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最終話

 その日、オラは凶祥寺の人気店ヨンジェルマンで好物のテリヤキチキンサンドを買い、ベンチに座って食べていたんだど。念写アプリ石鬼(ジャッキー)をムービーモードで開きながら。

 ムービーモードでは、この世に未練を残して成仏できない魂を映し出すことができるし、撮影モードにすればその魂を激写することができる。

 オラの秘密のコレクションで、もちろん吉田先生には内緒だど。


 ん? ぶったまげたオラは思わずサンドイッチの中身をすこし落としてしまった。とんでもない上玉がムービーに映り込んだんだど。

 それはレオタードを着た女の幽霊だった。ムービー内の映像と、実際の人ごみとを見比べてみる。やっぱり完全に幽霊だど、しかも、なまら別嬪(べっぴん)

 オラは迷わず撮影モードに切り換えシャッターボタンを押した。激写完了だど。

 激写された幽霊は画像としてオラのコレクションに加わる。この世に未練を残して彷徨っているよりか、こっちのほうがハッピーだと思うど? 幽霊にとってもオラにとっても。



 その日、オラはハワイでヴァカンス中の吉田先生から言われて、凶祥寺の探偵を訪ねた。

 オラの念写アプリ九鬼(クッキー)をつかって、世界線変動時に起きるフラッシュを撮影しろとのことだった。あらかじめ撮影する場所を先生から聞いていたので簡単なミッションだったど。

 ミッションを終えたオラは探偵から報酬をもらった。1万円もくれたのでホクホクだったど。

 しかーし! 帰りの電車のなかで、どてらいことに気づいたんだど。

 先週石鬼(ジャッキー)で撮った画像が、なぜか消えていた。あのレオタード女の幽霊だど。

 どういうことだど、今朝まではちゃんと画像フォルダにあったのに……。考えられることはひとつ、さっき九鬼(クッキー)をつかったことだど。

 まさか、フォルダから九鬼(アプリ)へと伝って彼女は逃げ出したのかど? そんなの信じられない……理解不能だど!



 その夜、私は残業をしてとあるミッションに臨んでいた。今朝、多々木所長のところにひさびさにPメールが届いたことが、すべてのはじまりだった。

 Pメールを送ったのはもちろん吉田さんで、今回は所長と私、べつべつに行動せよとのこと。

 私はいま事務所で古新聞と(にら)めっこしている。ただの古新聞ではない、多々木探偵事務所がはじめて新聞広告を出した記念すべき号。

 この広告記事が今夜20時02分に消滅するらしいので、それを目撃せよというのがひとつめのミッション。

 もうひとつは、青山という男性に事務所から電話をしろとのことだった。


 もちろん私は青山に会ったことがない。が、どうやらべつの世界線では会っているらしい。そんなのは慣れっこなので、べつにどうということもないけど、特筆すべきは彼がその時刻に水戸さんに会っているらしいということ。

 吉田さんの指示で、私は青山に電話をかけ、そこにいるであろう水戸さんに電話を替わってもらう。つまり幽霊とお話しする……。

 うまく行くだろうか。いまから心臓がバクバクしている。それに比べれば広告記事の消滅など大したことじゃない気がしてきた。


 20時02分、紙面の文字が(おど)りだした。(まばた)きするうちに広告記事はべつのものへと替わっていた。

 そのあたらしい記事というのが、とても奇妙で私には引っかかった。が、とりあえずミッションを継続しなければならないので、私は青山の携帯に電話した。


「もしもし、」

「青山さんですか? 私、多々木探偵事務所の若林と申しますが」

 彼はすぐ電話に出てくれた。私はほっと胸を撫でおろす。

「あ、この間はどうも……」

「青山さん、あの」

 私は言い澱んだ。すぐ水戸さんに電話を替わってほしい、と伝えるべきなのは重々承知していたが、目の前の記事がどうしても引っかかる。

「……マーダーズのCDアルバム、お持ちでしょうか」

「マーダーズ、てバンドの?」

「はい」

「……ええ、持っていますよ」

 いったい何の話をしているんだ、と彼は電話口で思っていることだろう。私だってそう思う。けど、聞かずにはいられなかった。


「どのアルバムをお持ちですか」

「えーと、ちょっと待ってくださいね。いま棚を見てみます」

 電話の向こうでゴソゴソすること、しばし。そして彼は言った。

「オレが持っているのは1枚だけですね。『キル・ザ・モンキー』てアルバム」

「キル……え、」

「『キル・ザ・モンキー』です」


 私は聴き取れないフリをして、彼にもう一度タイトルを言わせた。そして満足した。

 事務所の広告とすり替わったあたらしい記事。そこに、そのバンドのそのアルバムが宣伝広告として載っていた。

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