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27本目

 当たり前だが人はいつか死ぬ。その日がいつかは誰にもわからない。

 でもアタシにはわかる。死んだから。

 死んだ実感があるかと問われたら、そんなものは、もちろんない。けれど、これは(れっき)とした事実である。

 床に、潰れたトマトみたいになった頭をした自分の死体が転がっていたら、誰でも否応なしにその事実を受け止めることだろう。


 いまのアタシは、自分の死体を見下ろす幽霊だ。


 ひとり現場検証的なことをはじめてみる。生前最後の記憶は……そう、アタシは自分のマンションに帰ってきた。20時になるかならないか、くらいだったと思う。

 エントランスでオートロックを解除し、エレベーターで9階まで上がった。アタシの部屋・901号室のカギを開けて……そこから先の記憶がない。

 遺体が玄関に転がっていることからも、アタシが死んだのは入室してすぐのことと思われる。


 それにしても(むご)い死に方、てゆうか殺され方だ。

 首から上が吹き飛ばされている。爆弾でも破裂したのだろうか。だが火の手が上がった形跡はなく、家具も散乱していない。

 きっと爆発音が轟くこともなかったのだろう。近隣の住人がこの事態に気づいていないのが、その証拠と言える。


 犯人の目星はすぐ付いた。バーで絡んできたあの男・星影アキラだ。

 あのとき、アタシは間一髪で逃げ切った気でいたけれど、どうやら甘かったらしい。

 やつは万が一アタシを獲り逃がした場合の保険として、アタシの身体に爆弾的なものをセットしたと思われる。そしてそれは、ある時限で爆発する。

 きっと、あの催眠術によってアタシが身動きできない間に仕掛けたにちがいない。


 とにかくアタシの口封じにやつは成功したのだ。

 だんだんムカついてきた。てゆうか、マジで呪い殺してやりたい。この恨み晴らさでおくべきか!

 さいわいと言うべきかアタシはやつの住所をしっている。さっそく行って化けて出てやる。祟ってやる。


 怒りに身をまかせ、アタシは玄関のドアに突進した。すると、映画ゴーストのように、アタシの身体はドアをすり抜けて向こう側の廊下へ出ることができた。

 いい感じいい感じ。そのまま調子に乗ってマンションの吹き抜け部分にダイヴする。9階からダイヴですよ。

 なんか思ったよりもフワッとした感じでアタシはマンション1階の中庭へと舞い降りた。


 そのままエントランスを突き抜けようとしたところで壁にぶち当たった。

 物理的な壁ではない。何か目に見えないバリアーみたいなものが張り巡らされていて、アタシはそれ以上前進することができなかった。


 仕方がないので部屋まで戻ることにした。

 ふと思った、アタシって飛べるのかな、て。そこでマンションの吹き抜けを使って飛ぶ練習をしてみた。

 すると、びっくりするくらい簡単に飛べた。飛ぶってゆうか、これ完全に浮遊だわ。

 ふよふよと宙を昇って行く。目的の9階まできたところで、どこまで昇り続けられるか挑戦してみたくなった。

 が、やはり結果はおなじ。ある距離を境に、それ以上1ミリも先へ進むことができなくなる。


 アタシの部屋を中心に、どうやら半径50メートル以上の移動はムリらしい。

 部屋には自分自身の死体がある。つまり、そういうことなのだ。霊魂のアタシはこの可哀そうな亡骸(むくろ)から離れられない。


 これから、どうなるのだろう。

 誰かがアタシの遺体を発見し、警察へ通報し、司法解剖を受けてやがて埋葬される。そのとき、この移動制限は解けるのだろうか。

 それとも、埋葬されたらそこでジ・エンドなのか。

 どうしようもない不安と絶望のなか、アタシは自分の遺体に寄り添い、ひたすら発見されるときを待った。

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