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5本目

「世界線て、わかるかね。青山くん」

 多々木探偵がいきなり聞いてきた。

「ええと、あのう……。ドラ●もんで言うところの複数ある未来、的なことですか」

「まあ簡単に言えば、そうだ」探偵はかっかと笑う。「過去を変えると世界線が変動(分岐)し、べつの1本が生まれる……てのは理解できるかな?」

「まあ、なんとなく」

「ボクたちはいま、まさに分岐したほうの世界線に移動したってわけ。吉田さんがハワイに行った世界が元いたX世界線。そして彼女がいまここにいる世界がY世界線」


「過去を変えた、てことですか……」

「そんな大したことじゃない」

「大したこと、あるわ!」すかさず吉田さんがツッコミを入れる。「おかげでワシのワイハー行きの予定が狂ったんじゃからな」

「吉田さんはすごい能力をたくさん持っているけど、なかでも特にすごいのが、過去へメールを送ることができる能力なんだ」

「Pメールといってな、ワシが開発しワシにしか使うことのできないアプリじゃ」女占い師は得意げに言った。「ちなみにPは過去(パスト)の頭文字じゃな」


 だんだんと話が見えてきた。

「つまり、吉田さんは過去の自分にメールしたんですね? ハワイ行きを中止して今日この事務所へくるように、自分自身を導いた」

「そのとーぅり!」吉田さんがドヤ顔でオレを指さした。

 背中を冷たい汗が伝う。いったい何なんだよ、この人たち! まさかオレ、(かつ)がれていないよな……。

 さっきのハワイへの電話がじつはガセで吉田は上のフロアで待機していた、とかいうオチだけはやめてくれよ?

「さて、こういう場合、余程のお人好しじゃないかぎり人はこう考える。さっきのハワイへの電話がじつはガセだったんじゃないか、と」


 多々木探偵はやはりオレの考えを読んでいた。オレは否定しなかった。てゆうか、誰でもそう考えるだろう。

「だが、これはマジなんだ」言って探偵は腕時計を見る。「青山くん、いま何時かな」

 オレは携帯で時刻を確認した。そして心臓が口から飛び出しそうになった。

 13時10分……あり得ない! オレがこの事務所へきたのが13時ちょうどで、それから1時間近く経っているはずなのに……。


「時間が、戻ったんですか……」

「戻ったというより、吉田さんがこの事務所へ到着したという事実、その事実を我われが観測した時刻が起点になっているんだ」

「じゃあ、もし吉田さんが15時とかにここへ着いた場合、オレらは未来時刻まで跳ぶんですか」

「いいや、」と探偵は頭を掻く。「試したことはないが、その場合、ただじっと15時まで待つことになるだろうね」

「あ、そうか。……じゃあ逆に、吉田さんがオレのくる前の12時とかに到着していた場合、どうなるんです?」

「それも試したことはないが、じつに興味深い想定だ。きみの話をボクが聞く前に吉田さんが事務所へくるわけだから、ボクにはさっぱり意味がわからないだろうね。だが吉田さんはきみの話をPメールでしっているし、きみは13時にここへくる。そうやって上手いこと世界は収束するんだ」


「ようするに、」女占い師の吉田さんが口をはさんだ。「そういったパラドックスを最小限に抑えることが、過去に干渉する上でのエチケットというかコツじゃな。任せろ、ワシの時刻指定は絶妙なんじゃ」


 開いた口が塞がらなかった。この人たち、化け(もん)だ。しかし、だからこそ水戸さんはオレと彼らを引き合わせたんじゃなかろうか。

 希望が見えてきた。そしてオレは探偵に聞かずにはいられなかった。

「そのPメール……ですか、過去に干渉できる能力と、水戸さんの事件をどう結びつけるつもりなんですか」

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