11 町の魔法屋さん
店の奥には一つの扉と階段があって僕らはその階段を上っていく。僕が奥にある扉を不思議そうに見ていると作業場なのですよ、とミラレスが教えてくれた。
二階に上るとリビングのような部屋があった。二階が居住空間になっているらしい。
「部屋は余っているので自由に使ってくださいね。」
それを聞いて僕たちが戸惑っていると
「町にいる間はミラレスに世話になる。二人ともよくよくお礼を言うのじゃよ」とガローが僕たちに言う。
なるほど、どうやら数日はここに泊まるらしい。
ニナは自分の部屋を案内されるとすぐに、はじめて自分だけの部屋を手に入れたのがうれしいのかポロと一緒に部屋に駆けて行った。僕も自分の部屋を案内されて、そこに荷物を置く。ベッドと机だけがある簡素な部屋だが綺麗にしてあり、僕らの家よりも立派だった。
部屋で暇つぶしに本を読んでいるとご飯に呼ばれた。
リビングに行くと豪勢な食事が用意されていた。
「すごい!!」ニナは町に来てから終始興奮しっぱなしである。
かくいう僕もこんなたくさんの食事は日本での生活を含めて初めてで、目の前のごちそうを早く食べたくで仕方がなかった。食事が始まると口いっぱいにニナが食事を頬張りながら、明日はお買い物をしたい!などとガローに話していた。
僕もスープらしいものを口に入れてみる。野菜のうまみがスープに溶け込んでいてとてもおいしい。僕らの普段の食事は味が大雑把だから、こういう繊細な味の食事は新鮮だ。
僕は素直に、おいしい!とミラレスに伝えると、それは良かったです、と笑っていた。
食事を終え、一息ついていると、ガローがミラレスに普段の狩りでとれた獣、中には魔獣も混じっているかもしれないが、それらの一部を渡しているのを見た。
僕が不思議そうにそのやり取りを見ているとミラレスが説明してくれた。
ミラレスはどうやら獣や魔獣の素材から薬や道具を作ってそれを売っているらしい。ガローは僕たちの家の周りの森で獣を狩っているので、なかなかない手には入らない素材を持っていて、それを買うことでガローはお金を得て、彼女は珍しい素材を無駄な労力を使わずに手に入れられるそうだ。
門を通るときガローがお金を持っていたことが不思議だったがそういうことだったのか。
どうやらこの町には少し滞在するらしく、その間はここに泊まるみたいだった。
ニナはここ数日興奮しっぱなしで疲れたのか、しばらく家の中を探検した後、ポロと一緒に部屋に行き寝てしまったようだ。
せっかくの一人部屋を手に入れたので、ここぞとばかりに本を読もうと部屋に戻った。
しかし瞼が重い。その日は僕も旅で疲れていたのか早くに寝てしまった。
夜中、あまりに早く寝てしまったせいなのか目が覚めてしまって、どうしようかと悩んでいたらどうやら下の階の作業場で何やらミラレスとガローが話しているのが聞こえた。
僕の部屋はちょうど作業場の上らしい。好奇心から床に耳を当てて会話を聞こうと試みる。
「もう12歳ですか、ニナちゃんは。」
「うむ」
飲み物を注ぐ音が聞こえる。どうやらお酒を飲みながら話しているのかもしれない。
「あの子、どうしたのですか」
「いった通りじゃ、大森林に落ちておった」
「そうですか……。」
どうやら僕の話をしているらしい。
「あの、気が付いてらっしゃると思うのですが、あの子、あのジーク君は……」
と何か言いにくそうにミラが言うと、
「知っとるわい。だからこそわしが育てなければならないのじゃ」
ガローの口調はいつもよりやや乱暴で、少し酔っているようだった。
ミラは、ポルトさんは底なしのお人よしですね、と呆れたように呟く。
「けれど、育てるといっても、ポルトさん、あなたあの子たちに魔法を教えてないじゃないですか。」
「それは! わかるじゃろ……。もう同じ後悔はしたくないのじゃ。もう子供たちが戦うのを見るのは嫌なのじゃ。」
確かにわかります、と言った後、ミラは淡々と続けた。
「確かに、あなたが付いていれば、魔法を使えないこと、使わないことが最も安全だったのかもしれません。
ただ最近、ポルトさんも知っての通りより一層戦争は激化してきています。もちろん魔王国は次々と諸国を支配下に置いていっています。
そのような状況で、もし、あなたがいなくなった後、もしくはあなたが助けられない時に、あの子たちにもしものことがあったらどうするのですか。あの子たちは今のままではその時、為すすべなくきっと命を落としてしまうでしょう。
もうあなたも高齢です。厳しいことを言うようですが、この先ずっとあの子たちと一緒にはいられません。あの子たちももう大きいのですから、きっと分別がつきます。きちんと説明をして、せめてあなたがいる内に、自分の身を守る手段を教えてあげてはいかがでしょうか。
甘やかすだけが愛情じゃないのですよ。」
その言葉を聞いて僕は、当たり前のことを改めて再認識させられたようで衝撃を受ける。
そうだ、ガローはかなり高齢だ。ガローは魔法を使えるがそれ以外は人間と同じである。もちろん寿命も、だ。
だから当然、彼が僕たちより先に居なくなってしまう。僕たちは大好きなガローといつまでも一緒にはいられないのだ。
そんな当たり前のことを改めて理解すると僕は胸の奥が締め付けられる思いがした。きっとどこかでずっとこの幸せな生活が続くと思っていたのだ。続けばいいなと思っていたのだ。
ガローもなにか思うところがあるのか、黙ってしまって、無言の時間が続いた。
しばらく経って、彼が沈黙を破る。
「わかっておる、わかっておるがのう……。いくら年をとっても、どれだけ努力しても、うまくことを運ぶことなんてちっともできるようになんてならんもんなのじゃ。情けないのう。」
そう言ってガローはまた黙ってしまう。
僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がしてベッドに戻った。盗み聞きをしてしまった罪悪感とガローがいつかいなくなってしまうという寂しさで、いたたまれなくなってしまった。
なるべく何も考えないようにしてその日は再び眠りについた。
次の日、ニナ姫は睡眠によって完全復活を遂げていた。
元気なニナを見るとちょっぴり元気が出た。




