熱の項目を読む。
『発熱とは通常体温が37.5°C以上を呈した状態をいう。発熱は様々な要因によって引き起こされるため、原因がわかっているものと原因がわからない原因不明熱がある。また熱型としては稽留熱、弛張熱、間欠熱、波状熱、周期熱などがあり……』
どうやら熱について書いてあるようだ。
僕は急いで治療を探した。
あった。
「発熱は治療の必要性がないものが多い。発熱の治療を有するものとして……」
文章を読んでゆくと、どうやら今僕にできることはニナに水分補給をさせることぐらいみたいだった。
本によると、熱が長く出ており、水分や食事が満足に取れていないニナに対しては、ただの水を飲ませるよりも経口補水液という、塩と砂糖を決まった分量溶かしそれに果汁を垂らしたものを飲ませるといいとわかった。長期間の発熱で、食事も水分も十分に取れない場合、水分不足とともにミネラル不足となってしまい、体内の水のバランスが崩れてしまうかららしい。
砂糖も塩も貴重なもので普段は少しずつしか使わないのだが、この時はそんなことを考える余裕もなく急いで本に書いてある通りにある程度の量塩砂糖水を作ってニナに飲ませた。
見る見るうちに元気になったというわけではなかったが、辛抱強くこまめに彼女にそれを飲ませた。
次の日、心なしか、ニナの血色は良くなった気がしたが、熱は下がらない。その日もできるだけ消化に良さそうなご飯を食べさせたり、作った塩砂糖水を飲ませたりして、ガローを待っていた。
その日の夜ガローはミラレスを伴って帰ってきた。
ガローはぼろぼろであった。僕たちが往復6日かかるところをほぼ2日で往復してきたのだ。
ずいぶん急いだのだろう、もしかしたら寝てもいないのかもしれない。
ミラレスは急いでニナを診て、少し考えた後、なるほどとつぶやいた。
「そうですね、ニナちゃんには、この薬でしょうか。」と薬をニナに飲ませた。
一通りニナの処置が終わったようで彼女は一息つくと、僕の方を見て、ジーク君もよく頑張りましたねと言った。
ニナはもう少しミラレスの治療が遅れていたら、危なかったかもしれなかった。それくらいに衰弱しきっていた。
僕は結局何もできなかった無力感と疲労が僕を押しつぶしそうだったが、彼らが帰ってきた安心感で、その日はすぐに寝てしまった。
数週間後、ニナは元気に外を走り回っていた。
ミラレスの治療のおかげですっかり良くなった彼女は僕の方に駆けてきて「ジークもほら、こっちにきて!すごい虫がいるのよ!!」とはしゃいでいる。
どうやら彼女の熱は、虫を媒介して感染するものだったらしく、時たま、森に入った人がそう言った症状を出すことがあるとミラレスは言っていた。本によると、それはライム病というらしく、ダニが媒介する感染症らしい。
ミラレス曰く「森以外でその虫に噛まれることはあまりないとおもうのですけどねぇ~」である。
多分一人でこっそり森に入っていたのだろう。僕は彼女の監視をより一層厳しくしようと今回の一件で強く思った。
当の本人はあまり反省していないようで、時々森に行きたがる。
今回の一件で、僕は考えていたことがあった。
それはミラレスに薬の作り方を習うことができないかということだった。僕がもし、薬を作ることができたら、きっと彼女を助けられたかもしれない。
目の前で苦しみもしかしたら死んでしまうかもしれなかったニナに対して何もできない自分が悔しかった。
ニナがまだ回復しきってないとき、しばらくはミラレスが家にいたのでそのことを相談した。
「それは難しいです。私の薬の作り方は魔法薬学に基づいています。ですから、私に習って薬を作るには魔法が必要なのですよ。それもうんと繊細な魔力制御が必要です。」
僕は肩をがっくりと落とした。
「諸々の応急処置などは教えられるのですが、すみませんお力になれなくて。」
彼女は困った顔そういった。
ガローはそれを静かに聞いていたが、やがて悩まし気に何か考え込んでいた。部屋にしばらくの沈黙が流れた。沈黙を破ったのはガローだった。
「ジーク、おぬしに話がある。夕食を食べたら外にきなさい」
立ち上がり、そう残して外に出て行った。僕はなんだろう、とそわそわしながらミラレスと夕食を食べ、外に出てガローを探した。家から少し離れたところでガローは焚火の前に座っていた。
焚火が風に吹かれていまにも消えてしまいそうだった。
経口補水液はペットボトルで買うと高いですが、作るとなると簡単です。




