28本目
アタシはとある秘密組織に属している。そこで仕事をしているおかげで、並のOLよりかはいい暮らしをさせてもらっている。
仕事の拘束時間は短く、稼ぎもいい。まあ、死んでしまったいまとなっては、どうでもいいことだけれど……。
仕事の有り無しにかかわらず組織からは毎日、定時連絡がある。それに応答しないと24時間後にエージェントが安否確認にやってくる。
アタシたちメンバーが捕まったり、裏切ったり、死んだりしていないかを組織が確かめようとする。そういうシステム。
つまり、近隣住人や業者がこのままアタシの部屋のドアを開けなかったとしても、24時間後にはエージェントがここへやってきて無惨な死体を発見するというわけ。
果たして24時間が経過し、組織が動きだした。まあ他人がアタシの部屋を訪ねるなんてことは滅多にないからね、てやかましいわ。
エージェントは組織が雇った人間で、アタシたちメンバーとは何のつながりもない。彼らは彼らで、ただ課せられた任務を全うするのみ。
うちへきたエージェントを仮にA君と呼ぼう。彼には組織からアタシの部屋の合鍵が渡されているはずだ。
が、A君はマンション入口のオートロックをこれで解除するようなバカな真似はしない。合鍵を使ったという記録が残るし、監視カメラにも映り込んでしまう。たとえどんな変装をしていようとも、だ。
A君はパラグライダーに乗って空からやってくる。マンションの吹き抜けを降下して9階の共有部分に鴉のように降り立てば、オートロックの問題は解決である。
合鍵を使うまえに彼はアタシの部屋のドアを引いてみる。開いた、だって施錠する間もなくアタシは爆死しちゃったんだから。合鍵は要らなかったみたいね。
アタシの死体を発見した彼は顔色ひとつ変えずに仕事に取りかかった。
まず携帯のアプリを使ってアタシの指紋認証をする。頭が潰れたトマトみたいになっている死体の場合、本人確認は必須である。
それから彼はクローゼットを漁り、アタシの一張羅を見つけ出した。これが言わば、アタシと組織とのつながりを示す唯一の証拠品となる。
その他の証拠はいっさい、ない。たとえば報酬の入金記録なども存在しない。組織はいつでも現金払いだし、銀行へ預金したのは他ならぬアタシ自身だ。
あとベタなところでは通話記録? もちろん組織と電話のやり取りなんて、しない。
定時連絡を含め、組織とは暗号を駆使したメールで連絡を取っている。それも海外のサーバを経由してだ。これを組織外の人間が解読するなんて、ぜったいにできない。