25本目
そこで芽衣、おまえにもうひとつミッション追加じゃ。20時02分に広告記事が消滅したのを確認したのち、事務所から青山の携帯に電話するんじゃ。
青山の話によれば、その時間彼は幽霊水戸と会っているはず。で、芽衣は青山と電話がつながったら、彼にこう言え。水戸さんを電話に出してください、とな。
水戸が犯人を告発したいなら、これで用が足りるはず。また、青山の反応もしりたいところじゃ。彼が犯人ならば、その告発を阻止してくるじゃろうからの。
探偵にはミッションの追加はない。青山のアパートの前で、ただただ彼を見張れ。まちがっても張り込みに気づかれるなよ?
そんなわけで、今回は離れた場所でのおぬしたちの連携プレーが重要になってくる。健闘を祈るぞよ。
──吉田のお姉さんより かしこ
✞
Pメールはそんな文面で締められ、最後に青山の名前、住所、電話番号が書かれていた。
これでようやく理解できた。なぜ若林さんがオレに、あのタイミングで電話してきたのか。そしていま、なぜ探偵がここにいるのかを。
「つまり、その、オレのなかにヘンな悪霊がいたってことですか」
「そうらしいね、たしかめようがないけど」多々木探偵は頭を掻いて言った。「きみ自身には、そういう実感みたいなものはないの?」
「……ありません。さっき若林さんから電話がかかってきて、水戸さんに替わってくれと言われて、そこからの記憶がないんです。短いあいだ気を失っていたみたいだけど、オレ、気がついたら目の前に水戸さんがいて、そして」
そして彼女は無数の光の粒子となって消えた。あとにレオタードだけ残して。
「香坂宗雄って、誰ですか」
「悪霊がきみ以前に取り憑いていたと目される男さ。彼が失踪してもう1年になるけど。……そう、彼のアパートもこの沿線だったっけ。S駅のハイツ町屋田ってところ」
「え、」マジでびびった。「オレ、そのアパートに住んでいましたよ! 去年まで」
「……マジか、悪霊はきみに目星を付けていたのかもな。警察が香坂について近隣住人にも聴き込みをしたはずだけど、きみは何もしらなかったの?」
「ええ……」
オレが考えあぐねていると、いきなり探偵が膝を打った。
「そうか、きみのいた世界線では水戸さんは先月殺されたんだったね。……あれっ、すると悪霊はいつきみに取り憑いたんだ?」
一転して疑問口調になる。オレにわかるはず、ないだろう。
「それにしても、大丈夫なんですか。オレ、取り憑かれちゃっているんでしょ?」
「大丈夫と判断したからこそ、ボクはいまきみとコーヒーを飲んでいられるんだ」
探偵は胸を叩いて言った。本当にコロコロと態度の変わる人だな。
「Pメールの指示どおり、ボクはきみが部屋へ入ったあとドアの前で様子をうかがっていたんだが、数分もしないうちに異変が起きた」
「異変……」
「ああ、真っ黒いエクトプラズムみたいなのがドアを突き抜けて出てきた。そのあと白い、きらきらしたエクトプラズムがつづいた。白いほうは女性のかたちに見えなくもなかったな」
「オレは彼女が、たくさんの光の粒になって消えるのを見ました」
「うん、水戸さんの願いが叶って成仏してくれたなら、その直前の黒いやつは悪霊だったと思いたいね」
「大丈夫なんですか、そいつまた、誰かに取り憑いたりしませんか?」
「そこまで面倒見きれないよ」
この探偵、面倒見がいいのか適当なのか、わからなくなってきたぞ……。
「とりあえず部屋に突入しても大丈夫と判断したボクは、ドアを開けて、そしてきみの破廉恥な行為を発見し阻止したというわけさ」
「その節は、すいませんでした」
穴があったら入りたい、とはこのことだ。最低だよ、オレ。
「このレオタードは、ボクが預からせてもらう」
「まさか、あんた、それをクン……」
「するか! ……これは水戸さんにとって不利な証拠となる惧れのある品だ。彼女の名誉のために、ボクは永久にこれを外へは出さない」